表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/152

望み通り

死にたかった。

けれど、自分で死ぬつもりはなかった。

あの親たちが、それを喜ぶだろうから。


生きているだけで奴らに不快感を与えられるなら――それでいい。

だから、自分から死ぬ気にはなれなかった。

それでも心の奥底では、ずっと“死”を望んでいた。


もしその瞬間が訪れるなら、迷わず受け入れる。

――そう、決めていた。


「…子どもを助けて死ぬなんて、ありがちな“お涙ちょうだい”だろ?…犬でも猫でも、同じことしてたさ」


「だろうねぇ」

女神は楽しげに微笑む。


「…あんたは神様か?」

「その定義で間違ってない。世界の管理者ってところかな」


「なるほど。“目”は俺だけじゃないな」


女神は目を細める。

「ほう、察しがいい。理由は?」


「簡単だ。いくつも世界を覗けるなら、ハズレの俺でも残しても損はない。ひとつしか見れないなら、即廃棄されてる」


「正解!」

女神が指を鳴らす。


周囲に鏡が浮かび上がった。

そこには無数の世界。

火に包まれた戦場、巨獣が暴れる大地、光り輝く都市。


「これが私の“お気に入り”たち! 戦争、破滅、陰謀…派手で最高に面白い!」


「…よかったな」


「お前だって、力はあったんだよ。十四のとき、スイッチが入っただろう?あれが“覚醒”。何者かになるためのな」


「そんな気はない。…あんな奴らに好きにされたくなかっただけだ」


「…でも二度と目覚めなかった。日雇い、狭い部屋、安い弁当。…完全に死に設定だよ」


女神はけらけら笑う。


俺は肩をすくめ、笑い返す。

「…好きに言え。俺はもう終わりでいい」


「ん?」


「生まれ変わらせるんだろ?早くしろよ」


「―やめた!」


「…は?」


女神は悪戯っぽく唇をゆがめる。


「本当に世界は無数にある。枝分かれした世界がね」


「…分岐した世界って事?」


「その通り!」

女神はどこからか“正解”と書かれた札を出して振る。


「始まりはひとつ。でも気に入らない誰かが改変していった。魔法を足し、力を足し、分岐が広がり無数の世界が生まれたってわけ」


「で、それを管理するのが、あんたら神か」

「そう!…最初の世界がどれだったかなんて、私たちにもわからないけどね。でも、どっかで必ず繋がってる。お前のいた世界に、ファンタジー物が溢れてるのは、そういう繋がりの産物さ!」


「俺たちの世界でファンタジーが生まれたのは、誰かが持ち込んだから―か」


「大正解!―魂に刻まれた記憶の断片なのかな?帰れない故郷への未練かもね…」


その声には、わずかに寂しさが混じっていた。

だが、どうでもよかった。


「結局、俺をどうするつもりだ?」


「また“目”になってもらうよ」


「ならさっさとしろ。…"俺"が消えるならどうでもいい」


「そのつもりだった。でも―残した方が、絶対に面白いよね」


女神は、にこりと笑う。その笑顔は美しい。

けれど奥にあるのは、ただ冷たい遊戯心だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