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決意を固めて

ここ数日は特に冷えますね

インフルエンザの脅威に怯えております

 夜。

 宛がわれた部屋に戻ったフレイアは。身の回りのことをメアンがこなして控室に退いた後。ベッドに横たわって母の形見のペンダントを見つめた。

 スカーレットにもペンダントについて訊いてみたがルミルが身につけていたものであるという情報以上のことはわからなかった。

 けれどスティによるとこのペンダントには何かが封じられていて。その封印は恐らく自分の『ギフト』によるもので。幼い自分に封じさせたのは十中八九母だろう。

 いったい母は何を封じたのだろう。

 自分の『ギフト』が何かわかったフレイアは幾度もその封印を解こうとしたけれどやはり封印を解くことはできなかった。

 『封印を施した者の魔力を上回ることができたら封印を解くことができる』という話で。封印を掛けたのが自分であるのなら簡単に解けそうなものだがそうは問屋が卸さなかった。

 自分は異母妹であるリーナの追及を逃れるため、数えきれないほどの回数、この首飾りに『これはただの水晶』だと言い続けてきた。

 恐らくはその際にも『ギフト』が発動していて。結果、封印を掛けられた上に幾重にも『ギフト』による目くらましが掛けられた代物が完成したわけだ。

この首飾りが元の状態に戻るまで、どれほどの時間がかかるのかは不明だが自分にしかどうしようもできないことだ。

地道にやるしかない、とフレイアは『ギフト』の練習も兼ねて言霊を使い続けている。


 母に託されたこの首飾りが本当に自分の役に立つものかはわからない。

 だがただ綺麗な宝石であるならわざわざ封印を施す必要などなかったはずなのだ。

 

 母は自分の『ギフト』により『神』を否定することで死んだ。

 それでも『亡霊』となった存在には膨大な力が残されているという。

 どうやってその力を削ぎ、消滅させることができるだろう。

 

 フレイアはベッドの傍のランプの光を受けて輝く蒼い宝石をそっと首にかけなおし、ランプの灯を消した。




「当初の予定通り私は明日、領地に戻ることにいたします」


 フレイアがルフェウスの部屋を訪れたのは辺境伯家を訪れて七日目のことだった。

『亡霊』を打倒する『遺物』について知ることができなかったが、十分に調べることはでき、スカーレットと懇意になったので領地の治安維持のために傭兵を借り受けることもできた。

 故にフレイアは領地を立て直すため、予定通り戻ることにした。

 領地に戻ってからは財政や人事の見直しをはじめ、農地や鉱山の視察、領民の生活や産業の現状を確認する仕事が山積している。

 新たな産業の模索や農地の改良などにも力を入れたいところだが専門家を雇う余裕はまだないので見送りだ。

 母が『運命』を変えてくれた可能性が高いとはいえまだ安心はできないし自分にはなすべきことがある。

 領地を立て直した後、信頼できる代理人を据えて王都で第一王子に仕え……『亡霊』をどうにかするのだ。


 もしも『亡霊』をどうにかすることができて、生き残ることができたら……自分は再び領地に戻るだろう。

 ルフェウスに仕えることは非常に光栄で良い経験になるとは思うが自分は人並みに『頭は良い』が国政に関わるような『賢さ』はない、しがない伯爵にすぎない。

 それに過去に『第一王子と関係があった』噂のある女伯爵が傍で仕えているのは外聞が良くない。

ルフェウスは恩人で、大切に思っているし尊敬している。


 淡い想いがお互い皆無というわけではないことにも気づいている。

 けれど年相応な感情を抱く度、『貴族の女』としてあってはならない折檻の痕が疼くのだ。

 故に自分の矜持を守るためにも長く仕えるわけにはいかないと思っている。


 そんなことを考えながらフレイアはどこか晴れ晴れとした気持ちでいた。

 そんなフレイアにルフェウスは憂いを帯びた眼を向ける。


「君が死なない運命になったのかはまだわからない。メアンとイーグを傍に残すから絶対に……僕の傍に戻ってきて」


 予想外の言葉にフレイアは目を瞬いてから微笑んだ。

 ああ、まずいな、と思いながらも溢れる感情のままに微笑む。

 その顔を見たルフェウスが息を飲んでから仄かに頬を赤らめる。


「……自分らしくないことを言っていると、思っているよ。でも僕は君に、どうしても生きていてほしいんだ、フレイア」


 ルフェウスの言葉にフレイアは笑みを深めた。


「ありがとうございます。でも、私は自分の成し遂げたいことを成すまで死にません」


 ルフェウスはフレイアの『ギフト』について一度も訊かなかった。

 自分の『ギフト』を知って、母の成し遂げたいことを知って。きっと自分の表情は隠しきれないほどに変わっただろう。

 けれど訊かないでいてくれる。

 だからこそ。


「ルフェウス様。私の『ギフト』は言霊です。言ったことが実現するのです」


 すべてではないが、語れる範囲のことは伝えることにした。

 

 予想外の『ギフト』だったのだろう。

 ルフェウスは息を飲んでフレイアを見つめる。


「言霊の代償は……?」

「魔力と思われます。ただ、これまで強い力を使ったことがなく。恐らく実現の難しいものほど多くの代償が生じるのでしょうが……」


 語りながらフレイアはふと思った。

 おおきな願いを口にしたりしなかったのはひとえに母の教育によるものだろうが、自分がこうもおおきな魔力を持っているのは……ルフェウスが何度も時を巻き戻したからかもしれない、と。

 この『ギフト』を持っていても幾度も呆気なく死んでしまった『フレイア』は本来おおきな魔力を持っていなかったのではないだろうか。

 となると自分が強大な魔力を持つことになったのは偶然だ。

 きっと母も予想していなかったに違いない。


「ルフェウス様、私の母は『旅人』で『正史を守る存在』だったそうです」


 どこまで伝えるべきか。

 考えながらフレイアは口を開いた。

 その言葉にルフェウスは大きく目を見開いたけれど、一拍おいて微笑んだ。


「そうか。だから君は『今回』生きているんだね……なるほど。いろいろなことが腑に落ちたよ」


 その微笑みが、声が。あまりにも優しいものだったから。

 うっかり目の奥が熱くなるけれど。奥歯を噛んで意識を逸らしたフレイアは頷いて言葉を続けた。


「この首飾りのことはわからずじまいでしたが、私はどうにか封印を解いてみようと思います」


 『亡霊』をどうにかすることについてはいうべきではないと感じて話題を逸らし。その後も当たり障りのないことを話し、部屋を後にした。

 

 母の成し遂げたかったことを成したいという気持ちに偽りはないけれど。

 ルフェウスを苦しめる者をどうにかしたいという気持ちが在ることを確かめたフレイアは取り敢えず問題が山積している領地をどうにかしよう、と決意を固めた。

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