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#11 カスミのクッキー

 クッキーをオーブンに入れてから15分ほどが経ち、キッチンの周りにはとても甘い匂いが広がり始めていた。



(そろそろいいかな?)



 そう思いながらカスミがオーブンを開けると、更に濃い甘い匂いが香ってきた。


 しかも甘いだけじゃなく、バターが焼けた香ばしい匂いもしてくる。



「凄い良い匂い〜……!」



 これには横で見ているいつも眠そうなフィオも目をまん丸にしてしまう程で、カスミも出来立てを摘みたい気持ちをグッと堪え、丁度良い深さの皿にクッキーを移していった。



「おお? なんだこの匂いは」


「すっごい良い匂いしてるよー!」



 そうこうしていると、ちょうど良いタイミングでクリスタとレネがリビングにやって来た。


 2人は昼食が終わってから地下にあるというレネの工房で武器の手入れをしており、前もって今くらいの時間に何か作るかもとカスミが言っておいたので、休憩も兼ねて来てくれたようだ。



「カスミ、何を作ったんだ?」


「クッキーを焼きました! ちょうど焼き上がりましたよ」


「えー! カスミちゃん、お菓子も作れるの? すごーい!」



 クリスタの質問にカスミが答えると、レネがハイテンションで褒めてくれた。

 


「えへへ…… あ、紅茶淹れますね」



 褒められた事でニヤケそうになってしまう口をもにょもにょさせつつ、クッキーが焼けるのを待つ間に紅茶の用意もしておいたので、カスミは棚にあったティーカップに人数分の紅茶を注ぎ、いつものテーブルで優雅にティータイムをする事にした。



「クッキー食べて良い〜……?」


「どうぞっ」



 席に着くや否や、カスミのクッキー作りを見ていて早く食べたいとずっと思っていたフィオが、真っ先にクッキーを口に運んでいった。



「あむ…… んんっ……!? こ、これ、凄い〜……♡!」



 すると、フィオの目が見た事ないくらい開かれたかと思うと、すぐにその表情は幸せそうにとろんと蕩けていった。


 

「そ、そんなになのか?」


「私も食べる!」



 そんなフィオを見ていたクリスタとレネも、クッキーを一つ口に運んでいく。



「んんっ……!? な、なんだこのクッキーは……♡!」


「お、美味しいー♡! サクサクだけど、口の中で溶けてくぅ……♡!」



 結果、クリスタとレネもフィオと同じような表情になり、口の中に広がる砂糖の甘さとバターの風味に、これ以上無いくらいの幸せを感じていく。


 そのリアクションに満足しつつ、カスミも出来立てのクッキーを口に運んだ。



(うん、上手くできてる! なんだか地球で作った同じものよりも美味しいかも? お肉とかと同じで、砂糖とかバターも質が良さそうだったから、そのおかげかも)


「貴族の晩餐会に出た時にクッキーを食べたことは何度かあるが、そんなものとは比にならないな……!」


「うまうま〜……♡」


「あっ、ちょっとフィオ! お皿抱え込まないでよー!」



 カスミが自分で作ったクッキーを自画自賛している中、クリスタ、レネ、フィオは感想を述べたりしながらクッキーを一つ、また一つと口に運んでいく。


 そんなカスミが作ったクッキーは、砂糖の量はそこまで多くなく、自然な甘さとバターの香ばしさ、そして食感を楽しめるものとなっているので、一つ食べるとすぐ次が欲しくなってしまう中毒性のようなものがある。


 そのため、みるみるうちに焼いた分のクッキーは消費されていった。



「あっ、皆さん、10枚くらいだけ残して貰えると……」


「あ、カスミちゃんも食べたいよね?」


「あ、いえ、まだ会っていないお二人に、挨拶と一緒に渡そうと思って」



 レネの言葉に、カスミはそう返した。



「あの2人にあげるの勿体無い〜……」



 が、フィオがそんな事を言ってくる。

 


「あー、まぁ、それはちょっとあるが…… 間違いなく気に入りはするだろうし、これを食べればカスミがどんな凄い子なのかもすぐ分かるから、渡すのは良いアイデアだと思うぞ」



 ちょっと不満そうなフィオを見て、クリスタは苦笑いしつつも、ちゃんとカスミの意思を尊重してクッキーを残してくれた。



(なんか残りのお二人の評価が少し低いよね…… 悪い人ではなさそうなんだけど)



