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望まぬ2度目の人生を。〜前世の記憶と痛みを抱いて、それでも俺は生きていく〜  作者: 灰とダイヤモンド
向き合う心は微笑みと共に

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番外編 蠢く

ローズレッド王国、王都パルキノン。


ローズレッド王国の全てが集う街。

光と栄華を抱きしめた都。


だがその裏には、押しつけられた“闇”が広がっている。


住民の大半は上級貴族とその関係者。

街を守るのは王国兵団の精鋭という名の、貴族の縁者たち。


脇に座り込む貧民たちに目もやらず、彼らは大通りを闊歩する。


上辺だけ綺麗な魔窟。

国の成り立ちに相応しい王都だった。


#


フィギルは飛空艇で到着と同時に、待ち構えていた城の騎士に赤い薬草を奪われた。


それが本物かどうかで、フィギル自身の評価は大きく変わる。


(子爵などいくらでも替えが利く。だがそれは自分も同じ――奪われれば、他国で成り上がるだけだ。忠義など金と立場に比べれば安いもの。国が俺を切るなら、俺も国を切るだけ――利用するのはどちらでも構わん。問題は、首を切られないかだが……あの方に頼ればどうにかなるか)


領民からの評判は良いが、他の貴族からの評価は低い。


後ろ盾と言える公爵家との縁は作れたが、それにより更に肩身は狭くなった気がしていた。


(……厄介な事だらけだ)


フィギルは上昇志向こそ本物だが、王国への忠誠心は薄かった。


ただし、忠誠心に関しては他の貴族も変わらなかったが。


#


王城の一室に閉じ込められて、数時間がたっていた。


その間茶菓子も飲み物も出ず、喉の渇きを覚え始めていた頃。


扉が開き、従者が先に入ってくる。

そして頭を垂れ、主人の登場を待つ。

フィギルも膝をつき、跪いた。


そして、一人の男が悠然と入ってくる。

赤いマントに身を包み、頭には豪華な王冠をいただく。


第十二代ローズレッド王が、フィギルの前まで歩いてくる。


「面を上げよ。お前は我が娘の恩人である」

「……はっ!」


その言葉で、運命が“上”へと転んだと確信する。

王に勧められ、フィギルは王の斜め席についた。


「よくぞ薬草を持ち帰った。優秀な部下がいるようだな? 羨ましい話だ」

「いえ。私の兵ではなく、冒険者に依頼しました。もちろん“王家からの命”とも、“女神の印”に似た奇病とも伝えてはおりません」


王は目を細める。

その様子を内心で見下すフィギル。


(ただの傀儡のくせに、必死に威光を纏おうとしているな。その薄っぺらな威厳に、どれほどの意味がある? 結局は教皇の顔色を窺うだけの愚物に過ぎんのに)


王は満を持した感を持って、深い息を吐きながら続ける。


「――そうか。ならば信じよう。だが、なぜお前の領地にそんな冒険者が? あそこは実入りがないだろう」

「……かつてAランクでしたが、今はDランクに落ちた冒険者が流れ着いておりまして。…彼女自身『もう二度と行きたくない』と申しておりましたが」

「……彼女、か。そうか。厚く礼を伝えておいてくれ。ただし、私の名は出すなよ?」

「はっ!」


(察したか。お前たちのくだらない争いで全てを失った者だとな)


ライアと王族、そして新女神教との間で起きた事件は、貴族の間でも有名な話だ。


権力争いに終止符を打とうと開拓を進めていた当時の第一王子が、護衛を依頼した冒険者パーティごと死亡した事件。


その生き残りが、あのライア。

双剣のライアとして他国にも名を轟かせる、指折りの実力者。


そんな彼女の全てを奪ったのが、フィギルの前に座る愚鈍な王と――


「さて、フィギル子爵。迅速な対応で、我が娘リアラは“病”を脱した。後ほど褒美を与えよう。……私情ゆえ大したものは渡せぬが、最大限の礼は尽くす」

「はっ! ありがたき幸せにございます!」


滞りなく話が終わりかけたその時、ノックもなくドアが開いた。


王の従者は先ほどよりも深く頭を下げる。

フィギルも、すかさず跪く。


できれば会いたくなかった人物。


女神教教皇べゼブが装飾品の擦れる音を立てながら歩いていく。


そして、いつの間にか立っている王の前で止まった。


頭を下げることもない。

不敬罪で死刑になってもおかしくない態度だが、周りに控えている従者も騎士も、何もいえない。


「リアラ王女の“病”が治ったと聞き、馳せ参じました。心よりお祝い申し上げます」

「……うむ。感謝するぞ、教皇よ」


教皇べゼブはちらりと視線を流す。


「あなたがフィギル子爵ですか。お手柄でしたね」

「はっ」


頭を上げずに返事をするフィギル。

名は覚えられても、顔を覚えさせるわけにはいかない。


そんなフィギルを教皇べゼブは気にしない。

平伏されるのが当然だと思っているからだ。


「備蓄があったわけではありませんよね?」

「もちろんです。今回採取した分も、すべて献上いたしました」


「それなら、こちらに渡していただきましょうか。王よ」

「……うむ。べゼブ様がお帰りになる時に、渡しましょう」


本来は備蓄しておく予定だったのだろう。

それがあれば、万が一貴族の跡取りが患った時に恩を売れるからだ。


だが教皇べゼブの圧力には抗えず、王は承諾した。


(どちらが王か……子どもでもわかるな。だが誰も逆らわない。いや、逆らえない。結局この国では、女神教が法であり剣であり――王さえも従う存在なのだ)


毒を飲み込むように、フィギルは黙り込んでいた。


教皇べゼブの用は済んだのだろう。

最後にフィギルの跪く頭の前まで移動し、見下ろす。


「では私は王女の見舞いに行きますか。……もっとも、これが“女神の印”であれば、リアラ王女は女神のもとへと帰っていました。大変名誉なことでしたが……"ただの病"で残念です。ねえ、子爵?」

「はい」


教皇べゼブは王に頭を下げることも声をかけることもなく、悠然と立ち去った。


扉が閉まり、王が深い息を吐く。

フィギルは姿勢を変えず王の言葉を待っていた。


「では、私も行こう。お前は泊まっていくか?」

「いえ。仕事が残っておりますので、領地へ戻らせていただきます」

「……そうか。飛空艇の使用を許可する。呼び出してすまなかったな」

「もったいないお言葉です、我が王よ」


#


ひとり残された部屋。

フィギルはため息ひとつ漏らさず、思考を巡らせ続けた。


(褒美よりも、教皇に名前を覚えられたことが致命的だな――結局、損をするのは俺か)


この国に生まれた者は誰もが女神教の教えを受ける。信仰が日常に根付いている。


しかしフィギルは幼い頃に旧女神教を。

成長してからは新女神教をそれぞれ教えられて育った。


両方を理解しているからこそ、フィギルは知っている。


新女神教がいかに教会の要人の都合で作られたものか。


旧女神教がいかに“人間の自主性”を助けるものかを。


(建国の時から、この国を蝕み続ける者たち――)


人に優しいのは、どちらなのかを。

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