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第一話 謎の少女

第一話 目覚めと別れ、そして

暗く沈んだ雰囲気の部屋の中、カーテンの隙間から差し込む鋭い光が、悪意でも持っているかのように湊の目元を明るく照らす。


 唸り声を小さく漏らしながら、重い身体をゆっくりと持ち上げ、重く閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 いつもの部屋でゴミの山。想像していた何て事ない日常は、瞳に映った景色で崩れ落ちた。


 家じゃない。全く見覚えのない景色に、呼吸を少しばかり忘れてしまう程の衝撃が湊の思考を奪い取る。


いつもとは違う、暖かい布団に沈みこんでしまうほどに柔らかいベッド。高級感のあるアンティークな照明や、椅子、机。

 何処か心の隅で感じてた違和感が、次から次へと明らかになっていく感覚に、思わず背筋を冷たい汗が駆け抜けていく。


 まず、ここは何処なのか。最優先に把握しておきたいのは、確実にこれだろう。

落ち着いてきた脳をクールダウンさせながら、顎に手を添え、無意識に集中できる体制を取る。

 丁寧に寝かせられたこの状態から、相手に悪意があるとは到底思えない。寧ろかなりの善人だろう。

 次に把握しておきたいのは時間。

あの路地で気を失ったのは、確か深夜の2時頃。

窓から差し込む光を見る限り、今はおそらく朝から昼頃だろう。生憎、暫く予定は入れてなかった為にそこは特に問題無いだろう。


 行き着いた結論に安心しきった湊は、ほっと胸を撫で下ろしてスマホがあるはずのポケットに手を伸ばした。

ただ、指先に何かが当たる感覚はせず、強いて言えばいつ貰ったかすら分からないくしゃくしゃレシートの耳障りな音のみが湊の耳に入り込んでくる。


 先程まで安堵に包まれていた感情が、再び急速に冷たさを帯びていく。

ここに入っていたはずのスマホも財布も、貴重品何もかもが消え去っている。

 急いで上着の内ポケットや、ベッドの周りを見渡すもそれらしきものは一切見つからない。


 息が上がり、呆然と見つめていた部屋の景色が段々と狭まっていく感覚に焦燥していた、そんな時。

 

コンコン、と扉を規則的に叩く音がした。


 反射的に身構え、扉を睨み付ける。

暫く時間が経っても物音や声はせず、単調な音だけが部屋に響き続けていた。


 コンコン


 恐る恐る扉の方へと歩みを進め、ドアノブに手を掛けてこちら側に扉を引いた。

 そこには、誰も居なかった。疑問を抱えながら外へ踏み出そうとした一歩が、足元の何かに当たって阻まれる。


「……恩人を蹴る馬鹿が何処にいるんだ」

「……え?」


 急いで足元へと視線を落とすと、そこにはこちらをぎっと睨み付けている少女がぽつりと立っていた。

 その少女は湊の肩下にも満たない大きさで、あまりの小ささに思わず固唾を飲む。


「ごめん、本当に気付かなかった、……君が助けてくれたの?」

「ああ、お前が私の屋敷の前で倒れていたからな」


 湊の記憶とはかなり違う少女の発言に、思わず口が歪んだ。ただ、恩人な上こんな幼い子供に質問責めをするのも良くないと考えた湊が、膝を曲げて少女の目線へと合わせるようにその場へとしゃがみ込んだ。


 少女の鮮やかな朱色の髪が、外から吹き込んできた風によってさわやかに靡く。

身長は150㎝程だろうか。小さく、外国人特有の青い瞳が、湊の事を品定めでもしているかのように見つめ続けている。


「ごめん、僕のスマホってどこ行ったか分かるかな?」

「すまほ……?」


 ぱっとしない顔を浮かべながら、口元へと手を運んで考え込む少女。


「すまないが、そのような物私は知らない。念の為、屋敷に入れる前何を持っているか調べさせては貰ったが――

君は何も持っていなかったぞ」

「そう、」

 

沈黙が暫く続いた後、重い溜息を漏らした少女が少し言いづらそうに口を開いた。


「……お前は何故あんな場所で倒れていたんだ、それに私を知らないのか?」

「正直俺も覚えてないんだ、謎の生き物を追い掛けてたらこんな所に着いて……僕達、何処かで会った事ある?」

「……知らないならいいんだ、忘れてくれ」


 居心地の悪そうに目を逸らした少女に疑問を持ちつつ、何気なく部屋から廊下へと歩みを進める。

 横を向けば、果てしないと思える程に続く廊下が湊を出迎えていた。東京にこんな豪邸があるのか、そもそも日本とも思えないこの屋敷に言葉を失ってしまう。


「……ねえ、ここって――」

「そういえばお前、その服はなんだ?」

「え?ただのパーカーだけど」

「……聞いた事がない、お前本当にこの国の人間か?」

「はあ?僕は生粋の日本じ……」

 

 有り得ない、といった表情で湊を見つめる少女。

 ただ、湊は少女ではなく、その奥にある小さな窓を見つめていた。

 窓の奥に映る景色、それを見て思わず目を見開き言葉を失う。


「日本人…………!お前、まさか――」


 はっと目を見開いた少女、彼女の言葉を遮るように湊は扉の方へと走り出した。


「おい、待て!」


 少女の制止の声など一切耳に入らないまま、両開きの重い扉を開き、外の眩しい光が玄関へと射し込んだ。


 前に一歩踏み出し、外へと出て行く湊。


扉が閉まりきるその一瞬、館の中から呼ぶ声がしたが湊の耳には届いてすらいなかった。


 

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