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プロローグ「社会不適合者、ギレス」

「お願いします……!」


 ギレス・カザールは、魔法学園の校長であるデクスターに深く頭を下げた。

 白髪はくはつの髪と長いひげを携えたデクスターは、校長としての威厳があり、顔を合わせて会話をするだけでも精神がすり減らされる。

 そのデクスターが、ゆっくりと口を開く――。


「しかし、君は魔法使いとして優秀だと聞いておる……。若くして実戦経験もあるし、魔法使いとしての才能も高い……。そんな逸材いつざいだというのに、どうしても教師になる話を引き受けてはくれんのかいのう……」


 デクスターは、少し困った顔をする。


「申し訳ないですが、その話はお断りさせてもらいます……。僕みたいなやつは、人に魔法を教える立場に、どうしてもなれないのです……」

「そんなに謙遜けんそんすることではないぞ、ギレスよ。魔法使いというのは、皆、完璧な存在では――」

「働きたくないんです、僕……!」


 ギレスがハッキリと言うと、ズコーという擬音が似合うほどに、デクスターがこけてしまう。


「だ、大丈夫ですか、デクスター校長……!?」

「だ、大丈夫じゃ……」


 慌てて駆けつけるギレスだが、デクスターは何とか体勢を立て直した。

 そして――。


「な、何じゃ……。ということは、ただ働きたくないから、教師になる話を拒み続けていたのかのう……?」


 そうデクスターにかれると、ギレスは何度も首を縦に振った。


「し、しかしじゃな……。君の両親は、君が幼い頃に他界しておるし、君を引き取ってくれる親戚もいないのではなかろうか……? 現在、仕事も無いと聞いておるし、これからどうやって生活するのじゃ……?」


 痛いところを指摘してきされ、ギレスは泣きそうになる。


「今まで仕事を転々としてきましたが……。どれも続かず辞めてしまって……。デクスター校長に、教師のお声をいただいたときは、飛び上がるほどうれしかったです……! 嬉しかった、ですが――」


 そこで、ギレスは大きくため息をつく。


「僕……。どうやら、社会に出ること自体が向いていないみたいで、どこに行っても馴染めないんですよね……」


 思い出すのは、自分よりもはるかに仕事ができる仲良しグループ。そして、そこからはみ出た惨めな自分の姿……。

 それに、職場のイジメも頻繁にあったので、正直、社会に出るのが怖くなっている。


 働かなければ生きてはいけないのは分かっているのだが、その働くことすらマトモにできない人間は、どうしたらいいのか……。


 そう悩むギレスに、デクスターは優しく声をかける。


「ギレスよ。君には、魔法という誇れる才能があるのじゃ。ぜひとも、その才能を強みにしてみるのじゃよ」

「し、しかし……」

「どうじゃ? 教師という話は白紙に戻して、この学園のカウンセラーとして働くのはどうじゃ?」

「えっ、カウンセラー、ですか……?」


 なんだろう……。まだ教師の方が難易度が低そうに聞こえてしまう……。


「そうじゃ、カウンセラーじゃ。この学園の生徒たちは、魔法を極めようと研鑽けんさんする生徒が多くて、その分、悩みを抱えている生徒も多くてのう……。君ほどの魔法使いなら、難なく相談に乗ってあげられそうじゃ」

「えっと、その……。それって、教師とほぼ変わらないのでは……?」


 恐る恐るくと、デクスターは首を横に振った。


「教師とカウンセラーは似て非なるものじゃ。教師は"生徒に知識を教える者"、カウンセラーは"生徒の心に寄り添う者"だと、ワシは捉えておるよ」

「僕にそんなこと、できるでしょうか……? いくら生きるためとはいえ、僕にカウンセラーなんて……」


 そう訊くと、デクスターは穏やかに笑った。


「君なら大丈夫じゃ。その証拠に――」


 デクスターが言い終わる前に、校長室のドアが勢いよく開かれる。

 何だと思って顔を向けると、そこには――。


「あれが、うわさの新人教師だよ!」

「ほ、ホントだ! アタシ、ずっと前から色々と教えてほしいことがあったんだよね……!」


 ギレスの噂を聞きつけたのか、期待の眼差しを向けてくる生徒たちで、校長室の中はごった返した。


「先生! どこの担任になるんですか!?」

「じ、実戦経験があるって、本当なんですか……!?」

「俺、火属性最上級魔法について、先生に教えてほしいです!」


 輝くような瞳で、こちらを見つめてくる生徒たち。


「え、ちょ、ちょっと……! 僕はまだ、先生になるとは一言も……」


 段々と尻すぼみになるギレスの言葉は、生徒たちの喧騒けんそうによってかき消された。

 すると、生徒の一人が――。


「先生! 一度でいいので、先生が魔法を使っているところを見てみたいです!」

「え、ええ!?」


 突然の無茶振りに、ギレスは言葉を失ってしまう。

 しかし、その間にも生徒たちの間で話が勝手に進んでいき――。


「今からちょうど、戦闘魔法についての授業があるので、先生にお手本を見せてもらいたいです!」


 一人の女子生徒がそう言うと、周りの生徒たちも大盛り上がり。

 もはや、話が戻せない領域にまで来てしまった……。ここで断ろうものなら、何を言われるか分からない……。

 そのことに、軽く絶望してしまうギレス――。


「し、仕方、ないな……」


 まあ、魔法を見せるだけなら、自分でもできる……。後は適当に理由をつけて、この学園を去ればいい……。

 そう思って、ギレスは渋々といった様子で生徒たちの無茶振りを承諾する。

 すると、再び校長室が歓喜の声に包まれた。

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