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#22 生魚、実食

「で、今日のご飯はなにー?」



 炊飯器をもらったり、今後の事について考えたりしていたが、今は夕食の準備時間だという事をレネの問いかけでカスミは思い出した。



「今日は市場で買ったお魚を使おうと思ってます」


「へぇ、魚料理かー。 この辺ではあんまり食べれないよね」


「それでその…… 生で食べようかなって思ってるんですけど、大丈夫ですかね?」


「えっ、魚を生で? ……美味しいの?」



 レネはどうやら魚を生で食べたことがないらしく、ちょっと微妙そうな顔を浮かべた。

 


「はいっ。 味は間違いなく美味しいですし、安全面も売ってくれた人曰く大丈夫らしいので!」


「そっかぁ。 ……うん、カスミちゃんが言うなら、ちょっと食べてみたくなったかも」



 既にレネはカスミの料理の虜になっているので、カスミが美味しいと言うならそうなんだろうなと、割とすんなり魚の生食をしてみようと決意してくれた。



「他の皆さんも大丈夫ですかね?」


「魚が食べられない人はいないよ! 皆んな内陸出身だから、生で食べた事は無いと思うけど」


「美味しいって言ってもらえるよう、頑張りますっ」



 やはり日本人のカスミからすると、ぜひ生の魚の美味しさは知って欲しいと思うので、張り切って用意を始めていく。


 今日使うのは、マグロとサーモン、そしてデーモンフィッシュという魚の魔物の切り身だ。


 マグロとサーモンは地球にあるものと同じだが、デーモンフィッシュは綺麗な薄いピンク色をした身質をしており、売ってくれた魚屋の店主曰く、赤身と白身の中間くらいの味がするらしい。


 その言葉だけだと味は想像しにくいが、とりあえず美味しいという事は間違いないようなので、カスミはそれらを薄めの一口大に切っていく。



「見た目は綺麗だね?」



 その様子をカウンター席に座って見ていたレネはそんな風に感想を漏らす。


 その言葉通り、魚屋の店主は新鮮度はそこまでみたいな事を言っていたが、カスミが前世のスーパーで見たことあるような切り身より、色鮮やかで触ったり切ってみた感じ、脂のりもかなりのものだった。


 どうやら海産物も、この世界の魔素の影響を受けて美味しくなっているようだ。


 そうして、3種の切り身をお代わり分も含めて、10人分くらいの刺身状に切り分けたら一旦置いておき、小ネギと魚屋で売っていた海苔を刻み、あと味噌汁に入れる生わかめも、お湯で軽く湯がいて食べやすいサイズに切っていく。



「カスミちゃん、それなにー?」


「これはわかめっていう海藻ですね」


「海藻も食べるの?」


「美味しいですよ。 お味噌汁に一番合うと言っても過言じゃないです」



 レネにそう言いながら、カスミは鍋に沸かした湯の中に顆粒出汁を溶かし、生わかめを入れて少し煮ていく。


 その後、味噌を適量溶かしたら、生わかめの味噌汁の完成だ。


 あとはレタスときゅうりとトマトを使ったサラダに和風ドレッシングをかけて盛り付け、メインである先程切った刺身を、大きめのお椀に盛ったライスの上に乗せていく。


 さらにその上に、刻んだ小ネギと刻み海苔をかければ、お手製海鮮丼の完成だ。


 そうして出来上がったものを、レネと協力して食事テーブルの上へと運んでいく。



「カスミ、これは?」


「こちらは生のお魚をライスの上に乗せた海鮮丼になります」


「生の魚?」



 クリスタにカスミがそう答えると、レネ以外のメンバー達は海鮮丼を不思議そうな面持ちで眺めていく。



「見た目は美味そうにゃー」


「こちらはこんな感じで醤油を回しかけて食べてください」



 若干誰が最初に食べるかみたいな空気になっていたので、カスミは小さなお椀に注いだ醤油を軽く海鮮丼に回しかけて、お手本を見せるかのように、マグロとライスを一緒に口に運んでいった。



「ん〜っ、美味しいです!」



 すると、口の中にはかなり上質なマグロの旨みが広がっていく。


 それこそ、カスミも料理の見識を深めるために数回だけ行ったことがある高級寿司店で出てくるような美味しさで、地球で食べようと思ったらかなりの値段がする気がした。


 ちなみに、今回買った海産物は、前世のスーパーで売っていたよりもちょっと安いくらいの安価で売っていた。


 魚屋の店主曰く、沢山獲れるし需要があまり無いらしいので、そんな値段だそうだ。



「そんな美味いのか?」


「はいっ! ぜひ食べてみてください!」



 カスミが目を輝かせながらそう言うので、他の面々も海鮮丼に醤油をかけて、まずは一口食べてみた。



「んー! これ美味しいー!」


「生魚、こんな感じなんだ〜…… うまうま〜……」



 すると、そんな風に言うレネとフィオを始め、噛むたびに広がる魚の旨みに、すぐに全員が虜になった。



「魚と醤油とライスが見事な噛み合いを見せてるな……! 生魚を食べる風習があるのは知ってたが、まさかここまで美味しいものだとは……」


「お魚美味いにゃー! 肉より好きかもにゃー!」


「確かに肉にも負けてない…… まぁ、魚の肉なんだから当然と言えば当然なのか?」



 クリスタ、ローニャ、アネッタも、順番にそんな風な感想を述べた。



(デーモンフィッシュも食べてみよっ。 ……ん! 確かに、これは赤身と白身の真ん中だ! 赤身の旨みと白身の淡白な甘さが一緒になったような…… うん、美味しい!)



