18章:悟られる気配
「最近さ、長谷川主任と柊木くん、やけに仲良くない?」
何気ない休憩スペースの会話。
それは、真琴の耳にも届いていた。
――“仲良くない”、だと?
「ないよ、そんなの」
咄嗟に否定しようとして、言葉を飲み込んだ。
それは、否定すればするほど“何かある”と思われるような、妙な空気だった。
「だって、会議中もあの視線、さ……。柊木くん、明らかに主任ばっか見てるよね」
「目が合うと、にやっとするんだよな〜、あれ絶対わざとだよ」
冷静なはずの自分の心臓が、音を立てて打ち始める。
(見られてる? いや、それは……)
気づいていた。弓弦の視線。あいつが笑うタイミング。
誰にも聞こえないように耳元でささやいてくる声。
『今日のネクタイ、俺の好みですね』
『もう少し気を抜いてくれても、俺以外は気づきませんよ』
(……あれ、わざとか)
真琴はデスクに戻ると、わざと弓弦の席から見えにくい位置に腰を下ろした。
だが――気配だけは、どうしても消えなかった。
――じっと、見ている。
そう確信できる視線。気づけば、心のどこかがそれを“待っている”。
そして、ふとしたタイミングで――弓弦が、また“あの笑み”を浮かべる。
まるで、「気づきましたね?」とでも言いたげに。
(……わざと、周囲に気づかせようとしてるのか?)
焦りと困惑。だがその一方で――
真琴は自分の心の中に、「止められない何か」があるのを、もう否定できなかった。