#14 最後の一人
朝、カスミが目を覚ますと、そこはレネの腕の中
クリスタの時もそうだったが、レネも非常に見た目が整っており、目の前に顔がある今の状況は少しドキドキしてしまう。
しかも、腕だけじゃなく足までも絡めて抱きしめられているので、やっぱり今日も動けそうになかった。
「んー……? あ、おはよぉ、カスミちゃん……」
ただ、そんなレネは、カスミが起きてから10分くらいして目を覚ましてくれた。
「おはようございますっ」
「んふふー、カスミちゃんあったかいねぇ……♡ 可愛いねぇ……♡」
カスミが挨拶すると、レネは微睡みながらカスミの事を改めて抱きしめてきた。
「れ、レネさんも可愛いですよっ」
「おー、嬉しい♡ 変な寝顔してたりとか寝言とか言ってなかった?」
「いえ、大丈夫でした」
「そっかそっか。 ずっとこうしてたいけど、起きなきゃねー」
「そうですねっ」
「じゃあ、んっ♡」
「ふあ……!」
体を離す前に、レネはカスミの額に軽くキスを落としてきた。
「あはは、カスミちゃん、顔真っ赤ー」
「あ、あんまり慣れてなくて……」
「しない方がいい?」
「いえ、照れますけど、嬉しいですっ」
「そっか!」
そんなレネとのやり取りのおかげで目も覚めたので、カスミとレネはベッドから降り、身だしなみを整え、朝食の用意をしていくのであった。
*
「よし、やるぞっ」
朝食を食べ終えたカスミは、動きやすいシンプルなシャツと半ズボンに身を包んで気合を入れていた。
そんなカスミは手に雑巾を持っており、これから家の掃除をしようとしていた。
住人達には、ご飯を作ってもらってるから、そこまでしなくていいと言われたが、カスミ的にはご飯やお菓子を作るのはどちらかといえば娯楽に入るので、なにも苦労に思っていない。
そのため、元気は有り余っているし、何より他に特にやることも無いので、掃除でもしようと思い立ったわけだ。
この家は広いので、カスミはとりあえず今日のところはリビングから玄関にかけてを掃除しようと思っている。
(まずは掃除機かけから)
クリスタに掃除をすると伝えたところ、魔道具だという掃除機の使い方を教えてもらったので、まずはそれを使って大まかな埃などを吸い込んでいく。
(これ、使いやすいなぁ)
その掃除機は魔道具なので、地球のものとは違いコンセントなどは必要ないし、駆動音も全然しない。
吸引面は地球のブラシがついていたりするものとは違って穴が空いてるだけだが、吸引力がかなりのものなので、とても使い勝手が良かった。
(このペースなら、誰か来る前に終わりそう)
他の住人達は、クリスタは外に用事があって外出、レネは地下の工房で作業、フィオは部屋で寝てて、ローニャは禁断症状のような感じで賭場に行った。
ローニャは賭場に行きたくないという気持ちはあったようだが「か、体が勝手に賭場にー…… にゃ〜〜……」と、よくわからないことを言いながら、ゾンビのようなフラフラとした足取りで家を出ていってしまった。
クリスタ達曰く、あれは夜までは確実に帰ってこないとのことで、残念ながらカスミの美味しい昼食は食べ損ねる事になりそうだ。
(よし、掃除機終わり! 次は拭き掃除っ)
そんな朝の賑やかなやり取りを思い出している内に掃除機がけは終わり、お次は雑巾で拭き掃除を行なっていく。
これまでは住人間で交代して掃除はしていたそうなので、目立つ汚れなどはないが、地面に膝をついて部屋の角を見てみると、それなりに汚れが溜まっていた。
なので、そこも濡れ雑巾と乾いた雑巾で擦り、しっかり汚れを落としていく。
(お世話になってる皆さんの家だから、綺麗にするの楽しいな)
カスミも前世ではそんなに掃除が好きなタイプでは無かったのだが、恩返しと思ってやるとやり甲斐が中々あるもので、その後もテキパキとリビングの雑巾がけを行い、それが済んだら玄関からリビングに続く廊下も同じように雑巾がけしていく。
――ガチャ
それからカスミが丁度玄関付近を掃除していると、おもむろに玄関の鍵が空き、扉が開いた。
「……あ? 誰だお前?」
クリスタが帰ってきたのかなと思ったカスミがそちらを向くと、そこには女性にしては高身長のクリスタよりも、更に10センチ以上は身長の高い女性が訝しげな表情を浮かべながら立っていた。
