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キラリ転生☆アイドル無双 ~歌声チートでドキドキ学園ライフ~  作者: 一宮九葉


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9/11

第8話「夜のライブと熱血騎士団」

 夜のとばりが完全に下り、アスコット侯爵家の屋敷は深い静寂に包まれていた。

 窓の外には星々が明るくまたたいている。遠くから夜風が木々を揺らす音が聞こえるだけで、屋敷内の気配は驚くほど静かだ。


 サフィア・アスコットは、天蓋てんがい付きの大きなベッドの上で、ふうと小さく息を吐いた。

 このところ、ようやく日中に短い廊下散歩が許されるようになり、リハビリの成果もあってか、呼吸をするのも随分と楽になっている。

 これまでは夜になると誰かしらが部屋に詰めていたが、ここ数日は「このぶんなら一人にしても大丈夫だろう」という判断が下されていた。母や侍女のリリアは「何かあったらすぐに鈴を鳴らしてね」と念を押して退室していき、今は久しぶりに完全な一人時間だ。


「よし、今なら誰もいない」


 サフィアはつぶやくと、シーツの上で軽く肩を回し、首を左右に傾けてストレッチをした。

 病に倒れていた頃は、腕一本動かすのも億劫おっくうだったが、今は背筋を伸ばすだけで『生きている』実感が湧いてくる。

 まだ少し体が重く感じることもあるけれど、今の気分はすこぶる良好だ。


(ここまで順調に回復したなら、少しくらい自分を甘やかしてもいいかな)


 サフィアは心の中で言い訳をしつつ、くすりと笑った。

 前に口ずさんだバラード『Cradle in the Dawnlight』は、周囲を癒やす効果があったらしい。あの時は、部屋にいたリリアも母も、とろんとした目で心地よさそうにしていた。

 だが、今の気分は「いやし」ではない。もっとこう、生き返った喜びをみ締めたいというか、ガツンと来る刺激が欲しい。


(……今日は、あれにしよう)


 脳裏に浮かんだのは、前世で繰り返し何度も聴いた『UNLIMITED』だ。

 オフィスのデスクで残業続きだった日々、何度この曲に励まされたことか。アップテンポなビートと、前のめりの歌詞が、今のサフィアの状況にも妙に重なる気がする。

 この剣と魔法の世界で、あの曲を本気で歌うなんて、最高に贅沢ぜいたくな遊びだ。


 サフィアはのどの調子を確かめるように、ん、ん、と小さく咳払せきばらいをした。

 誰にも聞かれない、自分だけの密かなコンサート。

 軽く息を吸い込み、リズムを刻むように指先で布団を叩く。


「Yeah... This is my voice. Let's go!」


 まずは抑え気味に、低音のラップパートから入る。


「鏡の奥 にらみつけた 昨日までの自分 (Weakness)

『今のままじゃ届かない』なんて 誰が決めたルールだ?」


 すべり出しは上々だ。

 サフィアの口からあふれ出る歌詞がメロディに乗れば、それは『歌』という魔法に変化するのだ。

 歌い始めるとすぐに、胸の奥がじんわりと熱を帯び始める。

 いつものように体内を循環する魔力が、ビートに合わせて脈打ち、血管を通って指先まで駆け巡るような感覚があった。


「孤独な夜に磨いた このプライド

 退屈なシナリオ 今すぐ引き裂いてやる」


(うん、やっぱりこの曲、格好いい)


 歌詞が今の自分に刺さりすぎて、思わずテンションが上がる。

「退屈なシナリオ」なんて、まさに病弱な令息としてベッドに縛り付けられていた日々のことじゃないか。それを引き裂いてやるという強気なフレーズが、今のサフィアには痛快だった。


 歌うにつれて、声は自然と大きくなっていく。

 前のバラードの時は、静かな川の流れのような魔力の動きだったが、今回は違う。もっと鋭く、熱く、弾けるような奔流ほんりゅうだ。


「たった一つ 確かなことは

 胸の奥 暴れだした 情熱ヒカリは消せないってこと」


 視界の端で、サイドテーブルのランプの炎が、ボッと大きく跳ねたのが見えた。

 まるでリズムに合わせて踊っているみたいだ。水差しの水面にも、風もないのにさざ波が立っている。


(やば、楽しい)


 魔力の共鳴だと頭では分かっているが、高揚感が勝って止まらない。

 サビに向けて、サフィアはさらに声を張り上げた。


「準備はいいかい? ついて来れるか?

