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#9 カスミが欲しかったアレ

「あれ……?」



 色々と食材などを買い、そろそろ帰ろうかというタイミングで、カスミは市場の端にこぢんまりと居を構える出店が気になり、そこへ足を運んだ。



「はぁ……」



 そこには15歳くらいの痩せた少女がおり、なんだか悲しそうな表情でため息を吐いていた。



「あの、すみません」


「あ、はい……?」



 その少女にカスミが声をかけると、少女はちょっとびっくりしながらも応対してくれた。


 そんな誰も他に客もいない出店にカスミがなぜ足を運んだかというと、店先にある透明のボックスに、見覚えのある白い粒が沢山入っていたからだ。



「これ、もしかしてお米ですか?」


「オコメ? えっと、一応ライスっていうものなんですけど……」

 

(ライス……! つまり、お米だよね! この世界にもあるんだ……!)


 

 まさかのカスミにとっては何よりも欲しい主食だった米が、ライスという名前ではあるものの、この世界にも存在していた。



「誰も買わないんですか?」


「そうですね…… 私の村で家畜の餌として育てられてたんですけど、近頃はより良い家畜の餌が出てきて、ライスが売れなくなっちゃったんです…… このままだと村が……」


「じゃあ、全部ください!」


「え、えぇっ……!?」



 偶然子供が興味を持ってくれただけとその少女は思っていたが、その当の子供であるカスミは、少女にライスを全部売ってくれと言い放った。



「う、嬉しいですけど、いいんですか……?」


「はい!」


「わ、分かりました。 袋詰めしちゃいますね」



 冷やかしじゃないか一瞬疑った少女だったが、カスミはよほどライスが欲しいのか、目をキラキラとさせており、その気が変わらない内に少女はいそいそとライスを袋詰めし始めた。



「カスミちゃん、ライスなんて買ってどうするの?」


「もちろん食べます!」


「「「えっ?」」」



 レネの質問に、食べるとカスミが返すと、クリスタとレネ、そして袋詰めしてる少女まで変な声を上げた。



「カスミ、ライスは食べ物じゃ……」


「私の住んでた所では、パンやパスタよりも食べられていた主食なんです!」


「そ、そうなのか?」



 クリスタもライスは食べ物じゃないと言ってきたが、カスミは有無を言わせない勢いでそう返した。


「脱穀もしてあるようですし、帰ったら早速何か作りますね!」


「う、うーん、ちょっと不安だけど、カスミがそこまで言うなら……」



 これまであまり自己主張してこなかったカスミが物凄い熱量を見せているので、クリスタはライスかぁ…… とは思いつつ、少女に代金を払ってライスを買ってくれた。


 なお、売れていないという事もあってか、その料金はびっくりするほど安かった。



「えっと、お姉さん、お名前はなんていうんですか?」


「私はマキっていいます」


「マキさん、ぜひまた来てください! もっともっと買いますから!」



 今回買えた米は大体15kgくらいで、炊飯器計算だと100合程だが、それを6人で食べるとなると、割とすぐに無くなってしまう気がカスミはしていた。

 


「ほ、本当ですか……? でも、私の村とこの街はちょっと距離があって、持ってこれるとしても同じくらいの量になるかなって……」


「そうですか…… あの、クリスタさん……」


「ふふ、そんなにライスが欲しいのか」


「……はいっ」



 カスミが何を言うまでもなく、クリスタはカスミが言いたい事を察してくれた。

 


「分かった。 なら、今日買った分が無くなったら、私達と一緒にマキの村へ行こう。 街の外にお出かけするのもカスミにとっては大事だろうからな」


「ありがとうございますっ!」

 


 そうしてライスの入手経路を確保したカスミは、マキが住んでいる村がメッコ村という名前である事と、大体の位置をマキに教えてもらい、出店を後にした。


 その後、調理器具を扱っている店にも立ち寄り、クリスタ達のパーティーハウスのキッチンに足りていなかった調理器具と、ライスを炊くのにちょうど良さそうな土鍋が売っていたので、それも購入し、ウキウキ気分で帰路につくカスミであった。




