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【超超短編小説】鴨沢タダシ

 鴨沢タダシはなんか長い棒を持って勢いよく走ると、その棒を地面に突き立ててどん!と高く飛び上がった。

 鴨沢タダシの野暮ったいスクールジャージがばたばたとはためいている。

 ぼくたちの学年は変に明るい色の緑色と決まっていて、上の学年が着ている無駄に暗い青や下の学年のワザとらしい赤もさる事ながら、ダサい事この上無かった。



 土埃が舞う放課後の校庭の隅でボンヤリと、空飛ぶ鴨沢タダシを眺めていたら不意に肩を組まれた。

 振り向くと、サッカー部の不良連中がニヤニヤしながらこちらを見ている。

「財布、汚れてんだろ。掃除してやるよ」

 煙草くさい息を吐きながら、空いている左手で軽いボディブローを当ててくる。

 やれやれ、どうやってここを誤魔化すか。

 腕力も無ければ逃げ足も遅いし、財布の中は掃除する側に憐れまれるくらいしか入っていない。


 肩に回す腕にぐっと力を入れて再び煙草臭い息で

「な?財布、掃除してやっからさ」

 と言うと、少し離れた所に立ってこちらを見ている女子たちが手を叩いて笑った。

 財布の掃除なんて言う古典ギャグが面白いのだろうか。

 腰の部分を幾重にも折り返したミニスカートから伸びる足とルーズソックスを一瞥して、誰が誰と寝て兄弟姉妹をやっているのかなどと考える。


 その時だ。

 肩を組んできた左側のサッカー部員になんか長い棒が刺さった。

「サッカー部!大丈夫か!」

 鴨沢タダシが走り寄ってきている。

 手にはまた別のなんか長い棒を構えていて、そのまま右側のサッカー部員になんか長い棒を突き立てると、先ほどの要領でダサ芋スクールジャージをはためかせながら、高々と飛び上がって学舎の屋上に消えて行った。



 緑色のダサ芋スクールジャージをはためかせて消えた鴨沢タダシを見送ってから、なんか長い棒が刺さって死んだ不良サッカー部員の腕を肩から外した。

 死んだ不良サッカー部員は疲れて眠るように崩れ落ちた。



 他のサッカー部員たちは飽きてしまったみたいで、面倒くさそうにしているか、女子とこの後どこに行くかなどと声をかけている。

 なんか長い棒が刺さって死んだサッカー部員を見て欲情したのか、女子たちもまんざらではなさそうだった。

 きっとまた兄弟姉妹を増やしていくのだ。

 学校はあまりにも狭過ぎる。

 それにどうせ、ぼくの好きな池田さんだってサッカー部員たちになんか長い棒を刺されてしまっていると言う話だ。

 サッカー部員たちは散っていく。



 こんなところに希望はない。



 ぼんやりしていると、鴨沢タダシがなんか長い棒を持って校舎から出てきた。

 鴨沢タダシは目の前まで来ると、やはりぼくの肩を組んで

「これなーんだ?」

 と言ってポケットから出した白い結晶の入った袋を見せた。

 そして間髪入れずに

「これね、カフェインの結晶」

 と言ってパッケージをジャージのポケットに戻した。


 

 あの時にぼくがきちんとしていたら、鴨沢タダシはどう飛んでいたのだろうか。

 それはぼくの罪かも知れない。

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