表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/180

幕間 急ぐゼアス

妹の―ナリアが倒れた。


その知らせが訓練中のゼアスに届いたのは、アイオンが森へ入る前のことだった。


村から街へ、街から街へと伝令魔法で届いた報せ。


3年前に弟がかかった、子どもだけが罹る原因不明の“奇病”。


新女神教は「女神の与える試練」と称しているが、ゼアスにとってはそんなもの信じられるはずがない。


(ただの奇病だ!そんなものに、なぜ俺の家族ばかりが!)


やり場のない憤りを胸に抱きながら、ゼアスは馬を走らせた。


街につくたびに馬を乗り換え、自身の休憩は最小限に抑えて、ひたすら駆け続ける。

それでも、まだ距離はある。


(…間に合わないかもしれない)


頭では理解していた。

だが、それでも馬を止めることはできなかった。


「くそっ!」

「今は向かうしかねぇよ。お前が悪いわけじゃない」


共に村を目指す相棒が、冷静にそう言った。


「あれは、子どもなら誰がなってもおかしくねぇ。女神教じゃどうにもならない。次の世界へ渡るための“試練”だとよ。…そんなんで金だけせしめて、せいぜい痛みを和らげる回復魔法をかける程度だ。ろくなもんじゃねぇ」


馬上で、相棒―ジェダは毒を吐くように言葉をこぼす。


「…うちの家族は女神様を信じてる。いわゆる“旧女神教”だ。そんなでたらめじゃ納得しないさ」


オルババ村には、旧女神教徒が二人もいる。

その珍しさを、この一年で嫌というほど思い知らされてきた。

どれだけ異常な事なのかを。


「そういや弟くんが蘇ったんだっけか?奇跡だぜ!そんな話、聞いたことがねぇ」


ジェダが豪快に笑う。

ゼアスは苦い顔をした。


「…でも、あの日から弟は、弟じゃなくなった。別人になったみたいだ」

「とんでもなく強くなったんだろ?」


「ああ。身体強化の使い方が理解できないほどで、父を簡単に倒してた。…俺でも勝てない」

「お前の父さんって、元兵士で団長殿の同僚だったんだよな?」

「ああ。今じゃDランク級の魔物が精一杯だが、経験はある。そんな父を、一瞬で倒したんだ。夜に訓練してたくらいらしいけど…」


それに――。


「力のこと以上に、内面の変化が大きかった。…人との関わりを、家族とすら拒むようになった」


思い出す。

駆け寄ったナリアの手を、跳ね除けて逃げ出す弟の後ろ姿を。


「父も母も言っていた。“冥府から戻るときに何かがあったのだろう”と」

「…まぁ、死んで生き返るなんて、普通じゃねぇ。何かが変わっても不思議じゃないわな」


頷きながら話すジェダ。

走り続ける馬には酷かもしれないが、こうして話すことでゼアスの気持ちは幾分か軽くなった。


だが――。


(ナリアまで、あんなふうになったら…!)


死ぬか。

生き残っても別人になるのか?


人懐っこい笑顔のナリアを思い出す。

ゼアスの胸は締め付けられた。



「おっ、見えたぜ!」


しばらく走った先に、次の街が見えてきた。辺りは、もう薄暗くなり始めている。


「今日はここに泊まろう」


本当は夜でも進みたかった。

だが魔物や野盗の危険がある。

余計な戦闘は避けるべきだった。


「おう!とりあえず馬屋に行くか!」


ここまで全力で走ってくれた馬とも、ここでお別れだ。


「買い取りと購入で―ほいっ、毎度あり!明日の朝、取りに来てくれ!」


馬屋との取引を終え、ゼアスは馬を優しく撫でる。


「ここまで助かった。ありがとう」


別れを告げると、ジェダが声をかけてきた。


「さーて宿だ宿!村まであとどのくらいだ?」

「…どう見積もっても、あと3日はかかる」


どれだけ急いでも、この日数は変えられない。

村の近くにある、フィギル領主の街を経由し、最後の馬を乗り換える。そこから一気に村へ駆ける予定だ。


「へぇ〜。もうすぐ雪が降るんだろ?」

「ああ。降る前に村に着ければいいんだが…」


「なら尚更しっかり準備しなきゃな!無駄遣いせずに今日はちゃんと休もうぜ!」

「ああ」


休める気などしないが。


「まぁ、慌てず、されど急いで向かうために!宿に行くぞ!」


ジェダがゼアスの肩を叩き、前を歩き出す。


「助かるよ。ついてきてくれて、ありがとうな、ジェダ」


心強かった。


「がははっ!水臭ぇこと言うんじゃねぇ!相棒じゃねぇか!」


兵士訓練では、二人一組で行動することが多い。

ゼアスは、バディを組むジェダに深い信頼を寄せていた。


「…それに、興味があるからな。1度死んで蘇った、奇跡の体現者に―」


ジェダはぽつりと呟いた。


ゼアスは、村の誰にも話していない“アイオンの蘇生”をジェダにだけ語っていた。

それだけ心を許していたからだ。


―そのときのジェダの顔は、笑ってはいなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