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望まぬ2度目の人生を。〜前世の記憶と痛みを抱いて、それでも俺は生きていく〜  作者: 灰とダイヤモンド
向き合う心は微笑みと共に

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あなたの望み

畑の収穫が終わってしばらくすると、冷たい風が辺りを巡るようになった。


この世界にも季節の移り変わりがあり、冬が訪れた。


と言ってもそれは場所によるらしい。


ローズレッド王国では四季が巡るが、隣のバルガ帝国という国は厳しい雪原地帯が多く、生きづらい土地が多いという。


今はまだ、関係のない話だが。


#


「じゃあ、見回りに行ってくる!」

「気をつけてね、ラクト」

「お父さん、いってらっしゃ〜い!」

「おう、ナリア! セアラ、頼んだぞ!」


冬の間は畑仕事が休みになる代わりに、自警団の仕事が中心となる。


ラクトは朝の訓練に加えて、夜の見回りも担当している。


他の領地と比べて安全な地ではあるが、数年前は賊が村の少女を誘拐するなどの行為があった。


その時は防がれ、村の防犯管理を見直し、次がないようにと対策と警戒を強めた。


しかし、賊も生きるのに必死だ。

学習し、別の手口で侵入することもある。


警戒しすぎて無駄になることはあるかもしれない。

しかし、やっておいてよかったと思える方が何倍もいい。


冷える夜風に吹かれながら、見回りの配置場所にラクトは急いだ。


#


一方、数日前からアイオンは村を出ていた。


冬は食料の確保が難しくなり、雪が降ればなおのこと。


そうなる前に、ホーンラビットを狩るために森へ入っていた。


同じように入った自警団の調達班と被らぬよう、離れた区域で。


協力すればより多く狩れる。眠るときも交代で見張れる。


ラクトはそれを理由に、自警団と共に動けと説得してきた。


だがアイオンはそれを拒み、ひとりで村を出た。


ひとりならいざという時に迷わない。

好きなように動ける。


そして、それが心地よかった。


焚き火を前に、前世の自分の生活を思い出す。


あの頃も、こうしてひとりで生きていた。

懐かしさと共に、今が酷く孤独に思える。


その考え自体が間違ってると頭を振り、孤独感を振り払う。


(絆されるな。俺の居場所はあそこにない。この世界のどこにも存在しない。俺は"愛されるべきアイオン"じゃない。ただの……寄生虫だ)


