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#26 商談をしよう

「こちらの肉料理は…… おお……! こちらも大変美味ですね……!」



 ナポリタンを何口か食べたシクウは、他の料理も気になったようで、次にオークの角煮を口に運んだ。


 すると、長時間煮込まれた角煮は口の中でほろほろと解け、醤油ベースのタレとオーク肉の旨みが噛めば噛むほど広がっていった。



「ああ…… 商談の事を忘れて食べるのに集中したいくらいです」


「お気に召したようで良かったですっ」



 カスミの料理に夢中になってくれているシクウを見て、受け入れられるか少し不安だったカスミも肩を撫で下ろした。

 


「それはもう。 こちらのお椀に乗っているものは?」


「こちらはライスの上に生のお魚を乗せた海鮮丼になります」


「ライス、ですか? 生魚は私も何度か食したことはありますが……」



 シクウもどうやらライスは食べたことがないらしい。



「私も最初はライスなんて、と思ってたが、これが美味しいんだから驚きなんだ」



 少し躊躇いを見せたシクウに、クリスタがそう告げた。


 

「そちらの小皿の醤油という調味料を軽く回しかけて、お魚とライスを一緒に食べてみてくださいっ」


「ふむ…… 分かりました。 食べて確かめるのが一番早いですね」



 シクウはそう言うと、カスミに言われた通り海鮮丼に醤油を回しかけ、マグロとライスを口に運んでいった。



「おお……!? こ、これは美味しいですね……!」



 すると、マグロの強い旨みと醤油の塩気と香ばしさが、ライスと共に食べる事で、口の中で一つの料理として完成したかのような、確かな美味しさがそこにはあった。



「ライス自体に味はそこまでありませんが…… なるほど、パンやパスタのように、何かと共に食べるものなのですね」



 早くもライスの美味しさと食べ方に気付いたシクウは、サーモンとデーモンフィッシュも一切れずつライスと共に食べていった。



「ああ、もう口の中と腹の中が幸せですね。 少食な自分が恨めしいです」



 ここまで三品を食べたシクウは、かなりお腹も膨れたのか、非常に満足そうな表情を浮かべていた。



「なら、食後のデザートといこうか」



 そんなシクウに、クリスタは不適な笑みを浮かべながらケーキの載った皿を差し出した。



「こちらのケーキもカスミさんが?」


「はいっ。 普通の料理よりも、こういう甘いものを作る方が得意なくらいです」


「それは素晴らしいですね。 甘味を作れる者は貴重ですから」


「ふふ、シクウよ。 これはただのケーキじゃない…… いや、これが本当のケーキだ」


「まさかこちらも……? では、いただきましょう」



 クリスタの自信ありげな言葉を聞いたシクウは、期待に胸を膨らませながらケーキをフォークに載せ、口に運んでいった。



「……っ!? こ、これはっ…… なんという……!」



 すると、シクウの目が今日一番の大きさに開かれ、一口目をゆっくりと飲み込んだら、確かめるようにもう一度ケーキを口に運んでいく。



「……素晴らしい。 私の商会では貴族のパーティーに出すケーキを取り扱う事も多々ありましたが、これまで私は偽りの商品を提供してしまっていたようです」



 シクウはそう言うと、カスミの方へ向き直った。



「カスミさん、貴女は本当に素晴らしい料理人です。 ぜひ貴女の生み出すものを、私達の商会で取り扱わせて欲しい」


「はいっ。 こちらこそよろしくお願いしますっ」



 シクウはもう、カスミがこの先、莫大な利益を生み出す事を確信しているようで、早速具体的な契約内容について話し始めた。


 まず、カスミが作る料理のレシピや、調理道具の設計図に関する売り上げは、商業ギルドに手数料として引かれるものを除いた金額の7割をカスミに渡すという事になった。



「7割もいいんですか?」


「設計図はともかく、レシピはかなり低額で売られるので、正直そこまでの利益になりませんから、基本は考案者が多く貰える契約のことが多いです。 ただ、レシピが売れればその材料も売れますから、商業ギルドや商会はそちらで利益を出すという形ですね」


「なるほど」



 そして、肝心の調味料に関しては、フィオが鑑定の魔法で作り方を調べてまとめてくれたので、それをシクウに見せてみた。



「なるほど…… かなり作るのに時間と手間がかかるものが多いですね。 原材料も市場には出回ってないものもかなりあるようです」



 シクウの言う通り、例えば醤油や味噌の原材料である大豆は、こちらの世界では食材としてはあまり扱われておらず、ライスと同じように家畜の餌として扱われていたりするようだ。