 *




「ふんふんふ〜ん♪」



 買い物を終え、丁度時間が昼食時という事もあり、現在カスミはパーティーハウスのキッチンで鼻歌を歌いながら料理をしていた。



「なんかすごいカスミちゃんご機嫌だけど、何があったの〜……?」



 そんな様子を見て、二度寝から目を覚ましてきたフィオが疑問に思ってクリスタとレネに質問をした。



「カスミが欲しかったものを買えたみたいでな」


「なにそれ〜……?」


「それが、ライスなんだよねー。 カスミちゃん曰く、美味しいらしいよ?」


「ライス〜……? 家畜の餌の〜……?」



 フィオもレネにライスを食べると言われて、ちょっと微妙そうな表情になっていた。



「できました!」



 ただ、ウキウキな様子のカスミが非常に可愛らしく、とりあえず悲しませたくはないので、食べてはみることにした。



「これがライスか?」


「あれ、なんかさっき見たのと違うね?」



 そんなカスミが運んできたライスを見て、まずカスミ以外の3人が不思議に思ったのは、お椀によそわれたライスが先程よりも少し膨らみ、温かそうな湯気を立てている事。


 

「ライスは水と一緒に熱すると、水を吸って膨らんで柔らかくなるんです!」


「なるほど…… まぁ、ライスはともかくとして、メインの皿はとても美味しそうだな」



 そう言うクリスタの視線の先のメインの皿には、先程買ったバイソン肉のカットステーキが載っていた。



「肉の上に何か乗ってる〜……?」


「これは大根を細かくすりおろしたもので、そこにポン酢という酸味のあるタレをかけています」



 そのバイソン肉の上には、大根おろしにポン酢をかけたものが乗っかっており、さらにその横には、キャベツを入れた味噌汁と、レタスやトマト、きゅうりで作ったグリーンサラダも並べられていた。


 カスミはちゃんと栄養バランスも気にして料理をしているので、毎食ちゃんと野菜を使った何かを作るようにしている。



「それで、ライスなんですけど、バイソン肉を食べて、それが口に残っている間にライスも一緒に食べてみてください!」


「分かった。 では、いただこう」



 カスミがライスの食べ方も伝えたところで、早速出来立ての料理を食べていくことになった。


 すると、クリスタ達は目を合わせて、まずはバイソン肉とライスを食べてみることにしたようで、それら2つを一緒に口に運んでいった。



「おお、これは……!」


「ん〜! お肉美味しい! しかも、ライスが凄く合う!」


「ライス自体に味はほぼ無いけど、なんか合ってる〜…… 不思議〜……」



 すると、クリスタ、レネ、フィオの3人とも、まずバイソン肉の大根おろし乗せの美味しさに驚き、同時にそのバイソン肉と見事な調和を見せたライスの美味しさにも驚きの声を上げた。


 ライス自体に味はほとんどないが、バイソン肉と一緒に噛めば噛むほど、バイソン肉の旨みとライスの仄かな甘みが出てきて、口の中がとても幸せな気分になっていく。



(ん〜、このライス、美味しい! 粒が立ってて、甘みもあって、前世だったら有名ブランドになれるかも!)



 もちろんその幸せはカスミも感じていて、初めて食べるバイソン肉の旨みに驚き、それと見事な噛み合いを見せるライスの美味しさに酔いしれていた。



「これはカスミちゃんがあんなに欲しがってたのも分かるよー!」


「ん、この味噌汁だっけ〜……? とも合う〜……」



 レネとフィオがライスを盛ったお椀を持ちながら、そんな風に言ってくれる。


 ライスが美味しいものだと気付いてしまえば、もう食べるのに躊躇いはなくなり、その後は皆、美味しい美味しいと言いながら用意された昼食を平らげていった。


 ちなみに、昨日の反省も踏まえてカットステーキはお代わり分も作ったのだが、それもあっという間に無くなり、ライスも余裕を持って5合くらい炊いたが、それも全部無くなった。



「ふぅ…… 美味しかった……!」


「お粗末様です」


「すっごい幸せな気分だよー♡」


「カスミちゃんは凄い、天才〜……」



 そんな満足過ぎる昼食を終えると、カスミはクリスタ、レネ、フィオにたくさん褒められ頭を撫でられ、心も満足させてもらえたのであった。

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