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真相と決意

随分とあけてしまいました

ゲームその他諸々も落ち着いたのでこれから書いていきます!

 ギルド長スカーレットの後についてフレイアは話し合いの場として用意された部屋に足を踏み入れた。


「とって食いはしないからそんな顔をしなくていいよ……あぁ、肩肘張る会話は苦手でね。不敬だろうけれど喋りやすい言葉で話をさせてもらうけれど……構わないかな」


 自分はどんな顔をしていたのだろう。

 スカーレットに指摘されたフレイアはどうしても強張ってしまう頬をどうにかしようとしながら頷き、じっとスカーレットを見つめ返した。


「あなたは本当にルミルに似ている……まぁ、あなたの方がずっと真面目そうに見えるが」


 緊張を解そうとしてくれているのだろう。

 スカーレットはフレイアが腰を落ち着けた椅子の向かいに腰を下ろし、笑いかけてくる。


「母をご存知なのですね。私の『ギフト』について母からお聴きになったのですか」


「ルミルには大きな恩があってね。あなたのことも知っているし、実は会ったのも初めてじゃない。あなたの『ギフト』について知っているし行使しているところも見たことがある」



 フレイアは知らず、ドレスの布を握った。

 相手を問い詰めるような真似をしてはいけないと思いながらも漸く自分の『ギフト』がわかるかもしれない、と。逸る心が抑えきれなかった。


「うーん……何から伝えるべきか」


 けれどスカーレットはすんなりとした頤に指先を押し当て、思案する。

 急かしてはいけないと思ったフレイアは下唇を噛んで気を抜けば出てしまいそうになる問いかけを焦りと共に飲み込んだ。


「では、あなたの『ギフト』についてからにしようか」


 そう言ったスカーレットはテーブルの中央に飾ってある一輪挿しを持ち上げる。

 辺境伯家が用意した、大輪のうつくしい紅い薔薇だ。


「これはとても綺麗な薔薇だが何の変哲もない薔薇だ。最もうつくしい時に手折られて明日の朝には花弁が落ちて、三日と経たずに枯れるだろう」


「あの……?」


突然薔薇について話を始めたスカーレットの意図が読み取れず、フレイアは首を傾げた。


「フレイア。試しに言ってごらん。『花弁がひとつ落ちる』と」

「え……はい、『花弁がひとつ落ちる』」


 言われるまま、フレイアは口にした。

 すると一輪挿しの薔薇が微かに開いて花弁がひとつ、白いテーブルクロスの上に血のように落ちた。


「さて、わかったかな?」


 驚いて目を上げると笑みを深めたスカーレットの顔が見える。

 信じられない気持ちでフレイアは震える手で口元を押さえた。

 けれどまだ、偶然かもしれないという気持ちもあることを見抜いたのだろう。

 スカーレットがまた、口を開いた。


「ふふ、では今度はこうだ『落ちた花弁は元に戻る』」

「えっ?……『落ちた花弁は、元に戻る』」


 半信半疑で口にすると落ちた花弁がふわりと舞い上がり。大輪の薔薇に紛れた。

 

「おぉ、すごい! 今の現象でまったく魔力が減っている様子がない!」


 思わず身を引いたフレイアを見たスカーレットがとうとう声を出して笑う。


「いまのあなたはどこまでできるのかな。ものすごく興味があるけれど無駄遣いしてはいけない『ギフト』だからほどほどにしなければね」


 満面の笑みを浮かべるスカーレットを見てもフレイアはどこか呆然としたままだった。

 自分の『ギフト』を知ることができた以上に、とんでもない力に、眩暈がした。


「そう。あなたの『ギフト』は『言霊』だ。意思を以て口にしたことが実現する。勿論制限があって、あなたの魔力が叶えられる範囲のものに限るがね……とんでもない力である分、ちいさな事象でも実現するには桁違いの魔力が必要なんだが……どういうわけかあなたの魔力はとんでもないようだ」


