#25 大商人との邂逅
カスミの秘密を打ち明けてから、夕食、入浴を済ませ、あとは寝るだけといった時間帯。
「カスミちゃん、今日は誰と寝るー?」
「えーっと……」
おもむろにレネがそう聞いてきたのだが、中身が大人の女性である事を打ち明けたカスミなので、誰かと一緒に寝る事にまた若干の恥ずかしさが湧いてきた。
「順番でいうと、アネッタの番かな?」
「カスミは別に一緒に寝たい訳じゃないんじゃないか?」
「い、いえ、そんな事はないですよ? その、中身は大人なのは間違い無いんですけど、若干精神が体に引っ張られてると言いますか……」
アネッタの言葉にカスミはそう返した。
「じゃあ、これからも一緒に寝よ!」
「お、お願いします……!」
恥ずかしさはちょっとあるものの、今更一人で寝るのはなんだか寂しく感じてしまうカスミなので、今後も誰かと一緒に寝る事にさせてもらった。
「で、今日はアネッタと?」
「まぁ、俺は構わないが」
レネがそう聞くと、アネッタは普通に一緒に寝る事を許してくれたので、今夜はカスミとアネッタが一緒に寝る事になった。
という事で、アネッタの部屋に入った二人は、他にすることもないのですぐにベッドに入った。
「しかし、異世界出身ね。 そんな奴いるんだな」
「私が一番驚いてますよ……」
「そりゃそうだな。 カスミの世界は平和なんだってな?」
異世界出身という事を告げた後、夕食の時間などにカスミが暮らしていた地球について軽く話をしたりした。
「そうですね。 魔物とかはいませんし、魔法も無いですから、戦える人はごく一部しかいませんでした」
「俺にとっちゃ退屈そうだな」
「でも、戦う事以外にも沢山の娯楽で溢れてました。 便利さで言ったら、確実に元の世界の方が優れてたと思います」
「そんなにか」
「通信技術が凄くて、世界の反対側にいても会話ができます。 だから、世界でどんな事件が起きたとかもすぐに伝わりますし、ある程度のお金さえあれば、色んな娯楽が楽しめました」
「すげーな、そりゃ。 こっちの世界は退屈なんじゃ無いか?」
「いえ、こっちの世界はこっちの世界でとても素敵だと思います。 毎日新しい発見があって、本当に楽しいです」
「なら良かった」
アネッタは安心したような声色でそう言ってくる。
「なにより、アネッタさんや、他の皆さんが優しいおかげで楽しめてます」
「俺が優しいなんて、変わってんな」
「とても優しいですよ」
「……なんかむず痒いな」
「ふふ」
カスミが嘘偽りのない気持ちを伝えると、アネッタは気恥ずかしそうに頬をかいた。
「俺らもカスミが来てくれてから、まだ一週間も経ってねぇのに変わったもんだ」
「そうなんですか?」
「少なくとも俺は、前まではこの家にいない事の方が多かった。 流石にそろそろなんか依頼受けるがな」
「その時はお気をつけて」
「はっ、誰に言ってんだ。 ま、受けるにしても日帰りできる範囲だな。 ……お前の飯を二食も三食も食い損ねるのは勿体無い」
「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです」
そんな風にカスミとアネッタは他愛もない話をしばし楽しみ、話が一段落したところで、どちらからともなく眠りの世界へと旅立っていった。
*
そして朝に目を覚ますと、カスミはアネッタの抱き枕と化していた。
(アネッタさん大きいから、抱きしめられるの安心感があるなぁ……)
もはや恒例となった抱き枕状態を受け入れつつ、寝起きの頭でカスミはぼんやりとそんな事を思っていた。
「……ん、朝か」
「あ、おはようございます、アネッタさん」
そうこうしていると、アネッタもカスミが起きてから5分くらいしたタイミングで目を覚ました。
「……すまん、寝てる間に抱きしめてた。 苦しくなかったか?」
「大丈夫ですっ」
「そうか。 ……やけにぐっすり眠れたな。 抱き枕、買うか」
そんな事を言うアネッタと共に、少し微睡みの時間を楽しんだ後は、体を起こして庭に出て、2人で朝のトレーニングを軽く行った。
その後はシャワーを浴びてさっぱりし、それぞれ今日の活動を始めていくのであった。
*
現在、昼下がりといった時間帯。
――チリンチリン
この家の玄関先にある、来客を知らせる鈴が鳴り響いた。