 まだ見ぬクリスタ達のパーティーメンバーに思いを馳せつつ、クッキーに持っていかれた口の中の水分を補給するべく、それぞれ紅茶を口に運んでいく。



「ふぅ、紅茶とも合うな」



 クリスタの言うように、口の中に残った甘さをキリッとした紅茶が綺麗に流してくれ、後には強い満足感だけが残った。

 


「カスミちゃん、本当に凄いよ! これ、この世界で一番美味しいクッキーだよ!」



 それからクッキーを食べ終えたレネが、カスミにそう言ってきた。


 

「そ、そうですかね?」


「ん、貴族が食べてるようなやつは、今思うとただ甘ったるくて、堅かったりもそもそしてた〜……」



 フィオもレネに同調しつつ、これまで食べてきたクッキーがどんなものだったのかを述べた。

 


「あれでも貴重な甘味だから、食べると嬉しくなったものだが、もう食べられないな」



 クリスタもこれまでの甘味には戻れないと、苦笑いしながら口にする。

 


(割と手慰みで作ったクッキーでこの反応…… ケーキとか作ったらどうなっちゃうんだろ?)



 あまりにも甘いものが発展していないということが改めて分かったカスミだったが、だからこそこの世界にも甘いものが広まって欲しい、何なら普通の食事ももっと美味しいものを食べて欲しいと改めて思ったので、クリスタ達に相談してみる事にした。


 もっと美味しいご飯やスイーツが広まって欲しいと。



「……ふむ。 確かに、カスミが作るものはもっと広まるべきだな」


「材料も普通にその辺で買えるものばかりだしね!」


「私達だけで独占してたら、罰当たりそうだし〜……」



 その結果、クリスタ、レネ、フィオの3人とも、諸手を挙げて賛成してくれた。



「それなら、手っ取り早いのは商業ギルドに商品登録しちゃう事だろうね!」


 

 そして、レネがカスミの料理を広めるための手段を提示してきた。

 


「商業ギルド、ですか?」


「そう! 私も新しい魔道具とか作った時に登録したりすんだけど、カスミちゃんの場合は料理のレシピとか、調味料とかかな? を登録して、これは売れるなって商業ギルドが判断したら、大々的に売ってもらえたりするの!」


「なるほど……」


「レシピはそれでいいけど、カスミちゃんのスキルで出した調味料は、作るのに手間がかかるのも多いから、大きな商会に売り込みに行くのがいいと思う〜…… それ用の工場とか作れるくらいの〜……」


「となると…… そうだ、私の知り合いに良い商人がいるから、そいつに声をかけておこう」



 フィオとクリスタもそれぞれそんな提案をしてくれる。

 


「皆さん……!」



 カスミがしたい事を告げた途端、クリスタもレネもフィオも快く協力してくれ、それだけでもうカスミの胸はジーンと温かくなった。



「だが、カスミ。 いくつか条件をいいか?」



 そんな中、クリスタがちょっと真剣な表情を浮かべながらそんなことを言ってきた。

 


「はいっ」


「まず、何か思いついたり悩んだりしたら、必ず私達に相談する事。 そして、頑張るのは良いが、ちゃんと自分の時間も作って無理は絶対しない事」


「分かりましたっ」



 クリスタが挙げた条件は、カスミの心を守るためのものだった。

 


(優しい条件だなぁ…… 本当に、嬉しい)


「三つ、できれば新作の料理とか甘いものは私達にも食べさせる事〜……」


「あはは、確かにそれも条件として欲しいね!」



 そして、フィオとレネもそんな条件を付け加えてきた。

 


「ふふ、もちろんです。 私の一番の願いは、皆さんに喜んでもらう事なので」


「あーん、カスミちゃん可愛いー!」


「わぁっ……!」



 カスミの言葉が嬉しかったのか、レネが隣に座るカスミをぎゅーっと抱きしめていく。



「まぁ、色々やることはあるが、どれも別に急ぎじゃないから、ゆっくりやっていこう」


「そうですねっ」



 クリスタの言う通り、別に急いで食文化を広めたいわけではないので、とりあえずこれからやりたい事を紙に書いたりしながら、カスミ達は打ち合わせをしていく。



 ――ドタドタドタ…… ガチャ!



 だが、その途中、玄関の方から足音が聞こえてきたかと思うと、リビングの扉が大きな音を立てて開いた。



「誰か、お金貸してにゃー!」



 そして、入ってきた人物は、涙目を浮かべながらそう高らかにおねだりをしてきたのであった。

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