 僕だけを 見つめてろよ」


 そして、一気に解き放つ。


「解き放て UNLIMITED! その壁をぶち壊せ

 僕の声が 君の空を 突き刺すように

 誰かの真似事コピーじゃ 響かないメロディ

 裸の心で 叫ぶから 受け止めてくれ

 この瞬間 世界で一番 熱い場所へ連れていく」


(Don’t stop! Keep on running!)

(Don’t stop! Just you and me!)


 気持ちいい。最高だ。

 喉の奥から熱い塊が抜け出ていくような爽快感がある。

 歌声は部屋の壁に反響し、ベッドの木の枠さえもビリビリとかすかに震えているようだった。

 ちょっと声が大きすぎるかな、と一瞬よぎった不安も、サビの疾走感にかき消されてしまう。


 そのままの勢いで2番へ突入する。


「雑踏の中 埋もれそうな 君のSOS (Can hear you)

 僕が絶対 見つけ出すから 顔を上げてくれよ

 カッコ悪くたっていい 泥だらけのブーツ

 何より雄弁に 未来を語るはずさ」


「泥だらけの靴」というフレーズを歌いながら、サフィアはこの世界でも泥臭く生きようとしている自分を重ねて、ふふっと笑みがこぼれそうになった。

 向かい風も味方に変える。その涙、笑顔にする魔法をかけてあげる。

 なんて素敵な歌詞なんだろう。


 その時だ。

 ふと、廊下の向こうから、何やらざわついた音が混じっているのに気づいた。


「……セイ! ハッ!」

「よし、もう一周だ!」

「オオオオーッ!」


(……ん?)


 歌の合間に耳に入ってきたのは、明らかに夜の屋敷には似つかわしくない、野太い掛け声。

 いつもなら、夜番の騎士が静かに巡回しているだけの時間帯のはずだ。なのに、今の声はどう聞いても『部活の合宿所』のテンションだった。

 気のせいかな、と思い直して、サフィアは再び歌に集中する。


「向かい風も 味方に変える

 その涙 笑顔にする 魔法をかけてあげる

 信じてくれ 後悔させない

 最高の景色ステージ 見せるから」


 歌声が高まるにつれて、外の足音も「ザッ、ザッ、ザッ!」と妙に統率が取れてきている気がする。

 まるで、サフィアの歌声に合わせて行進しているような……。


(まあ、いっか。今はサビだ!)


 細かいことは後回しだ。今は最後まで歌い切りたい衝動が抑えられない。

 サフィアは布団を握りしめ、ラストスパートをかけた。


「スポットライト 浴びるこの場所は

 華やかに見えて 孤独な戦場リング

 けれど君の声が 聞こえる限り

 僕は歌い続ける 倒れてもまた 立ち上がる

 Watch me now!」


 ランプの炎が激しく揺らめき、部屋の空気が熱気で満ちる。

 サフィア自身の体温も上がり、額にうっすらと汗がにじんでいた。

 最後の大サビ、全力で叫ぶように歌う。


「解き放て UNLIMITED! その壁をぶち壊せ

 僕の声が 君の空を 突き刺すように

 誰かの真似事コピーじゃ 響かないメロディ

 命の限り 叫ぶから 受け止めてくれ

 この瞬間 世界で一番 熱い場所へ連れていく

 君となら どこまでだって 飛べるはずさ」


(Don’t stop! Keep on running!)

(Don’t stop! Just you and me!)


「Yeah... I’ll take you to the top.

 Never look back.

