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25章:境界線の曖昧

翌日。社内の会議室。プロジェクト会議が終わると同時に、周囲の視線がわずかに交錯するのを、真琴は敏感に感じ取っていた。


「長谷川さん、最近柊木くんとよく一緒にいますよね」


 何気なく放たれた同僚の言葉が、妙に耳に残る。


「……まぁ、仕事で組んでるからな」


 そう返しつつも、心のどこかがざわつく。


 自分の中に、柊木弓弦という存在が、少しずつ“ただの後輩”からズレていっているのを、真琴はもう否定できなかった。


 それを知られるのが怖い。

 けれど、気づかれたいという感情が、少しだけある。


「……先輩、集中できてませんね」


 会議室を出たあと、すぐに弓弦が小声で囁いてくる。


「そんな顔じゃ、バレますよ。俺たちの“距離”」


 悪びれず、むしろ楽しそうに。

 その声音は、秘密を共有するような甘さを帯びていた。


「お前、……わざとやってんだろ」


「まさか。すべては、自然な結果です」


 口角をほんのわずかに上げ、真琴の腕に触れるか触れないかの距離で歩く。


 こんな“曖昧”が、一番危うい。

 それでも、真琴の足は、もう柊木から離れることを選べなかった。



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