その女性の頭からはゴツゴツとした立派な角が生えていて、さらに腰の辺りからは、根本が太く、先にいくにつれて細くなっていく、鱗が付いた尻尾も生えていた。
服装は薄手のインナートップスと脛辺りまであるスパッツに、袖のないジャケットとダメージが付いたショートパンツを合わせた何とも野生的なファッションをしている。
そのインナー越しには、しっかり割れた腹筋が確認できるくらい、スレンダーでありながらもとても鍛えられていることが分かる体つきをしていた。
「あっ、は、初めましてっ。 一昨日からこの家にお世話になっているカスミと申しますっ」
その女性に対して、カスミは立ち上がってぺこりと頭を下げながら簡単に自己紹介をした。
「ほぉ、礼儀がなってるな。 俺はアネッタだ。 ……全く、ここ数日で何があったんだよ」
アネッタはカスミの礼儀正しさは認めてくれたものの、何でカスミがここにいるのか少し納得いってなさそうだったので、カスミはクリスタとの出会いを簡潔に話していった。
「……なるほどな。 まぁ、そういうことならしょうがないか」
「迷惑はかけないようにしますっ」
「ま、掃除とかしてるみたいだし、俺からは別に文句ねぇよ」
ぶっきらぼうな物言いのアネッタだが、とくにカスミの事を疎ましく思ったりはしていないようだ。
「あー! アネッタ!」
そんな風にアネッタと話していると、レネがやって来て、カスミの事を庇うように抱きしめた。
「カスミちゃんの事、いじめてないよね!?」
「いじめてねぇよ」
「れ、レネさん、アネッタさんは何もしてないですよっ」
がるるると、アネッタに威嚇するような目を向けるレネに、カスミは何もされてない事を伝えた。
「それなら良いんだけど……」
「お前は俺のことなんだと思ってんだ」
「脳筋女」
アネッタの問いかけに、レネはそう即答した。
「……喧嘩するか?」
「しませーん」
「……っち。 着替えてくる」
そして、アネッタはそう言い放つと、ズカズカと自室の方へ歩いていった。
「カスミちゃん、怖くなかった?」
「は、はい。 アネッタさん、何も言わずに話聞いてくれましたし、受け入れてくれました」
「へぇ、そうなんだ。 アネッタも子供には優しいんだね」
カスミの返答に、レネはちょっと意外そうな表情を浮かべた。
その後、カスミは中断していた玄関掃除を終わらせ、掃除用具を片付けた。
それが済んだ頃、着替えてきたタンクトップにショートパンツ姿のアネッタもリビングにやって来た。
「アネッタさん、もし良かったらこちらをどうぞっ」
そんなアネッタに、カスミは昨日作って置いておいたクッキーを渡した。
「あん? なんだこれ」
「昨日私が焼いたクッキーです。 お近付きの印にと思って」
「へぇ、お前クッキーなんて焼けるのか。 甘いもんは別にそこまで好みじゃないが…… まぁ、腹減ってるし貰うよ」
アネッタはそう言うと、クッキーをヒョイっと口に放り込んだ。
「んんっ……!? な、なんだこれ、美味っ……!」
すると、自然でくどくない上品な甘みと、バターの香ばしい香り、そしてサクサクとした食感が口の中で広がり、そのあまりの美味しさに、アネッタは目を見開いて驚いた。
「こ、これ、お前が本当に作ったのか?」
「はいっ」
「そうか…… あむ。 ……美味いっ。 中々やるじゃないか、お前。 ……あむ」
甘いものは好きじゃないと言っていたはずだが、アネッタはカスミと話しながらクッキーをどんどん口に運んでいった。
というのも、アネッタはこの世界で作られているクッキーやケーキを食べた事があり、そのやたらと強い甘さや硬かったりモソモソしてる食感が好きじゃなかった。
だが、カスミの作ったクッキーはそれらと比べるのが烏滸がましいくらい美味しかったようで、あっという間にカスミがあげた分のクッキーを食べ尽くしてしまった。
「あ、もう無くなっちまった」
「お口に合ったようで良かったですっ」
「ああ、素直に美味かったよ。 お前…… いや、カスミ、ありがとな」
アネッタはそう言うと、カスミの頭をその大きな手でわしゃわしゃと撫でてきた。
「わっ…… えへへ、ありがとうございます」
初対面こそちょっとアネッタにビビっていたカスミだったが、話してみたら普通に良い人だと分かり、一安心するのであった。
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