 君だけの Heroになる」


 最後のフレーズを歌い終え、余韻にひたりながら大きく息を吐く。

 ハーッ、と熱い息が部屋に溶けていく。

 歌い切った達成感で、胸がいっぱいだった。

 心臓が早鐘を打っているが、それは病的なものではなく、運動後のような心地よい疲れだ。


 サフィアが歌うのを止めると、部屋の中の魔力の乱舞もスッと収まった。

 ランプの炎が、通常の穏やかな揺らぎに戻る。

 それと同時に、廊下の向こうから聞こえていた「セイ!」「ハッ!」という謎の熱血ボイスも、急速にフェードアウトしていった。


「……ふぅ」


 喉が渇いた。

 サフィアはサイドテーブルの水差みずさしに手を伸ばし、グラスに水を注いだ。

 冷たい水が乾いた喉を潤し、胃のに落ちていく。生き返るようだ。


「やっぱり歌うっていいな。ストレス発散になる」


 独りちて、グラスを置いたその直後。


 コン、コン。


 控えめだが、芯のあるノックの音が響いた。

 サフィアの肩が、びくりと跳ね上がった。


「失礼いたします、サフィア様」


 執事長のラグナの声だ。

 サフィアは慌てて乱れた布団を直し、姿勢を正した。


「ど、どうぞ」


 ガチャリと扉が開き、ラグナが姿を現した。

 彼はいつものように完璧な身なりで、表情一つ変えていない。ただ、その鋭い瞳の奥に、ほんのりとした『困惑』が見えるのは気のせいだろうか。


「……まだ起きていらっしゃいましたか」

「あ、はい。少し、目が冴えてしまって」


 サフィアはしらじらしく答えたが、まだ息が上がっているし、頬も高揚して赤いだろうから、誤魔化ごまかせているとは言い難い。

 ラグナは部屋の中を一瞥いちべつし、暴れたあとのように少し位置がずれた水差しや、妙に明るいランプの芯を確認してから、サフィアに向き直った。


「先ほど、廊下の者たちが妙に勢いづいておりましてな」


 ラグナは淡々とした口調で話し始めた。


夜番よばんの騎士たちが突然、『体が軽い!』『今なら岩でも砕けそうだ!』と叫び出し、なぜか廊下で隊列を組んでスクワットを始める騒ぎがありまして」


「……え」


「さらに、厨房ちゅうぼうで片付けをしていた使用人たちも、突如として目にも止まらぬ速さで皿を磨き始め、『残業最高!』などと口走る始末。屋敷の一部が、まるで出撃前の前線基地のような熱気に包まれておりました」


 サフィアは冷や汗が背中を伝うのを感じた。

 あの「セイ! ハッ!」という掛け声は、幻聴じゃなかったらしい。


「ちょうどその時、この部屋の方角から、実に力強い歌声と……そうですね、き火に油を注いだような魔力の波が感じられました」


 ラグナはそこで言葉を切り、じっとサフィアを見つめた。

 叱責しっせきする目ではない。ただ、事実関係を確認する探偵のような眼差まなざしだ。

 サフィアは観念して、小さく肩を落とした。


「……少し、歌いすぎました。ごめんなさい」

「いえ、サフィア様がお元気なのは何よりでございます」


 ラグナは口元を緩め、苦笑した。


「ただ、夜の屋敷全体が『決戦前夜』のようなテンションになるのは、いささか困りものでございます。騎士たちが無駄に体力を消耗してしまいますからな」

「……はい」

「次は、もう少しお静かに、あるいは皆が活動している昼間にお試しになるのがよろしいかと」


 ラグナの言葉に、サフィアはこくこくとうなずくしかなかった。

 どうやら、自分の歌声はただの娯楽では済まないらしい。

 バラードは『強力な睡眠回復魔法』で、アップテンポな曲は『広範囲な強壮魔法』ということか。なんて極端な効果なんだ。

 ラグナはサフィアの反省した様子を見て取ると、うやうやしく一礼した。


「それでは、今度こそお休みくださいませ。良い夢を」

「……おやすみなさい、ラグナ」


 扉が静かに閉まり、部屋に再び本当の静寂が戻ってきた。

 サフィアはベッドに倒れ込むようにして、天井を見上げた。


(癒やし系だけじゃなくて、テンション爆上げ系の効果もあるなんて……)


 頭の中に、今回の件をまとめた雑な分類表が浮かぶ。

 恥ずかしさと申し訳なさもあるけれど、それ以上に、好奇心がむくむくと湧いてくるのを止められなかった。

 歌の種類や曲調、歌詞の内容で魔力の働き方が変わるのなら、これは立派な研究対象だ。

 もしうまくコントロールできれば、もっと色々なことができるかもしれない。


「次はちゃんと実験ノートを用意しよう……」


 魔力の余韻でまだ体はポカポカしている。

 昼間のほうが危なくないかな、いや、むしろ防音結界とかがあるのなら、それを覚えてからの方がいいのかな。

 そんな事を考えながら、サフィアは布団を頭までかぶった。

 歌いきった満足感と、未来への小さなワクワクを抱えて、今夜はぐっすりと眠れそうだ。

 サフィアは目を閉じ、夢の中で次のステージの幕が上がるのを待つことにした。

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