 名前も大豆ではなく、ビーンズと呼ばれているらしい。



「確か、ビーンズを育てている地域がありましたから、そこは掛け合いつつ、私の商会でも育てられる環境と、ビーンズを加工する工場も作らないといけませんね」


「大変じゃないですか……?」


「いえいえ、この程度は商人にとって苦労でもなんでもありませんよ。 それに、今回はその先にある利益が確実ですからね」


(凄い信頼してくれてるなぁ…… 私もできる事は手伝わせてもらおう)



 商売についてはシクウに完全に任せる形になるので、ちょっと心苦しい気もしてしまうカスミだったが、その分、利益に繋がるように頑張ろうと、内心決意するのであった。



「調味料の利益分配については、商品によっても色々と変わりそうなので、量産の目処が立ち次第、またお話させてください」


「分かりました」


「なるべく早く…… そうですね、2ヶ月後くらいには売り出したいところです」


(そんなに早く? ……いやでも、魔法を駆使すればいけるのかな? 工場の建設も、レネさんみたいな物作りが得意な人がやったら、地球で同じものを建てるのとは比にならないくらいのスピードで建てられたりするのかも)



 どうしても前世の常識に引っ張られてしまうカスミだったが、凄腕の商人であるシクウが言うならそうなんだろうなと、自分を納得させた。



「あ、そうだカスミさん。 これは提案なのですが、そのケーキ作りの腕を振るって頂きたい場所がございまして」



 すると、シクウが何やらそんな風に話を切り出した。



「と、言いますと?」


「実は来月に、この国の第二王女様の12歳の誕生日を祝うパーティーが王城で開かれまして、我が商会はそこで出す料理やケーキに使う食材を用意する予定だったのですが、いっそのことカスミさんのケーキをそのパーティーに提供するのはどうかと思いまして」


「えぇ……!? お、王族の方々がいるパーティーに、ですか……?」


「はい。 なんなら料理の方も監修したっていいかもしれませんね」


「待て待て、シクウ」



 そうカスミに言ってきたシクウを、横で話を聞いていたクリスタが止めた。



「そんな急に王族だのなんだの言われたら、カスミが困るだろう。 大体、今回の話もカスミを表に出したくないからお前に話を持ちかけたのに、王族の誕生日パーティーのケーキなんて作ったら、カスミが目立ってしまうだろう」


「ああ、確かにそれはそうですね。 すみません、あまりにカスミさんの料理に魅入られてしまい、私も興奮してしまったようです」


「い、いえ、大丈夫ですよ」


(うーん、でも、良い話なのかも…… この世界ってインターネットとかないから、流行りはほぼ全て貴族の人が発信するものらしくて、美味しい料理とかケーキを宣伝するなら、またとないチャンスなのかも……)



 そう内心で思う気持ちはあるものの、やはり目立ってしまうとクリスタ達との生活が脅かされかねないので、カスミとしても二つ返事で了承する訳にはいかなかった。



「ですが、これだけの料理や調味料が世に出たら、確実にカスミさんはいつか日の目を浴びてしまうと思います。 完全に隠し切る事は不可能かと」


「む…… 確かにそれはそうだな……」



 シクウの言葉を受けたクリスタは、その可能性を否定できずに苦い顔をした。



「ですから、私の商会だけではなく、いっそのこと王家の方々に後ろ盾になって貰えば、貴族の方々からの干渉も防げます」


「そんなに上手くいくか?」


「カスミさんの料理やケーキを手土産にすれば、確実に後ろ盾を得る事は可能…… なんなら、こちらから条件を付ける事だって出来ると思います」


「……それなら、悪くないな」



 先程までは否定的だったクリスタも、王家を味方にできるメリットを考えると、悪くないかもしれないという思考になり始めた。



「どうでしょう、カスミさん? もちろん、カスミさんの素性を明かすのは、ごく一部の人に留める事を約束します」


「……分かりました。 シクウさんにお任せします」


「ありがとうございます。 では、王家の方々にカスミさんの事を伝え、できるだけ早く準備が始められるよう、尽力致します」



 そんな大きな仕事の事も含め、その後もカスミはクリスタとシクウと様々な事について話し合うのであった。

 

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