冷たい風が、頭と心を冷やしてくれた。

それが間違ってるとは思えなかった。


どこまでいっても後ろめたい心がついて回るから。


#


数日後。


まとまった数を狩り終え、村に戻る。

それを肉屋に売り保存食を買い、また森へ戻るつもりだった。


家には寄らない。

そうする必要がないと思っているから。


「おい! アイオン!」


そのとき、門番をしている自警団員が大声で駆け寄ってきた。


もう一人は鐘を鳴らしている。

外敵を知らせる音だ。


「なにかありましたか?」


顔は知っているが名前までは覚えていない。

殆どの村人に対してそうなのだが。


そんな団員が、血相を変えていた。


「どこに隠れてたんだよ! 早く家に帰れ!!」

「隠れてたって……森に行ってただけですよ。何かあったんですか?」


問い返すと、怒鳴り声が飛んだ。


「このバカッ!  ナリアちゃんが倒れたんだよ!!」

「……え?」

「だから! ナリアちゃんが昨日倒れたんだよ!」


予期せぬ言葉に、アイオンの頭が真っ白になった。


#


走った。


狭いはずの村が、異様に広く感じる。

見慣れた家の扉を開ける。


「アイオン!  どこに行ってたの!?」


珍しく、セアラが声を荒らげて怒鳴った。

目は真っ赤に充血し、涙の痕があった。


「すいません。ナリアは?」

「苦しんでるわ……熱が下がらないの。急に倒れて……前のあなたと同じ症状よ」


家の扉が再び開く。


「入るわ。 アイオン! あなた、どこに――いえ、そんな余裕はないわ」


レアが何か言いかけて、それをやめた。

ベットで眠るナリアの様子を見つめる。


「大丈夫よ、ナリア」


柔らかな光がナリアを包む。

回復魔法だ。


だが――


「ごほっ、ごほっ……はぁ、はぁ……」


ナリアは苦しんだままだ。


「レア様、どうか! ナリアを助けて!」

「……この"奇病"に回復魔法の効果は薄いの。できるのは、少し苦しみを和らげることだけ」

「あぁ、ナリア! ナリア!」

「ごほっ、ごほっ……お母さん……苦しい……ごほっ…」

「大丈夫よ、ナリア! 私が傍にいるわ!」


レアの魔力が強まり、緑の光が明るくなる。

ナリアの呼吸が、少しだけ穏やかになる。


そのとき、ベティが家に飛び込んできた。


「レア様〜! ラクトさんが一人で行ってしまいました〜! アイオンさんとはすれ違ったようで〜。 ゼアスさんには村長さんが兵団へ知らせを出しましたよ〜」


その言葉に、アイオンが反応する。


「ラクトさんはどこに?」

「薬草を探しに〜」

「薬草? そんなものがあるんですか? なら、事前に用意しておくべきでは?」


アイオンが問い詰めるように言うと、レアは一瞬ためらい、静かに頷いた。


「……確かにあるわ。けれど、普通には手に入らない」

「どういう意味です?」

「冒険者ギルドのAランクやSランク……そんな人たちが挑んで、それでも帰らないのが普通。それほどの場所にしか生えていないのよ」


アイオンの脳裏に嫌な予感がよぎる。


「それって、まさか」

「……禁断の森。その奥地に生えている、赤い薬草。それがなければ、この奇病は決して癒えない……」


レアが苦々しく答える。


「あぁ、ラクト……」


セアラが床に崩れ落ちる。

アイオンが慌てて支える。


「セアラさん、しっかりしてください!」

「ああ……ラクト……どうして……!」

「三年前――もうすぐ四年になるわね。……あの時は私たちも村長たちも、必死で止めたの。既に雪が降っていて、採集の望みはなかったから。……無駄死にになるだけだと」

「……正しい判断ですね」


禁断の森。


Cランク以上の魔物が蠢く、恐るべき禁足地。

森の中で生まれた命以外を受け入れない土地。


そう、記憶している。


「でも、今回は止められませんでした〜。“俺がナリアを助けるんだ!”って〜。……セアラさん、申し訳ありません〜」


ベティが頭を下げる。

口調はいつものままだが、その顔には悔しさが滲んでいた。


「ベティ様のせいでは……ありません。……無事を祈るしか……私にはできない……」


アイオンの腕を掴み、涙をこらえるセアラ。


「……私の魔力が続く限りは、ナリアは持ちこたえられる。その間にラクトが薬草を手に戻れれば……」


レアもまた、無理を承知で言葉を紡ぐ。

けれど、その未来は限りなく薄い。


ラクトも帰らず、ナリアも――

その未来の方が、簡単に予想できた。


アイオンはそこで間違った考えに囚われる。

いや、かつての"歪んだ願いの続き"を叶えるための――チャンスがきたとすら考えてしまった。


