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#2 街へ

 狼に襲われ、その後助けられた時のパニックが落ち着いてきたのも束の間、今度は自分の体が子供のように小さくなってしまっている事に気付き、再び香澄はパニックになった。



(そ、そういえば、やたら自分の声も高い気がするし…… 見知らぬ危険な土地に飛ばされた挙句、子供になるってどういう事……!?)



「おーい、大丈夫か?」



 訳の分からない状況に香澄が目を回していると、先程助けてくれた女性が声をかけてきた。



「あ、は、はい、大丈夫です……」


「そうは見えんが…… 君、名前は?」


「えっと、香澄です……」


「カスミね。 何でこんなところに1人で? 親は?」


「お、親はいないです…… 家で寝てたはずなんですけど、気付いたらここに……」


「ふむ……?」



(あぁ、すごい我ながら意味不明な事言ってる……)



 カスミの言葉を聞いて何かを考えるような素振りを見せている女性を見て、カスミは非常に申し訳ない気持ちになってしまう。


 ただ、先ほど襲われた狼のような危険な生物がいるこの森を抜けるには、この女性を頼るしかないので、とりあえずカスミはこれ以上迷惑をかけないよう、大人しくしている事にした。



「訳アリか……」


「あ、あの、どうか森を抜けるところまででも良いので、守って欲しいですっ……」


「ああ、そんな心配しなくともそのつもりだよ」


「そ、そうですかっ」



(良かった…… とりあえず良い人そうで……)



 最初から女性はカスミを助けてくれるつもりだったようで、カスミはほっと肩を撫で下ろした。



「まぁ、分からないことはあるが、とりあえず街に行って落ち着けるところでまた話そう」


「分かりましたっ。 ありがとうございます…… えっと……」


「ああ、私の名前はクリスタだ」


「クリスタさん、ありがとうございますっ」


「ああ。 そしたら、よっと」


「わぁっ……!」



 とりあえず近くの街に行くことになったのだが、クリスタはカスミの事を再び抱え上げていった。



「街まではそこそこ距離があるからな」


「じ、自分で歩けますよ……?」


「いやいや、君は裸足だし、こうしておいた方が守りやすいからな」



(うぅ、そう言われると抵抗できない……)



 またあんな狼が出てきたら、カスミは何もできないので、大人しくクリスタの意向に従う事にした。



「す、すみません……」


「なに、君一人抱えていたところで、この辺の魔物には負けないから大丈夫だよ」



(魔物…… さっきの狼の事かな……?)



 まだまだカスミにも確認したいことがあったが、とりあえず落ち着ける場所を目指してクリスタに運ばれる事となった。



「それにしても、カスミは可愛いね」



 街を目指して歩き出してから程なくして、クリスタはおもむろにそんな事をカスミに言ってきた。


 

「ふえっ?」


「黒髪黒目なんて初めて見たけど、目もぱっちりで髪もツヤツヤ。 ああでも、さっき地面を転がったからか、ちょっと汚れてるね。 帰ったら一度お風呂に入ろう」


「あ、ありがとうございます…… えっと、クリスタさんは何をされてる人なんですか?」


「私は冒険者だよ。 さっきの魔物とかを倒したり、他にも色んな困り事を解決したりするんだ」



(冒険者……)



「あの、ここってどこですか……?」


「ここは魔の森だね。 初中級冒険者がよく来る場所だ」


「あっ、えっと、国の名前とかって……」


「魔の森は広くていくつかの国と面しているけど、私が今向かっている街はサミアンという街で、ナステリア王国の辺境に当たる街だ」


「サミアン…… ナステリア……」



(どっちも聞いた事ない…… それに、冒険者に魔物とかいう知らない職業や生物……)



 ここまでの話で、カスミの脳内には一つの仮説が浮かんできていた。



「その、日本って知ってますか……?」


「ニホン?」


「えっと、ジャパン? ジパング? とか……」


「うーん、どれも分からないな。 カスミが住んでた街の名前とかかい?」



(日本を知らない…… それに私もこの辺りの地名を知らない…… やっぱり、ここは地球とは違う異世界、なのかな……?)



