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46章:認めてしまえば、逃げ道はない

オフィスの照明が落ちた夜。

 残業を終えて静まり返ったフロアに、ふたりだけの空気が満ちていた。


 パソコンを閉じる音。ソファに座った弓弦が、何か言いたげに真琴を見ている。


 逃げようとすれば、あいつは先回りする。

 無視しようとすれば、沈黙で心を読まれる。

 だからもう、どの道にも「弓弦」がいるなら――


(だったら、俺のほうから向き合うしかないだろ)


 真琴はゆっくりとソファに向かって歩いた。

 弓弦の隣に立ち、しばらくその横顔を見つめる。


「……なんで、お前はいつも余裕そうな顔してんだよ」


「主任が、俺に揺れてくれるからですよ」


 弓弦は静かに微笑む。


「感情をコントロールしようとして、できなくなってる。そんなあなたが、一番理性的に愛しい」


「……ほんと、性格悪いな」


「ええ、だから、主任みたいな人しか惹かれないんです」


 その言葉に、真琴は目を閉じた。


 鼓動が早い。けれど、もう見て見ぬふりはできない。

 無視したって、遠回りしたって、こいつはきっと諦めない。


 だったら、俺から言うしかないだろ。


「……好きだ」


 言葉が、思っていたよりも穏やかに出た。

 叫びでもなく、懇願でもない。ただ、真っ直ぐな本音。


 弓弦の目がわずかに揺れる。けれど、表情は崩れない。


「そうですか。……では、次に必要なのは“覚悟”ですね」


「もうしてるよ。お前に勝つのは、諦めた」


「勝ち負けではありません。ただ、俺を“選んだ”というだけです」


 弓弦が立ち上がる。距離が、また近づく。


 指先が真琴の頬にそっと触れる。けれど、唇はまだ遠い。

 まるで“続きを言え”と待つように。


「好きだ、弓弦」


「……今夜、主任がそう言ってくれると思ってました」


 言い終わるが早いか、弓弦はその距離を一気に詰めた。

 キスではない。けれど、呼吸が混ざるほどの近さ。


「逃げないと決めたあなたを、これからは“手放す理由”がありませんね」


 囁くように言われたその一言が、甘く、そして決定的に真琴の心を縛った。

やっと…動いた…。すみません。真琴が優柔不断すぎて…。

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