「ナリアとセアラさんのこと、お願いします。レア様、ベティさん」


縋るセアラの手をそっと解き、アイオンは立ち上がる。


「ア、アイオン?」


セアラが問う。

だが、アイオンの表情がすべてを物語っていた。


「ラクトさんを止めて、俺が森に入ります。まだ間に合うはずですからね」

「だ、駄目よ! そんなの駄目、アイオン!」


強く抱きしめられる。

しかし、この温もりがずっと嫌いだった。


見に合わない幸福な家庭。


家族という存在の体現ともいえる、母親の温もりという名の無償の愛情。


しかし、自分に向けられたものではないもの。


「……今の俺の方が、ラクトさんより強い。なら、俺が行く方が生存確率が――1くらいにはなるはずです」

「そんな……あなたまで失ったら……」


セアラの瞳から涙が溢れる。

セアラも、どこかで諦めてしまっていた。


「行かないで! 一緒にいて、アイオン!」


なぜか、それも許せないと感じた。


「……なら、セアラさんはナリアとラクトさんを諦めるんですか?」


その言葉に、セアラは絶句した。

目を見開き、とっさにアイオンから離れる。


なぜか胸が痛んだ。

けれど――言わなければならなかった。


「俺は、元は死んでた命だ。もし帰ってこなくても、ラクトさんがいればまだマシなはず。知らせを受けて、ゼアスさんも戻ってきます。少なくとも、家族は壊れはしないはずです」

「アイオン……あなた――」


冷たく放たれた言葉にセアラは耐えきれず、意識を失う。


その身体を支える。


(これで見納めかな。家族ごっこも終わりだ)


今世の母は、優しかった。

父も、兄も、妹も。


だからこそ、重かった。

自分に対する愛ではないとわかっているから。


だが、捨てきれなかった。


村を出て、逃げ出すことも簡単にできた。

女神に与えられた知識があれば、どうにでもなる。


でも、できなかった。

中途半端に拒む事しか――


「わざと嫌われるような言い方をする必要はないのよ?」


レアが諭すように言う。

そういえばいたなと、アイオンは視線を向ける。


「そんなつもりはありませんよ。事実を言っただけです。あなた達が、一番わかってるんでしょ?」


セアラを寝かせながら、感情を押し殺す。


「……顔に出てますよ〜。優しい人ほど、隠すのは下手なんですね〜」


ベティはいつものように微笑む。

レアが真剣な眼差しでアイオンに問いかける。


「――"あなたの望み”は、なに?」


望み?

頭に浮かんだのは、前世のあの瞬間。


そして今再び理由を見つけられて、叶われようとしている望み。


(死にたかった。消えたかった。それだけを望んで、俺は――)

「違うわよ」


レアの声が割って入る。


「そうじゃない。"本当のあなた"の望みは、それじゃない。わかってるんでしょ?」


レアはアイオンへ一歩、近づく。

ベティは突然の行動に焦り、魔力を高めてナリアを癒し続ける。


アイオンはそんなレアに一歩引き下がる。

怯えと怒りが顔に浮かぶ。


「クソ女神か? あいつがなにか、あんたに干渉してるのか?」


レアは答えない。

ただ穏やかな微笑を浮かべ、さらに近づいた。


「言ったでしょう? 誰も誰かの代わりにはなれない。あなたは、あなたなのよ」

「……来るな。俺に近寄るな!」


拒絶する声が震える。

アイオンは壁に背中をつける。


後ろに下がる場所はもうない。

レアは微笑みながら、そっとアイオンの頬に手を伸ばす。


「怯えないでいいのよ。あなたはあなたのままで人と触れて――温もりを受け入れていいの。誰もそれを否定しない。"あの子も"、あなたを恨んだりしないわ」


その手が頬に触れ、温かさが伝わる。


人の温もり。

他人の温もり。


その温もりに、"今世の記憶"が重なる。


セアラの手に包まれたときの優しさ。

ラクトの豪快な笑い声と、背中を叩く力強い手。


ゼアスの怒る顔も、呆れた顔も。

そして、ナリアの無邪気な笑顔も。


拒んできたはずなのに、確かに受け取ってしまっていた。


“家族”としての愛を。


昔から欲しがり、焦がれ――そして諦めてしまった、たったひとつの望みを。


レアはアイオンの目を見つめる。

全てを見透かすように。


「もう一度聞くわよ、"アイオン"。『あなた』は、どうしたいの?」


その目がアイオンの心をまっすぐに捉えた。


「……俺は、ナリアを助ける。ラクトさんも」

「そう……それで?」





「“家族”を守る」



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