表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/59

54章:恋人未満の一日

地方都市のクライアント先、午前のプレゼンを終えたあとの空気は妙に静かだった。


「ここの商店街、昼時は混むらしいですよ」

 弓弦がタブレットを畳みながら、自然な口調で言った。


「……視察ってことか?」


「もちろん。主任と二人きりでの調査、効率的ですから」


 その言い方に、明確な悪意も色気もないのに、妙に胸に引っかかる。

 駅前の小さなカフェ、隣り合う席。わざわざ向かいではなく隣を選んだのは、どちらからだったか。


 食後、ふと歩道で別の営業チームに声をかけられる。

 同世代の男が真琴に軽口を飛ばすように話しかけた――


「主任、また東京で飲みにでも行きましょうよ。今度こそ、ちゃんと一緒に」


「……ああ、考えとくよ」


 軽く笑い返したその瞬間、横にいた弓弦の気配が変わった。

 視線も声も乱さず、ただ一歩、真琴の前に出るように立った。


「予定は詰まっていますから。主任のスケジュール管理は、僕がしているので」


 その男が去ったあと、真琴は弓弦の方を見ずに言った。


「……言いすぎだ」


「事実ですよ。僕は、あなたの時間とエネルギーを“浪費”されたくないだけです」


 言葉は冷静。だが、そこに含まれていたのは、明らかな独占の気配だった。



 ホテルに戻る帰り道、無言のまま並んで歩く二人。


 隣にいるのに、距離が近すぎて逆に息苦しい。

 けれど、振り払おうとするほど、彼の存在は重く、確かで、そして“離れる理由”を奪ってくる。


「主任。今日のあなた……少し、可愛かったですよ」


 そう言われた瞬間、思考が一瞬で止まる。


 冗談か、本気か、判断できない。

 けれど、声の温度が心の奥に焼き付いた――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