カボチャ頭の好奇心 〜白い少女と奇妙なダンジョン〜
焚き火のぱちぱちとはぜる音が、ダンジョンの静寂に溶け込んでいた。オレンジ色の炎が揺れ、影を踊らせる。白い少女はその光を見つめながら、カボチャ頭が作った簡素なスープを静かにすくった。ダンジョンの奥深くにいたころに比べれば、こうして食事をとるだけでもずいぶん「人間らしい」ことをしている気がする。
不死身のカボチャ頭は、焚き火の向かい側で足をぶらぶらさせながら、じっとこちらを見ていた。最初は気のせいかと思ったが、ずっと見ている。
「……何?」
少女が不審そうに問いかけると、カボチャ頭はぴょこんと前のめりになった。
「いや、お前ってよく見たら、変なとこいっぱいあるよな!」
「は?」
「角! 白くて透き通った、クリスタルみたいなやつ! それ、本当に硬いのか?」
言うが早いか、カボチャ頭はぴょんと跳ね、少女のすぐ近くまで寄ってきた。
「ちょ、近い……」
「いいじゃねぇか、ちょっとくらい! どれどれ……」
カボチャ頭は興味津々といった様子で、少女の頭に生えた角を指でこんこんと叩いた。
「おお、けっこう硬いな! でも、ただの石じゃなくて、なんか生きてる感じがする!」
「当たり前よ。私の一部なんだから」
「ふーん……」
カボチャ頭は感心したようにしばらく眺めていたが、今度は少女の背中へと視線を移した。
「んで、お次は羽! お前、これでちゃんと飛べるのか?」
「飛べるわけないでしょ。そんなに大きくないし」
「でも、動かせるんだろ?」
カボチャ頭に促されるまま、少女は少しだけ肩をすくめ、白い蝙蝠の羽をぱたぱたと動かしてみせた。すると、カボチャ頭はますます興味を持ったようで、羽を指でそっとつついてみる。
「おお、ちゃんと羽ばたくじゃねぇか! なんか、思ったよりふわふわしてるな。羽毛とは違うけど……」
好奇心旺盛なカボチャ頭に触られるのがくすぐったくて、少女はそっと羽をたたんだ。
「もういいでしょ」
「いやいや、最後にもう一つ! お前の尻尾、あれ何に使うんだ?」
「何って……特に使い道はないわ」
「えー、そんなのもったいないだろ! 例えばこう、バランスを取るのに使ったり……」
カボチャ頭が言いながら、少女の乳白色の透き通った尻尾をちょん、と引いた瞬間——
「っ……!」
少女の体がびくっと震え、思わず肩をすくめた。
「お、おい、大丈夫か?」
「……そこは、触らないで」
珍しく、少女はわずかに頬を紅潮させながら、そっけなく言った。カボチャ頭は何かを察したのか、「す、すまん!」と両手を挙げて後ずさる。
微妙な沈黙が流れた後、カボチャ頭は苦笑いしながらぽつりと呟いた。
「でも、こうやって見てると、お前の体って変わってるけど……なんか、いいよな」
「……?」
「普通の人間にはないものばっかだけど、お前らしくて、なんかすげえ綺麗だ」
焚き火の明かりがちらちらと揺れる中、カボチャ頭は無邪気にそう言った。
少女は一瞬驚いたような表情を見せたが、やがて「……ありがとう」と小さく呟いた。
焚き火がはぜる音だけが、ダンジョンの静寂に溶けていった。
——カボチャ頭の好奇心【完】