24章:告白の定義
夜風が生ぬるく頬をなでる帰り道。
レストランを出たあと、二人は駅までの道を並んで歩いていた。沈黙が気まずくないのが、逆に妙だった。
「……なぁ、さっきの言葉」
「どれですか?」
「“俺が先輩をどう思ってるか”ってやつ」
真琴が切り出すと、弓弦は歩を緩め、立ち止まる。
月明かりの下、その横顔はいつになく穏やかだった。
「言いませんよ。今はまだ」
「……なんでだよ」
「答えを急ぐ人ほど、本音から遠ざかる。そういうものです」
またそれだ。
理屈で煙に巻く、冷静すぎる癖に、核心だけはぐさりと刺してくる。
「でも、先輩が“それ”を自覚したときは……」
弓弦が、わずかに近づく。
「ちゃんと、逃げ道は残しません」
その声は優しかった。だが、真琴の背筋を静かに凍らせる確信があった。
「なぁ、……これって、告白か?」
「さぁ。先輩が“告白”だと思えば、それでいい」
まるで、答えの定義すら支配してくるような男。
だけど、真琴はなぜかその曖昧さに惹かれはじめていた。
弓弦は一歩先に歩き出し、ふと振り返る。
「それより、明日のプレゼン資料。先輩、もうちょっと俺を頼ってもいいんですよ?」
いつも通りの調子で、けれどどこか含みのある笑み。
「……お前な、ほんとに……」
口調は呆れたように。でも、心はもう、否定しきれなかった。




