第一章11「王者の凱歌」
「なあ、ギレス・カザールって知ってるか? ケンドリック」
その懐かしい名前を聞き、ケンドリック・ハスコールは少し嬉しそうな顔をした。
「ああ、知っているよ」
「そうか。やっぱり知ってる人は知ってるもんな、ギレスって……。何か最近、この街の学園のカウンセラーをやってるって話だぜ?」
「カウンセラーか……。また、苦手そうな仕事を選んだものだな、彼」
街を守る防壁の上で、ギレスについて会話をする二人の衛兵。
そのうちの一人、ケンドリックは、ギレスがカウンセラーをやっていると聞き、思わず苦笑してしまうのだった。
すると、もう片方の衛兵が――。
「何か、ギレスのことをよく知っていそうな言い方だな、ケンドリック」
興味深そうに会話を続けてくるのだった。
「まあ、彼とは、ちょっとした縁があってね。……数年前の戦争で、彼と共闘したことがあるんだ」
ケンドリックがそう語ると、相手の衛兵は愕然としてしまう。
「ええ!? 数年前の戦争といえば……。あの"シュネー魔法大戦"のことだよな!? そのときに、ギレスと共闘したって……」
「世界を巻き込んだ戦争だったからね、シュネー魔法大戦は……」
「く、詳しく聞かせてくれよ!」
興味津々といった様子で、話の続きを促してくる衛兵。
すると、ケンドリックは――。
「強かったよ、彼は……」
まるで、英雄の誕生を見たかのように、蒼天へと顔を向け、粛々と語り始める。
「どんな感じだったんだ、ギレスは……?」
「圧倒的存在……。絶対的王者……。といったところかな。あの戦争は彼がいなかったら、この国は負けていたとも言われているね」
「そ、そこまでの存在なのか、彼は……!?」
「そうだ――」
シュネー魔法大戦において、ギレスはまさに圧倒的な存在だった。
大戦では、天才と呼ばれた数々の魔術師たちを討ち破り、この国へ勝利をもたらしてくれた王者……。
「す、すごいな……」
「しかも、当時の彼は、まだ青っぽさが残る子どもだったんだ……」
「子ども……!?」
ケンドリックが告げた事実に、またもや目を丸くする衛兵。
「俺も、まさか戦争で、子どもに命を助けられるなんて、思わなかったよ」
今でも鮮明に思い出せる……。
自分の首に敵兵の切っ先が向けられ、命を奪われる寸前。
その一瞬の出来事の間に、彼は颯爽と現れた――。
「そうか……。しかし、そんな英雄レベルの人間が、なぜカウンセラーなんかに?」
「それは俺にも分からないよ。ただまあ、一つ言えることがあるとするなら――」
ケンドリックはそこまで言うと、話に一区切りをつけた。
「彼には――魔法の道しか縋るものが無かったんだ」
そう告げると、ケンドリックの脳裏に、幼きギレスの憂いを帯びた表情が浮かぶのだった。