第三章:Symphony
「誰だ……?」
スタンの目に映ったのは、全身を覆うようなマントを背に纏った男。
その手に握られた剣は鋭く光り、恐怖さえ感じさせる威圧感を放っている。
切り落とされた銃を確認すると、警備の男は悲鳴を上げて逃げ出していく。
「怪我はないか……"碧眼"」
「なんで……オレの目のこと!」
男の口から発せられた言葉は、スタンを酷く驚かせた。
極力、他人には隠し通していた自分の瞳のことを会ったこともない男が知っているのだから。
「闇じゃ、お前は有名だ。魔術書の使い手でありながら、悪魔の目を持ってるのだからな」
男の漆黒の髪は風に揺れる。扉の先から射し込む光に照らされて、輝いてるようにも見えた。
「ちょっと、話が読めないんだけど」
少女が頬を膨らませてつぶやいた。
「悪い!とりあえず、逃げるぞ」
呑気に話をしている場合ではない。
スタン達は急いでその場を立ち去った。
「で、自己紹介とか、しない?」
少女からの突然の言葉。沈黙の続いていた状態に耐えられなくなったのだろう。
「そういえば、みんな名前も知らないんだな……」
「そ。あたしはリオ・シャリウス」
少女は提案した自分から、とばかりに名乗り出した。
「オレはスタン・クリード。よろしく」
スタンもニッコリと笑って、自らの名を名乗った。
「僕は、ロイ・アズールだ。階級は闇騎兵軍、総指揮官」
「そっか。よろしくな。ロイ」
スタンは微笑みを浮かべると、早速とばかりに本題に移る。
「それより……目のこと。何でだ?」
スタンは先程とは打って変わって、真剣な表情になる。
「知ってる。確かお前の……」
「ハハ……そこまで知ってるのか。闇ってのは恐ろしいな」
スタンはロイの言葉に暗い表情を浮かべ、捨てるようにつぶやいた。
「そうだ。この目には……オレの弟が封じられてる」
「弟……」
リオは、切なそうに語るスタンを、見つめていた。
「両親は死んだんだったか?」
「ああ」
スタンは力無く返答する。嫌な記憶が彼の頭で巡り続ける。
「始まりはお前が……魔術書に触れたことからか」
「そうだ……そうだよっ!!オレが殺したんだ……弟も、母さんも、親父も!」
スタンは涙を浮かべながら、それ以上は思い出したくない。とばかりに、強く怒鳴り散らした。
「自分ばかりを責めることはない。危険な魔術書を記した人間にも罪はある」
「そんな気休め……クソ!」
スタンは悔しさを堪えきれず、俯いたまま愚痴を零す。
「気休め……か。そうかもしれないな」
ロイは軽く笑って、スタンの肩を叩く。
「調度いい、君を案内しよう。闇へ」
「……闇、へ?」