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20章:気づかれた違和感

「最近、お前……ちょっと雰囲気変わったよな」


 何気ない同僚のひとことに、真琴は一瞬、手を止めた。


「そうか?」


「うん。なんか、柔らかくなったっていうか。あと……あの柊木くんと、よく一緒にいるよな?」


 図星。だが、反射的に顔には出さない。


「仕事上の都合だ。あいつは分析担当だから」


「へえ。でもさ、あの弓弦くんって……結構、先輩のこと“見てる”よな」


 “見てる”という言葉が、妙に引っかかった。

 たしかに、彼の視線は常にどこか計算されていて、だが同時に――真っすぐ過ぎる時がある。


(誰かに悟られるほど、あいつの距離が近づいてる……?)


 焦りにも似た何かが、胸の奥をひっかいた。


 その日の午後。オフィスの片隅、書類を整えていた真琴のもとへ、弓弦がふらりと現れる。


「先輩、これ……昨日の件、まとめておきました。確認を」


「ああ、悪いな」


 そう言って手を伸ばすと、弓弦はすっと書類を差し出しながら、微かに指先を重ねてきた。


 一瞬。ほんの一瞬。


 だが、そのわずかな接触に、真琴の心拍が跳ねる。


「先輩、また顔赤くなってますよ?」


「……うるさい」


「ふふ。ちゃんと“意識”してくれてるって、伝わりますから」


 口元を歪めて笑う彼の顔は、完全に余裕そのものだった。


 その瞬間、隣のデスクの同僚と目が合う。

 ――見られていた。さりげない“あのやりとり”を。


(……やばい)


「柊木。業務中だ」


「あ、すみません。“つい”ってやつです」


 軽口を叩きながら去っていくその背中に、真琴は苛立ちと……どうしようもない熱を感じていた。


(あいつは、どこまで計算して……どこまで本気なんだ)


 混乱は静かに深まっていく。

 周囲に、そして自分自身にも隠せなくなっていく感情の輪郭が、徐々に浮かび上がっていた。

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