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#63 お茶会②

 3種のケーキが載せられた皿が参加者全員に行き渡り、参加者達はそれぞれ用意された席についていった。


 カスミはミーユイア、フィオ、アネッタ、シャラミラと同じテーブルで、ニコニコ笑顔のミーユイアが当たり前かのようにカスミの隣の席に座った。



「いただいてもいいかしら、カスミ?」


「もちろんです」



 ミーユイアの問いかけにカスミがそう答えると、ミーユイアはまずいちごのミルフィーユに手を伸ばしていった。



「わぁ、サクサクですねっ。 では…… んっ! ん〜っ♡! 美味しいです〜♡」



 それからフォークでサクサクのパイ生地とカットされたいちご、そしてクリームを一緒に口に運ぶと、口の中にはもう幸福という言葉でしか表現できないような風味が広がっていった。


 先日のパーティーでもケーキを食べた時、ミーユイアは中々良いリアクションを見せてくれていたが、今の反応は欠片も取り繕っている様子がなく、より自然体の反応にカスミには見えた。



「ん、こっちの白いケーキも美味しい〜……♡ サクサクで甘い生地と酸味のあるクリームが合ってる〜……♡」



 そんなミーユイアの隣では、フィオがレアチーズケーキに舌鼓を打っていた。


 今回作ったレアチーズケーキは、白いクリーム部分にはほとんど甘みはなく、すっきりとした酸味が感じられるように仕上げた。


 そんなクリームが、サクサクで甘いビスケット生地と合わさると、これがまた絶妙で、すぐ次が食べたくなれような食べやすさがあった。



「この中にあるのがドライフルーツですね。 ……んっ! 美味しいですわ♡ ケーキ部分は言わずもがな、ドライフルーツの濃縮された甘みがよく合っています♡」



 そして、シャラミラはドライフルーツ入りのパウンドケーキを食べて、その美味しさに感動していた。


 ケーキ部分は外側がサクッとした、内側がしっとりとした食感にそれぞれなっており、それだけでも間違いなく美味しいのだが、埋め込まれているレーズンやオレンジピールなどのドライフルーツの濃縮された甘みが噛めば噛むほど広がり、これまた絶品と呼べる仕上がりになっていた。



「カスミ、本当に凄い! こんな色んな種類のケーキを作れるなんて!」


「そう言ってもらえてよかったです。 これでもまだほんの一部なんですけどね」


「まだまだあるの? なら、いずれ全部食べてみたい♡」


「私ももっと作りたいんですけど、使いたい食材が中々見つからなくて」



 ケーキ作りのための砂糖や様々な粉はカスミのスキルで出せるものの、食材に関してはこの世界にあるものを使わないといけないので、カスミが作れるケーキは数え切れないほどあるが、その半分くらいは食材がなくて作れないのが現状だ。


 ちなみにそれらの食材はシクウだったり、サミアンの街の商業ギルド長であるジリアムに探してもらっていたりする。



「…………」


「アネッタ、喋んないの〜……?」



 そうしてケーキを食べながらカスミがミーユイアやシャラミラと話している中、アネッタはちびちびケーキを無言で食べていた。



「いや、話すことが無ぇし、丁寧な言葉遣いは苦手だし……」


「あら、言葉遣いなんて気にしないで大丈夫ですよ」



 アネッタがそう言って気まずそうにしている中、シャラミラがほんわかとした笑顔でアネッタに声をかけた。



「いいの…… ですか?」


「はい。 良ければ冒険者の活動についての話を聞いてみたいですわ」


「そ、そうか、分かった」



 流石のアネッタも王族にいきなりいつも通り話すのはどうかと思っていたようだが、当のシャラミラから気にしないでいいと言われ、そこからは割といつも通りな口調で聞かれたことに答えていく。



「魔物の中にはとても大きなものもいるそうですが、アネッタさんが今まで倒してきた魔物で一番大きかったのはなんですか?」


「うーん…… 大きさだけでいうなら、ヨルムンガルドっていう、蛇みたいな長い体を持った龍が一番大きかったな」


「どのくらいでしたか?」


「多分、この城にぐるっと巻き付けるくらいはあったと思う」


「そんなにも大きいのですか」



 そんな風にアネッタが今まで倒してきた魔物の姿やどんな戦いをしたのかなどをシャラミラはアネッタから聞き出していた。


 やはり魔物と一番遠い世界にいると言ってもいい王族のシャラミラやミーユイアからすると、魔物との戦いの話は別世界の話のように感じるようで、その後も興味深そうにアネッタの話を聞いていた。