 そんな信じられない仮説だったが、その後もクリスタと色々と話をしてみた感じ、その仮説が正しい事を理解せざるを得なかった。


 というのも、クリスタはエルフという種族で、150年は既に生きているとのこと。


 それでもエルフの中だと若手も若手で、特に病気などをしなければ、エルフは1000年以上も生きるそうだ。


 さらに、クリスタには冒険者パーティーという、協力して依頼に当たる仲間達がおり、その仲間達も、猫人、羊人、龍人、ドワーフと、それぞれ種族が違うらしい。


 そして、この世界にはスキルという不思議な力があり、生まれつき持っていたり、鍛錬すれば身につけることができるそうだが、何とその中には魔法もあるそうだ。


 クリスタも使えるようで、話をしながら指先に水球を出現して見せてくれた。


 その何もないところに水球が現れた様子はまさに魔法で、カスミはますますここが地球じゃないんだなと実感させられた。



「お、見えてきたよ」


「わぁ……!」



 そうしてクリスタと話しながら森を進むこと30分ほど。


 木々の隙間から少しずつ見えてきたのは、高い壁に囲まれた街で、森を抜けるとその全貌が明らかになった。


 今いる森から少し見下ろせるくらいの低地にあるその街は、高い壁に囲まれており、建物がかなり密集したかなり大きい街である事が遠目でも分かる。


 その街の入口であろう門にはいくつもの馬車が並んでいて、恐らく街に入るための検閲のようなものが行われているのだろう。



「もう少しで着くからな」


「はいっ」



 ここまで来たらもう最後までカスミはクリスタに大人しく運ばれる事にした。


 いくら子供の体のカスミとは言え、重くないのかと途中で少し心配になったが、この程度はクリスタにとっては何の苦痛でもないらしい。


 細身に見えるクリスタだが、どうやら地球の人間よりも体が強いようで、あとカスミ100人くらいなら全然担げると笑いながら話していた。


 そして、森を抜けてから程なくして、カスミとクリスタは街の入口の門まで辿り着いた。


 クリスタは馬車が並ぶ列の隣の、この街の住人が使える一般用の入口の方へ歩いていく。



「あっ、クリスタ様、お疲れ様です!」



 すると、そこでは鎧を身に纏った衛兵が、クリスタに敬礼し、恭しい態度を取ってきた。



(クリスタさん、有名人なのかな?)


「ああ、ご苦労」



 カスミがそう思っている中、クリスタも勝手知ったる感じで衛兵に言葉を返す。

 


「おや、そちらの少女は……?」


「魔の森の依頼途中で助けたんだ。 親もいなくて行く宛もないようだから、連れてきた」


「左様ですか」


「これ、この子の通行料と許可証の分だ」



 クリスタはそう言いながら、腰の小袋から貨幣を取り出し、衛兵に渡した。



「クリスタ様のお連れ様であれば、わざわざ払わなくとも……」


「ふっ、そういう訳にもいかんだろう。 上がルールを守らなければ、下に示しがつかん」


「確かにその通りですね。 差し出がましい事を言ってしまいました。 用意するので、少々お待ちを」



 衛兵はそう言うと、すぐ横にある詰所のような場所に走っていった。



「あの、クリスタさん、お金……」


「ん? ああ、気にしないでいい。 大した金額でもないしな」


「でも……」


「ふふ、ここまで会話してても思ったが、カスミは大人らしいな」

 


(そりゃあ、中身は30の女ですから……)



 見た目は子供だが、中身は大人というギャップに、当の本人であるカスミが一番困っていた。

 


「そしたら、この後は私のパーティーハウスに行くんだが、風呂に入るついでに風呂の掃除でもしてもらおうかな。 今払った代金はそれで賄えるくらいの金額だし」


「分かりました!」



 カスミとしてはお金を借りっぱなしにするのはちょっと申し訳なかったので、とりあえずできる事で恩返しをしていこうと心に決めた。



(命も救われたし、できる事があったら全部やろうっ)



「お待たせしました、こちらが許可証になります」



 香澄がそう決意していると、先程の衛兵が戻ってきて、許可証と書かれたカードをクリスタに渡した。



(あれ、書いてあるのは異世界の文字だけど、普通に読める……)



「ああ、ご苦労。 それじゃあ行こうか、カスミ」


「あ、はいっ」



 異世界文字が読める事にカスミは疑問を感じつつも、クリスタが暮らしているというパーティーハウスへと向かうのであった。

 

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