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第一章.Prelude

砂嵐の中を横断する、影があった。

旅をするにしては不自然な小さな影。

「あぁっ!もう!」

砂漠の中心で、少年は歩き疲れたのか、突然叫び声を上げた。

「……見渡す限り砂漠砂漠っ!暑いし!喉は乾くしっ!もう最悪だ……」

少年は駄々をこねる子供のようにもがき始める。

首を左右に振ると共に、彼の特徴ある真紅の髪が揺れ動く。

「水……ッ!」

そのとき、彼の瞳に何かが映った。それは、まるで希望の光だった。

「オッ…オアシス……ッ!!」

少年はすぐさま立ち上がり、目の前に見える水の宝庫へと足を進めた。

「よっし、蜃気楼じゃない!本物だ」

砂漠を歩き始め、早三日。久し振りに触れる、冷たい水に思わず声を上げる。

「うぉおっ!生き返る!!」

「ははっ。美味いだろ?坊主」

背後から聞こえた、男性の声に振り返ると、橙色の鍔広帽子を被った若い青年が立っていた。

「あんた……誰?」少年は睨みつけるように青年の顔を見た。とは言っても、警戒しているわけではなく、"坊主"と言われたのが気に食わなかったのだが。

要するに、彼は"子供扱いされる"のが嫌いなのだ。

「おやおや……そんなに怖い顔をするなよ。スタン君」

「なんで……オレの名前…?」

青年の言葉に、スタンと呼ばれた少年はキョトンとしている。

「さぁ……なんでだろうね?そんなことより、街なら此処から南西に向かった先にあるよ。今のうちに水分を補給していくといい」

スタンは何故か親切な青年の言うとおりに、空になった筒の中に水を蓄えると、南西の方角へ向かった。

「ありがとな、オッサン」

スタンが青年に礼を言うと、彼は不満そうに返す。

「おいおい、まだ26なんだがな」

「十分オッサンだろ」

「……うっ!」

しかし、それに対してもスタンは冷たく言い放ち、颯爽と駆けていった。


スタンは無事に街へたどり着くことができた。先程の青年のおかげだ。

(砂塵の街 リヴァル……か)

スタンが街の門をくぐり抜け、中へ入ると、曲がり角から一人の少女が急ぐように駆け寄ってきた。

「たっ、助けて!」

「へ?」

彼女はスタンの後ろに隠れるようにしゃがみ込んだ。

「てめぇもソイツの仲間か!」

後からゾロゾロと現れた数人の集団にあっという間に周りを囲まれる。

「うわっ!何すんだ!!」

「黙れ!この泥棒風情が…!警察をなめるなッ!!」

「はぁ!?」

突然のことに気が動転していたこともあってか、スタンもろとも彼女と一緒に牢へと閉じこめられた。



「どうしてくれんだよ……」

「……ゴメン」

横たわるスタンの隣でちょこんと座る彼女は、小さなつぶやくほどのか細い声で謝った。

「まぁ、いいさ……無実だってわかりゃ出してくれるだろうしな」

スタンは背負っていた革のリュックを下ろすと、中からオアシスでもらった水を取り出し、先程から俯いたままの彼女に差し出す。

「……いいの?」

「ダメだったらら差し出さねぇよ……」

「…ありがとう」

「なんでだ?」

「えっ?」

スタンが語りかけた突然の言葉に、思わず聞き返すしかなかった。

「なんで、追われてたんだ…?」

「それは……」

再び、彼女はゆっくりと下を見たまま黙ってしまった。

「盗んだのか?」

「違う…!取り返した…だけ」

その言葉にスタンは溜め息を吐いてつぶやいた。

「だったら、そう言えばいいだろ?」

「言えなかった……怖くて」

スタンは彼女の言葉に対し、思わず立ち上がった。

「怖いだと…ッ!?お前は罪を犯してないだろッ!!」

スタンは何を思ったか、思わず彼女の胸倉を掴み、怒鳴りつける。

「お前に……"本当の罪"を犯した人間の感じる恐怖がわかるのかよっ!!」

「……ッ!」

怯える彼女を見て、スタンはハッとして、つぶやく。

「悪ぃ……でも、言ってわかる相手じゃなさそうだな……」

「うん……」

「お前……大切なものを取り返そうとしただけなんだろ?」

彼女はコクリと、小さく頷いた。

「じゃあ……逃げるか?」

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