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自覚

毎日寒いですね

温かいものが身に染みます

「え、どうやって?」


 少し呆けていたメアンはドアをぶち破らんばかりの勢いで開け、部屋へと入り込んでくる自分の主を見て思わず口走った。


 王都に居る自分がルフェウスを最後に見たのは夕暮れ時。

 フレイア昏倒の報せを受けても嫌に冷静に『仕事を終わらせる』と机に向かっている姿を見たのが最後だ。

 ルフェウスの側近に空間を操ることができる者は存在しない。

 そもそも時間や空間を操ることができる『ギフト』を持つ者は限られているし。そんな『ギフト』を持っていたとしても行使するには桁外れの魔力を要する。


 音もなく立ち上がったスカーレットがベッドの前に立ちふさがる。

 つい状況に驚いて失念していたがフレイアは未婚の女性。

 確かに主とはいえこの状況はいけない。

 メアンも追従しようとしたが。ルフェウスの顔を見て躊躇ったが、スカーレットは怯まない。


「お引き取りください」


 当然、淡々とした口調で言い放つ。

 正しい行動だが主が報われないと思ったメアンは手早くフレイアの髪や服装を整える。

 

「あぁ、すまない。取り乱しているね、僕は……」


 そんなふたりを見て冷静になったらしいルフェウスは。顔色は悪いが静かな寝息を立てているフレイアを一瞥して背を向ける。

 その背に滲んだ安堵を見たスカーレットは小さく息を吐く。


「王妃様のお力ですか」


 予想外のことを言われたのかルフェウスが弾かれたように振り向く。

 見開かれた眼が図星を突かれたことを物語っている。

 そんな自分の失態に自省する色が過り、ルフェウスは肩の力を抜いた。


「何故それを……?」

「私の眼は特別製ですので。王室の方が情報を漏洩されたわけではありません」

「なるほど、そうか……あなたが義侠心のある人で良かったと心底思うよ」


 微苦笑を滲ませるとスカーレットが一礼する。

 同室していたメアンは居づらくなって身を縮めた。

 絶対に、いまの会話は自分が聞いてよいものではなかった、と思いながらルフェウスをちらりと見ると読み取れない微笑みが返ってきた。

 それだけで主の意図を察したメアンは深い頷きを返すに留めた。


 元々自分はルフェウスに仕えている。

 裏切るつもりなど欠片もなかったけれど思念を読む『ギフト』を持つ者も居るだろう。

 そのためにも後でフレイアにでも記憶を封じてもらった方がよさそうだ。


 王妃であり、第二王子ユリシスの母であるロセルフィナ。

 彼女は公正でいて非常に慈悲深い女性と有名だ。


 国内でも三指に入る有力な公爵家の娘であり、学園の卒業と共に西の隣国に嫁ぐ予定だったのだが紆余曲折を経て婚約破棄の後、入内することになった。

 詳細は語られていないが巷では隣国の王子の人格に問題があり冷遇されていただの、実は現王の略奪愛だっただのと、やけにドラマチックな噂が語られていたが。彼女は王妃として非常に優秀だったので、自然と噂が沈静化したという経緯がある。


 彼女の『ギフト』は触れたものを浮かせる能力と言われていて。王妃は好奇心の強いゲストに乞われれば持っている扇子を浮かせたり、グラスをテーブルへと浮かせて置いたりしていた。

 きっとその力も嘘ではなかったのだろう。

 本来の『ギフト』の使い方と違うだけで。


 部屋に現れた衝撃で気づけなかったが。

 ルフェウスの髪や服はまるで強い風に吹かれたように乱れていて。顔色も悪い。

 恐らく、王城からルーンベル領まで。とんでもない速さで空を飛んできたのだ。

 傍から見れば突然王子が城から出奔したことになるのだが、その辺りの事情はどう誤魔化すつもりなのだろう、と疑問が尽きないが。


 ロセルフィナの『ギフト』は恐らくルフェウスの『ギフト』と並んで王家の極秘事項だ。

 どうにでもなるのだろう。

 

「無茶をされますね」


 そんなことを考えているとスカーレットが微苦笑を漏らした。

 

「あぁわかっているよ。だが……僕はどうしてもフレイアの傍に居たいんだ」


 桁外れな魔力を持ち、因果律すら書き換えかねないとんでもない『ギフト』を持っているフレイアが『流行り病』を抑えようとすることはわかっていた。

 『正史』を守る立場である自分は、フレイアを制止しなければいけなかった。

 それはフレイアの身を案じている自分の気持ちとも重なっていたけれど。ルフェウスはフレイアが取る行動を察しながらも、止めなかった。


 それはフレイアの想いを尊重したいと思ったからだ。

 しかし現にフレイアが倒れたという話を聞いて。いてもたってもいられなくなった。

 憔悴しながら力を貸してほしいと縋る自分に、王妃ロセルフィナは様々なことを察した眼で笑ったものだ。

 それでもう、自分の感情が取り返しのつかないほどに育っていることに気づいてしまった。


 このままでは自分は中途半端で何も護れないと感じた。

 

 国が滅ぶ未来を、遠ざけたい。

 フレイアが幸せになるのを、助けたい。

 依り代になってしまった母を、救いたい。

 『正史』を強いる存在を、討ちたい。


 一年会えなかった間に、ぐんとうつくしくなったフレイアを眼裏で反芻して心底思う。




「フレイアが目を覚ましたら一緒に伝えることがあります」


 そんなルフェウスを見たスカーレットは淡く微笑んでそんな言葉を告げた。

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