 そうしてアネッタの話を聞いた後は、自然とフィオの話を聞こうという話になった。



「私は別に面白いことしてないよ〜……」


「そういえば、フィオさんって陛下と昔から知り合いだったんですか?」



 話せるようなことはないというフィオに、カスミは前々から気になっていたことを聞いてみた。



「あ〜、一応、家庭教師みたいなことはしてた〜……」


「へぇ、そうだったんですか」


「ダスロウがまだ10代前半だった時に、3年くらいね〜…… その時は魔道具の研究にハマってて、お金が欲しかったから〜……」



 王族の家庭教師ともなるとそれなりに報酬が支払われるので、魔物と戦うよりも楽そうだということでフィオは一時期王族の家庭教師をしてたそうだ。



「陛下が子供の頃の話は私もあまり知りませんね。 私は帝国の生まれで、この国に妃として嫁いできたのは20の時だったので」



 そう言うシャラミラは、自分も知らないダスロウの子供時代の話に興味津々だった。



「ダスロウは今は落ち着いてるけど、その頃は割と活発だった〜…… 座学より剣とか魔法を学んでる時の方が楽しそうだったね〜……」


「お父様は剣も魔法も一流で、たまに教わったりします!」



 ダスロウの娘であるミーユイアの言う通り、ダスロウは王としての責務をしっかりこなしつつ、その傍らで妻や子供との交流もしっかりしているらしく、横で話を聞いていたカスミはとても感心した。



「で、そろそろ家庭教師期間も終わろうかというタイミングで告白されたり〜……」


「「「えぇっ!?」」」



 だが、続いてフィオがさらりと落とした爆弾発言に、カスミもミーユイアもシャラミラも驚きの声を上げた。



「婚約の話が持ち上がる前にって言ってね〜…… ま、流石に断ったんだけど、分かってたのか晴れ晴れしてたな〜……」


「そ、その後はどうなったのですか?」


「ダメ元だったからか割とすぐに切り替えて、アリレインとの婚約が決まった後はちゃんとアリレインと仲良くなろうと頑張ってたよ〜…… 私に手紙で女が喜ぶプレゼントとか聞いてきたこともあって、感心感心してた〜……」



 フィオも当時のことはちょっとした思い出話として記憶しているようで、もぐもぐとケーキを食べながら語る表情は割と明るかった。


 王族の心をも射止めてしまうフィオに最初はカスミは驚いたが、10代の多感な時期にこんな可愛くて聡明な異性が家庭教師になんてなったら、そりゃ恋にも落ちるだろうなと、内心納得していた。


 そんな興味深すぎる話を聞いたり、席を変えて今度は違う人と話をしたりなんかしていたらあっという間に時間は過ぎ、カスミ達ビフレストの面々はこの場を後にすることにした。



「カスミっ」


「わっぷ!」



 ただ、別れ際になって再びミーユイアがカスミに抱きついてきた。



「カスミは元のお家に帰っちゃうのよね……」


「そ、そうですね」


「寂しい……」


(ぐはっ! か、可愛すぎるっ……)



 お人形のような可愛いミーユイアが、別れを惜しんで上目遣いでそう言ってくる姿は、カスミに大ダメージを与えた。


 思わずミーユイアをこのまま持って帰りたい気持ちにもなったがグッと堪え、カスミはミーユイアの背中に腕を回して抱き返していった。



「ユイ様、そう遠くない内にまた会えますよ」


「本当……?」


「はい。 王都は良いところですから、また買い物とかもしたいですし、お仕事で来ることもあると思うので、また来る時は知らせますね」


「……約束よ?」


「はい、約束です。 もし良かったら、私が住む街にも遊びに来てみてください」


「うん、絶対行くわっ」



 また会える約束ができたおかげでミーユイアも笑顔になってくれ、カスミはゆっくりとミーユイアから体を離した。



「ふふ、ユイは本当にカスミ様と仲良くなったのね」


「ええ、親友ですの!」



 母であるアリレインの言葉にも、すぐさまミーユイアはそう返した。



「では、カスミ様、こちらを」



 そんなアリレインは、カスミに小さな長細い箱を渡してきた。


 カスミが許しを得てその箱を開けると、小さな額縁のような形をした、中に鏡のようなものが埋め込まれているカスミには馴染みのない道具が入っていた。



「それはレターポータルという魔道具でして、手紙などをその鏡の部分に差し込むと、対になるレターポータルに瞬時に転送ができるものになります。 何か王族から要件があった時にもしかしたら使うかもしれませんが、基本はユイとの文通に使ってください」


「わぁ、ありがとうございます」


「お母様、大好きですっ!」


「ふふ、嬉しいからってあんまり送り過ぎないようにね」



 アリレインからの粋なプレゼントも貰ったところで、今度こそカスミは拠点へ帰るべく、王城に背を向けて歩き出した。


 そんなカスミの背中が見えなくなるまで、ミーユイアを始めとした王族の面々はお見送りをしてくれ、王都に来て良かったなとしみじみ思うカスミなのであった。



 

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