 フレイアは口を押さえたまま、震えた。

 母親が自分の言動について殊更厳しく躾けたのはこのためだったのだといま理解した。

 自分の『ギフト』を知ったいま。考えてしまうのは過去に誰かを傷つけるような言動をとっていないかどうかだ。

 傷つける意図がなかったとしても他者に影響を及ぼしてしまった可能性があるかもしれない。

 過酷な環境ではあったけれど自らの人生や人を呪うようなことにならなかったのは幸いだと思った。


「『正史』については知っているかな?」


 スカーレットに問いかけられ、フレイアは頷いた。


「なら話は早い。ルミルは『正史』を守る存在に仕えていた……だがあなたの『ギフト』を使って『主』に牙を剥いたんだ」


「えっ……?」


 フレイアは声を漏らした。

 母が仕えていたのは辺境伯の妹、先代王妃。

 入内後おかしくなった彼女が恐らくは『正史』を守る、辺境伯が『亡霊』のようなものだと言っていた存在だろう。

 母が『正史』をどこまで知っていたのかはわからないが、『正史』を守ることに苦悩することもあったのだろう。

 反逆するのは不思議ではない。


 母は自分の『ギフト』を使って何をしようとしたのだろう。


「あなたの『ギフト』は強大で、魔力次第では因果律を歪めるほどのものだ」


 気づけばスカーレットの笑みは消えていた。


「ルミルは『旅人』で君の未来を何故か知っていた……このことを知るのは、私だけだ」


「お母様が……『旅人』?」


 異界から訪れるという『旅人』

 その存在は稀で。

 身ひとつで現れることもあれば魂のみが宿ることもあるという。

 

 母は、十八で死ぬ自分の運命を知っていたという。

 『正史』を守る存在に仕えていたという母。

 母の知る『正史』が『亡霊』が守ろうとするものと同じものだったのかはわからないけれど……母が『亡霊』に反逆した理由は……


「母は……私の、運命を変えようとしたのですね……?」


 思考の途中で涙が溢れた。

 母が成し遂げようとしたこと。死んだ理由。

 察してしまった途端に何も考えられなくなった。


「そうだ。ルミルはあなたのために様々なことに耐え……あなたの『ギフト』の魔力を肩代わりして、死んだ。そこまでしてあなたに生きていてほしかったんだ」


 静かなスカーレットの言葉に、ただフレイアは嗚咽を漏らした。

 母の『ギフト』は『ちょっとしたものを入れ替える能力』だった。

 どうやったのかはわからないが母は、自分の『ギフト』による代償を払って、死んだのだ。


「ルミルはあなたの『ギフト』で『神』だったアレを『亡霊』に引きずり下ろした。そしてさらにその記憶を封じた。だからいまも王宮でふんぞり返っているそいつは自分を『神』だと思っている愚か者だ」


 胸を掻きむしりたくなるような気持ちでいたフレイアは奥歯を噛みしめてスカーレットの顔を見上げた。

 ユリシスは『神』に似た存在を殺す自分を見たという。


「『神』でなくなったとはいえ『亡霊』の力は計り知れない。『正史』から外れた世界を壊す力はあるままだとルミルは言っていた」


 スカーレットの言葉にフレイアは頷いた。

 そうだ。母が命を賭して『亡霊』にした存在はまだ王宮に居ていまもルフェウスを苦しめているままだ。


「私はあなたにルミルの仇討をしてほしいから言っているわけではない。むしろルミルからはあなたに『ギフト』について教えても、何も言わないようにと言われていた……つまりあなたに自分の知るすべてを伝えたのは私のエゴだ。だからこの話を聞かなかったことにしてもいいんだよ」


 スカーレットの言葉にフレイアは首を振った。


「いいえ。私はもとよりそのつもりでした。私は『正史』を守る存在に立ち向かいます。スカーレット様、教えてくださって、ありがとうございます」


 フレイアは微笑んだ。

 まだ涙は止まらないし、胸を刺されたような鋭利な苦しみは居座ったままだ。

 けれど真実を知ることができて良かったと思う。

 母の愛情を疑ったことはなかったけれど。いま自分がこうして生きている事こそが母の愛情の証だと思うと母が為そうとしたことを最後までやり遂げたいと思った。

 

「復讐かい?」

 

 涙の痕の残る顔で清々しく微笑むフレイアを見たスカーレットは不思議そうに問いかけ。

 フレイアは目尻から溢れる涙を止めないまま、笑顔で首を振った。


「いいえ。元はお仕えするルフェウス様の為でしたがいまは私の為でもあります。母の想いを無駄にしたくはありませんが、私は自分のなすべきことを為して……結果的に死んでも後悔はありません」


 自分の言葉を刻むように口にする。

 母のようには生き抜けないかもしれない。

 やり遂げることができないかもしれない。

 それでも外ならぬ自分の為だと言える目的を見つけたことがやけに嬉しかった。

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