書けない呪い
魔女の住む森は
街から10分ほど歩いたところにある
母さんは近所で魔女の好きなクランベリーパイを買い
二人で森へ向かう。
二人で歩いたのはいつぶりだろう。
森には恐ろし気な木々があったが…
母さんと一緒だから
不思議と怖くなかった。
魔女の家は森の中央にそびえる大樹の下にあった。
魔女は僕を見るなり、大きな虫眼鏡を取り出し
僕の瞳を凝視した。
「あーなるほどね。これは書けない呪いだね。
あんたのところのご主人と同じだ」
と言った。
「この子はどうなるのですか?」
と母さんはエプロンの胸の部分をぎゅっと掴み魔女に問う。
「うーん。この子の場合は、呪いを解かないと…もたないね。3年かな」
魔女の目は、
分析する科学者のように冷淡であった。
「呪いは解けるのですか?」
「この場合の呪いは解く(とく)のではなく、溶ける(とける)と言ったほうがいいかな…。
この子しだいだね」
「どうすれば…」
「そうさねー。9の試練に勝つことさね。ただこれは勇敢さがないとムリだ。
そんな坊主にはムリだよ。諦めな」
母さんは僕を抱きしめて泣きだした。
嫌だ嫌だ。
女性の泣き顔はみたくない。
僕はこう言った。
「試練に勝つよ」
しかし何も反応がない。
僕は声を振り絞りこう言った。
「試練に勝つよ」
魔女は目を細め、僕の顔をまじまじと見つめる。
そしてもう一度虫眼鏡を取り出し、僕を凝視する。
なにかを見つけたのか…
古びた書物を1冊取り出す。
「なるほど…なるほど…うむ。これなら可能性があるやもしれん」
そう独り言をいい。
母さんに
「一つ方法はある。この子しだいだが…。信じてみるかい」
そう訊ねる。
母さんは、父さんにも相談してみるといい、魔女の家を後にした。
二人は深夜まではなしあっていた。
扉からこぼれる光を感じながら
僕は自分の運命についてしばらく考えた。
そして気付けば朝だった。
いろんな事があって疲れたのか
ぐっすりと眠っていたようだ。
翌日僕は母さんと父さんに手をひかれ魔女の家に向かう。
「それではよろしくお願いいたします」
二人は深くお辞儀をした。
「じゃあ。私達はパインを信じているから」
と二人は僕を抱きしめ、魔女の家を後にした。
魔女は僕に
そこに座りなさい
と小さな椅子をだしてくれた。
キノコの絵の描かれたカワイイ椅子だった。
そしてオイシイお茶だと
ハーブティのようなものをすすめられる。
「このお茶は1分しか香りが持たないから一気に飲みな」
と一気飲みをさせられた。
花のような香りに、少しベリーのような風味と、奥底にナッツのような味がした。
魔女は僕が執筆できない理由を語り出す。
「お主が執筆できぬのは恐怖じゃ。
その恐怖に勝たないと前にすすめない。
これからお前は一人っきりで旅にでる。
そこでの出会いや経験にどう向き合うかで
お前のこれからは決まる」
「どんなことが起きるのですか?」
「教えてやりたいのはやまやまじゃが…人それぞれ…いろんな恐怖をもっている。
だからなんとも言えないのじゃ」
こころなしか身体と頭がぼーっとする。
「では転移するぞ」
その魔女の一声で
僕は別の場所に移動していた。
ここは…?
広場か。
ふと気が付くと吟遊詩人が僕のそばで
僕を見ながらにやにやしている。