表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/59

16章:侵食される日常

翌朝、真琴はぎりぎりまで布団の中で目を閉じていた。

 昨日の会議室でのやり取りが、ずっと頭から離れない。距離も、言葉も、視線すらも、危険な温度を帯びていた。


「……あいつ、ほんと、なんなんだよ」


 独り言のつもりだったのに、玄関のインターホンが鳴ったのは、その直後だった。


『長谷川主任。おはようございます』


 インターホン越しの声に、身体がびくりと跳ねた。まさか――


 恐る恐るドアを開けると、案の定そこにいたのは、完璧なスーツ姿の柊木弓弦だった。


「なんで……部屋番号まで知ってんだよ」


「以前の企画資料、送り先に主任の自宅が記載されてましたよ。正確に言えば、“知ってた”んじゃなくて、“気づいただけ”です」


 言葉は冷静だが、微笑は余裕に満ちている。

 彼は片手に缶コーヒーと、資料の入った封筒を持っていた。


「通勤ついでにお迎えを。今朝、電車が止まってるみたいですし」


「……調べたのか?」


「ええ。主任が今朝、遅刻ギリギリまで動けないタイプだっていうのも含めて、ですね」


 まるで、すべてが“予定通り”だと言わんばかりの流れ。

 どんな言葉を返しても、彼の支配の中にあるような気がして、真琴は舌打ちするしかなかった。


「……乗せてもらうのは一回だけだ。誤解されたら面倒だしな」


「大丈夫ですよ。俺が主任を“誤解”するようなことは、ありませんから」


 弓弦は助手席のドアを丁寧に開けて待っている。

 その一連の所作は、どこまでも優雅で紳士的――なのに、どこか“檻”のようにも感じられた。


 その車に乗ることは、きっと何かを失うことだ。けれど。


 背を押されたわけでもなく、引きずられたわけでもなく。

 自分の足で、真琴はその空間に足を踏み入れてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