 そして、カスミは初見だったデーモンフィッシュも、マグロやサーモンに負けないくらい美味しかった。


 ここまで美味しいと、他の魚の魔物の刺身も食べてみたいなという欲求が湧いてくる。


 カスミ以外のメンバーも、生魚が安全で美味しいものだと分かってしまえば、箸は当然止まらなくなり、凄まじいスピードで海鮮丼は皆の胃袋に消えていった。



(生わかめのお味噌汁も美味しいなぁ。 海鮮丼によく合う)



 海鮮丼に夢中な他の面々達を笑顔で眺めながら、カスミは生わかめの味噌汁にも舌鼓を打っていた。


 加工されていない生わかめを食べる機会というのは中々ないものだが、これはぜひ一度は味わってみてほしいとカスミは思っている。


 それほど生わかめは加工されたわかめとは別物の美味しさがあるのだ。



「カスミ、おかわりにゃ!」


「先にライスの方が無くなるな、これ」



 そうこうしていると、魚がかなり気に入ったローニャと、大食いのアネッタがお代わりのために席を立った。

 


「あ、レネさんがライスを炊く道具を作ってくれたので、お代わり沢山ありますよ。 お刺身も少し余ってますから、そちらもどうぞ」


「やったにゃ!」


「なら、少なくともライスの方は加減いらねーな」



 そう言うと、ローニャとアネッタはライスを大盛りにしてテーブルに帰ってきた。


 カスミからすると食べられるのか不安になる量だったが、結果的にはローニャとアネッタはペロリとお代わり分も平らげ、他の3人もそれぞれお代わりをした結果、10合くらい炊いたライスはあっさり完売した。



「カスミ、今日はローニャと寝るにゃ!」



 そんな美味しい夕食を終え、皆でお皿を洗ったり、入浴を済ませたりしていたら、あっという間に寝る時間となり、カスミは今日はローニャの部屋で寝る事になった。



「んふー、カスミは抱きやすいにゃー」



 早速ローニャの部屋のベッドに入ると、ローニャはカスミの事を抱き寄せてきた。



(抱きしめられるのに慣れてきた自分がいる……)



 そんな自分にカスミはちょっと苦笑しつつ、嬉しいは嬉しいので素直にローニャに体を預けていった。


 

「お魚すごい美味しかったにゃ!」


「そう言ってもらえて良かったです」


「この歳になって一番の好物が更新される事にゃんてあるんにゃねー」


「きっとまだまだ食べた事ない美味しいものはありますよ」


「カスミが作るものは全部それにゃ! 全部食べた事なくて美味しいにゃ!」


「ふふ、それは良かったです」


「カスミは何かローニャにお願いとかないにゃ? ローニャもカスミに何かしてあげたいにゃー」


「とても良くしてもらってますけど…… あ、じ、じゃあ、その…… お耳触ってみたいです……!」



 カスミは前々からしてみたかった事をローニャに頼んでみた。



「耳にゃ?」


「だ、ダメですかね……?」


「一応、獣人の耳とか尻尾は家族とか好きな人にしか触らせないものではあるにゃ。 だから、カスミならいいにゃ!」


「ほ、本当ですかっ?」


「うんにゃ! ローニャはカスミが大好きにゃ〜」


「あ、ありがとうございます……! じゃあ……」



 許可をもらえたので、カスミはローニャの猫耳に手を伸ばした。



「わぁ…… ツヤツヤサラサラですっ」


「ふふん、ちゃんとお手入れしてるからにゃ」



 そこまで長毛ではないローニャの猫耳は、ツヤツヤサラサラな触り心地をしていた。



「もっと撫でたりしても大丈夫にゃよ」


「じ、じゃあ……!」



 どうやら遠慮はいらないようなので、カスミはローニャの猫耳がぺたんと折り畳まれるくらいの力加減で撫でていく。



「ん〜、撫でられるの気持ちいいにゃ〜♡」


「そうなんですね?」


「カスミはなでなで上手にゃ! 尻尾も触るにゃ?」


「ぜひっ」



 それからカスミは、尻尾も同じように触らせてもらった。


 尻尾も耳と毛質は似ていて、撫でるとツルツルと手が滑っていくような感覚が得られるくらい、ツヤツヤで触り心地が良かった。



「ふぅ…… 満足しましたっ」


「それは良かったにゃー。 カスミならいつでも触っていいにゃ」


「ありがとうございますっ」


「ん〜、撫でられてたら眠くなってきたにゃ。 カスミ、おやすみにゃ〜」


「はい、おやすみなさい、ローニャさん」



 そうしておやすみを言い合ったカスミとローニャは、同じくらいのタイミングで仲良く夢の世界へと旅立つのであった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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