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番外編終話 白と黒

禁断の森――誰もが知る禁足地。

そこに棲む魔物は、すべてC級以上。

常識を逸した異常な場所だった。


その中心に、ひとつの遺跡がある。

アイオンが道中で立ち入った遺跡とは別物――森の核心に、ひっそりと。

いつからそこにあるのかも知られず、その存在を知る者すらいない。


そこで、ひとりの女性が佇んでいた。

黒い髪に黒の衣。闇を纏うように、静かに立つ。

白い肌と黒い瞳は、闇に浮かぶ異質そのもの。


彼女は、まるで何かを待つようだった。

そして――


「姿まで見せるのか。本当に、久しぶりだね」


「世話になったんだ! これくらいはな」


現れたのは、対照的な存在。

白い髪に白い衣を纏い、赤い瞳を持つ女。

光を抱いたかのように輝くその姿は、夜の闇に鮮烈だった。


黒衣の女と白衣の女神。

闇と光。対照的でありながら、不思議な調和を見せていた。

互いに背を向けて腰を下ろし、顔を合わせることはしない。


「相変わらず、お気に入りには甘いな。あれで痛い目を見たくせに」

「それもまた、美しい過去さ。色褪せた感情になったけど、あの時はそうでもなかった」


背中越しでもわかる――女神は笑っていた。


「……あんな力を与えて、どうするつもりだ?

“また”傷つくかもしれないぞ。強くなり、命を蓄える……“あいつ”以上の被害を与えるかもしれない」


「そうなったら、そうなった時だ! 私にあいつを止める権利はないし、否定することもできない。すべては――人に委ねるよ」


諦めたはずの女神は、それでもなお語った。


「“彼ら”は、私ほど甘くはない。君の言葉など聞かずに……芽が出る前に踏み潰すかもしれないぞ?」

「それも運命さ。お前だって森のすべてを抑えられるわけじゃないだろ? 入ったところで死ぬかもしれない……それすらあいつの選択であり、運命だ」

「……君がそう言うなら、それでいい」


二人はゆっくりと振り返り、ついに目を合わせる。

黒衣の女と、白衣の女神――闇と光の瞳が交錯した。


「……私は、私の役割を果たす。“この世界を維持する”。そのために私はいる」

「……もう少し、楽に生きていいんだよ? お前は自由なんだから」


ふっと笑みがこぼれる。


「私が自由に生きていいなら、とっくに俗物どもを“彼ら”と一緒に滅ぼしてるさ」

「……こわっ。引くわ」


茶化すような女神の調子に、黒衣の女も笑う。


「……いずれ“彼ら”にも会いに行くんだろ? しっかり怒られてこいよ」

「“あいつ”次第だな。私はあいつが“見た場所”にしか行かない。入る時に連絡はするが、それだけ。怒ってたら会わんし、怒ってなさそうなら会う!」


「……子どもか」

「うるせぇ! 小言は結構!」

「なんだそれ」


黒衣の女が笑う。

その笑みに釣られ、女神も笑った。


「――まぁ、好きにしなよ」

「言われなくてもそうするさ! 私は――女神様だからな!」


白衣の女神の身体が淡く光を帯びる。

――そろそろ、消える。


「……君は、色を感じたか?」

「ああ。まだ一色だけど――綺麗だよ」


笑顔を残し、女神は光とともに消えた。


「……それなら、いいさ」


名残惜しげに光を見送り、黒衣の女は森を見渡す。


――魔物の争う音すらない、静謐な森。


(退屈な森だ。だが、この静寂に満ちた瞬間だけは――悪くない)


音のない世界に、彼女はひとり微笑んでいた。



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