表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/17

第一章16「変なお父さん」

「ここが私の家よ。……ちょっと散らかってると思うけど、ゆっくりくつろいでね」


 雑談を交えながら数分間歩き、ついに、エイミーの家へと到着したギレス。

 彼女の家は、手入れが行き届いた緑豊かな庭に囲まれており、とても散らかっているとは思えない。


「エイミーちゃんの家に来るの、久しぶりだなー! お父さん、元気にしてる!?」

「そ、そうね。相変わらずよ……」


 どうやら、エイミーの親とレアンナは旧知の仲らしい。

 しかし、レアンナに父親のことをかれると、エイミーは少し恥ずかしそうな顔をするのだった……。


 ――どんな父親なんだろう?


 成績優秀なエイミーのことだから、きっと真面目で、恰幅かっぷくが良くて、貫禄のあるお父さんなのだろう……。


 そう思うと、さらに緊張感が増すのだった。


「お、お邪魔します……」


 息をみ、彼女の家へと足を踏み入れる。

 すると――。


「おっかえりー! 私の可愛いエイミーよー!!」


 入ってすぐのタイミングで、奥にある階段の上から、変な男の声が響いてきた。

 その声を聞いた瞬間、エイミーは頭を抱えてしまう。


「ああ、もう……」


 エイミーはそう嘆く。


「えっと……。もしかして、さっきの声はエイミーさんのお父さん――」


 ギレスが言い終わる前に、階段の上からドタドタドタという豪快な足音を鳴らして、その声の主が姿を現す。


「むっ……!? 何か男の声がしたぞ……と思ったら、うおおおおおおおお!!」


 現れたのは、少し小太りの中年男性……。

 短パンに白い半袖のシャツという完全に季節外れな服装に、長く伸びたヒゲは、なぜかカールを描いている。

 そんなエイミーの父親らしき男は、こちらの姿が目に入るなり、天をあおいで雄叫おたけびを上げるのだった。


 失礼ながら、一言言わせてもらうと――かなりの変人だ。


 そう思っていると、エイミーが――。


「紹介します……。私の父、リンドンです……」


 悲しい顔をしながら、自分の父親を紹介するのだった。

 すると、リンドンが――。


「いかにも! 私がエイミーの父親であるリンドンであーる! 記憶の片隅の中の隅に覚えておくとよいぞ!」


 彼はそう名乗ると「かっはっは!」と豪快に笑うのだった……。


「あ、えっと、エティー・ヘイズです……」


 リンドンの変人っぷりに、完全に会話のペースを乱されているエティーは、ぎこちなく自己紹介をする。

 すると、リンドンは――。


「エティーちゃんか! よく来てくれた! エティーちゃんは、今年に入ってこの家に入ってくれた、二十六人目の記念すべき客だよ!」

「あ、そ、そうですか……」


 至極どうでもいいことをおめでたく豪語するリンドンに、エティーはドン引きしている……。


 ――な、何なんだ、この人。


 そんな二人のやり取りを見ていると、リンドンと目が合った。

 すると――。


「うおおおおおおお!! ついに……、ついに、ついについに、娘が男を連れてきたぞおおおおおお!!」

「え、ちょ、お父さん……!?」


 多大なる勘違いから暴走するリンドンに、エイミーは大慌て……。完全に彼女とはそういう関係だと思われてしまったらしい……。


「こうしちゃいられん!! すぐに結婚衣装の用意だ!! 予算はこれくらいで、会場は近くの教会で……」


 ――気が早いにもほどがあるだろ!?


「ま、待ってください……! 僕とエイミーさんは、そんな関係じゃ……!」

「そうよ、ギレス先生とは、"まだ"そういう関係じゃないわ!」


 ――え、まだ?


 エイミーが放った引っかかるワードに、ギレスはもちろん、リンドンも反応する。


「まだ、だと!? ということは、これから二人のハネムーンが始まるのか……!」

「ちょ、違うの!! 今のは、その……。ただ言い間違えただけだからー!」


 普段のエイミーとは思えないほど、完全にパニックになってしまっている……。

 すると、リンドンは――。


「かっはっは! ……まあ、今のは一割くらい冗談だよ! 私の可愛い娘にふさわしいかどうか、しっかり見極めないといけないからな!」

「残りの九割は本気じゃないですか!!」


 ギレスがそうツッコむと、リンドンは再び「かっはっは!」と豪快に笑うのだった。


 真面目で、恰幅が良くて、貫禄のあるお父さんだと思っていたが……。これは、もはや"変人"以外の言葉が見つからない……。

 しかし、ここで一つ気になることがあった――。


「あの、すみません……。お母様は……?」


 そう訊くと、エイミーと彼女の父親であるリンドンは、少し曇った顔をしてしまう。

 すると、エイミーが――。


「私のお母さんはね……。数年前の戦争で亡くなったの……」

「……!?」


 何だか訊いてはいけなかった空気になってしまう。

 すると、今度はリンドンが――。


「まあ、上がってくれ。それに、娘に新しい友達ができたと知ったら、きっと母さんも喜ぶからな! かっはっは!」


 まるで、湿っぽく気まずい空気を吹き飛ばすように、豪快にそう言うのだった。

 その姿を見ていると、変人だったイメージから、無理矢理にでも空気を明るくしてくれる、実は良いムードメーカーなのではと、ギレスは思ってしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