「来たみたいだな」
そう言ってクリスタは、やってきた客人を出迎えに行った。
それから少しカスミが待っていると、リビングにクリスタに連れられて、一人の男性が入ってきた。
「カスミ、こいつが話していた商人だ」
クリスタが紹介したその人物は、クリスタと同じで耳が長く、エルフであるということがカスミからしてもすぐに分かった。
身長はクリスタより少し高いくらいの高身長な部類に入る高さで、ふんわりとしたシルエットの洋風の祭事服のような服を着ている。
そして、エルフだからか顔立ちはもう芸術品のように美しく、どちらかといえば優しげな印象を受ける顔の造りだが、全身からなんだか風格のようなものが漂っていて、カスミは思わず背筋を伸ばしてしまう。
そんなエルフの男性は、優しげな笑顔を浮かべながらカスミの方へ顔を向けた。
「は、初めまして、カスミと申しますっ」
「これはこれはご丁寧に。 私はデラフト商会の会長をしております、シクウという者です」
カスミの挨拶に、シクウはそう丁寧に挨拶を返してくれる。
「本当に早かったな。 手紙送ってから2日くらいしか経ってないのに」
「クリスタさんからのお手紙なんて中々ありませんし、そんな貴女がいい商売のネタがあると手紙に書くほどですから、相当なものがあると思いまして」
(す、凄い期待されてる……! シクウさん、凄い商人だとは聞いてたけど、風格あるし、想像以上に凄い人な気がする……)
カスミは内心戦々恐々としていたが、ここまで来たらもうやる事をやるだけだと切り替え、クリスタ、シクウと共に、リビングのテーブルを囲んで席に着いた。
「そうしたら、早速本題なんだが、シクウにはカスミの後ろ盾になって欲しいんだ」
そうして席に着いたら、早速クリスタが本題を切り出した。
「ふむ、後ろ盾ですか」
「詳しく言うと、シクウはカスミが考えた商品を、商会を通して商業ギルドに登録してもらいたいんだ」
「カスミさんの商品、ですか」
「もちろん、タダでとは言わない。 まず一つのメリットは、カスミの考えた商品を一番初めに売り出すことができる。 それと、カスミが受け取る利益の一部をそちらに還元する」
「なるほど…… 話は分かりました。 しかし、私も商人ですから、いくらクリスタさんの頼みでも、売れないものを扱う訳にはいきません」
「ふっ、それに関しては心配するな。 カスミ、用意してくれるか?」
「はいっ」
クリスタにそう言われたカスミは、シクウが来ると聞いてからこれまでに作った料理達を、収納袋からテーブルの上に出していった。
そうして並べられたのは、ナポリタンにオークの角煮、海鮮丼、そして昨日作ったケーキといったラインナップ。
「ほう、これは…… どれも見た事のない料理ですね」
それらの料理は、これまで色んな国の料理を食してきたシクウからしても、見たことのない料理ばかりだった。
「商業ギルドに登録して欲しいのは、これらの料理のレシピと、これらを作るための調味料だ。 シクウの商会には、調味料を量産できる工場などもいずれは建てて欲しい」
「そこまで大きな事業になるとクリスタさんはお考えなのですか」
「ふふ、シクウもこれらを食べれば分かる」
「なるほど…… カスミさん、食べてみてもよろしいですか?」
「もちろんですっ」
シクウはカスミに断りを入れると、まずはこの中だと馴染み深いパスタが使われたナポリタンを口に運んでいった。
「んん……!? こ、これは、普通のトマトソースと全然違いますね……!」
すると、シクウはカスミの料理の美味しさに、早速驚きの声を上げた。
世界中の色んな料理を食してきたシクウからしても、やはりカスミの作る料理は規格外の美味しさに感じるようだ。
「このパスタ料理一つだけで、凄まじい利益が出せそうですね……!」
「ふふ、カスミの凄さが分かったか?」
「はい……! 正直に言ってしまいますと、子供が考案した料理だろうと侮っておりました」
(まぁ、普通はそうだよね……)
カスミの事情を知らない人からすれば、カスミは10歳前後の子供にしか見えないので、カスミは特にそれに関しては不快に思っておらず、美味しいと言ってくれたことを素直に喜んでいた。
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