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埋まりたい男

「あなたを飼ってあげる♪」


 こんな一言から始まる恋愛もあってもいい・・・訳あるか!


 これはどうしようもない俺と、ヤバいあいつとのラブコメ?

 いや違う、コメディ?いやホラーか?

 もう何でもいいか・・・。


 そんなお話だ。


・・・


「我が城に土足で踏み入り開口一番に何を言っているのだ?」


 インターホンも鳴らなかった。

 マジ不法侵入者。あ、壊れてるんだった。


「何訳わかんない口調で喋ってんのよ。と言うかこのボロ屋のどこが城よ?」


 失礼な奴だ。

 ここは家主さんから、ここの維持管理を行う代わりにタダで住ませて貰っている。

 人の住まない家は老朽化が早い。


 何でも思い出の家らしく壊す事も出来ず、かと言って住む家は別にあるらしい。

 結果win-winな関係なのである。

 高性能自宅警備員な俺はここで快適に暮らしている。


 唯一の問題と言えば・・・こいつだ。

 こいつは結衣。家主さんの娘だ。

 そして俺と同じ歳で昔の同級生だったりする。


「ボロ屋って。ここはお前の家でもあるだろうが」


 正論だ。


「この家は私の思い出もしっかり詰まってるんだから大事に使いなさいよ?

 少しでも劣化させたら許さないからね」


 暴論だ・・・。

 形あるもの全て朽ちる。こいつは相変わらず頭のネジが飛んでいる。


「で、飼うってどうゆう事だ?俺は大家さんに家を借りてはいるが、

 自立している。飼われるいわれなどない。」


 俺は仕事をしていない。完全無欠の引きこもりだ。

 が!有象無象の引きこもりとはわけが違う。

 俺は将来を見据え、かつ全力で無責任に徹する新時代の引きこもりだ!


 税金は扶養家族に入っている為、親に頼っている。

 親が死ぬまでには何とかしないとな。長生きして欲しい。

 主に俺の為に。


 消費は徹底的に抑える。

 世にある節約術は片っ端から実施する。

 徹底的な節約により俺は自立している。

 よって飼われる必要などない。


「あんたのそれのどこが自立なのよ。自分で立ってないのよ。

 ささってるだけなの。埋まってんじゃないの?」


 結衣は呆れた様に言う。こいつは言い得て妙な事を言う。

 実際頭も良く有能なのだ。だがこいつはダメだ。


「出る杭は打たれるからな。埋まってれば安心だろう?」


 我ながら上手く言った物だ。俺は埋まっていたいのだ。

 

「携帯くらい持ちなさいよ。今時無いなんて聞いたことないわよ。

 だからわざわざこうやって来るしか無いんじゃ無い!腹たってきた。」


 通信費は固定回線を最安値のもので選びそれでも月3000円はするが。

 痛い出費だ。その代わり携帯何て物は持たない。

 友達はいないし、Wi-Fiがあれば連絡は取れる。

 いらなくなった古い携帯を貰いWi-Fiで繋ぐ。

 親に定時連絡をする為だ。

 税金を払って貰っているのだ。義務は果たす!


「携帯ならあるぞ?お前には教えないがな。あと家から離れたら繋がらん。」


 ビュンッ!!


 言い終えるか否かの瞬間、俺の額に拳が掠る。

 そう言えばこいつ空手の有段者だった・・・。

 というか俺、今少し退け反って避けたんだぞ?

 それで掠るって事は当たってたじゃないか!

 寸止めじゃない・・・相変わらずこいつはヤバい。


「携帯の番号教えてくれるわよね?」


 世の男共ならさぞ喜ぶんだろうな。こいつは普段、猫を被っている。

 不幸な事故から俺はこいつの正体を知ってしまった。

 以来俺は命の危機に晒されている。

 これは質問では無い。質問には選択肢があるはずだ。

 これは・・・脅迫だ。

 俺は渋々番号を教えた。

 と言うかSNSまで登録させられた。

 嫌な予感しかしない。


「あんたお金ないんでしょ?飼われてくれるならお小遣いあげるわよ♪」


 う・・・。魅力的な提案だ。

 俺に収入は無い。が俺は実質0円で生きている。

 その詳細を話そう。


 光熱費は徹底的に落とす。

 更に電気代は太陽光発電の売電価格で逆に黒字を出す。

 大家さんに初期費用は出すから設置させてくれと頼んだら目を丸くしていた。

 屋根に思い出が無くて良かった。設置環境も良く無事黒字を出している。


 空調は引きこもる一部屋のみを最小限。

 エアコンなんて贅沢はしない。冬は電気毛布に包まり、夏は扇風機で耐える。


 冷蔵庫は夏だけ使う。腐るのは損失だ。

 不要な冷蔵庫を無料で譲って貰えた。

 今は処分にも金が掛かるからな。


 断熱も元に戻せる範囲で強化した。

 後使っているのはパソコンの電力くらいか。調理はカセットコンロで十分だ。

 ガス費用なんぞ払う気は無い!


 お湯はと言うとポットで沸かす。

 今のポットの技術は凄まじい。

 なぜあのスピードでお湯が沸くのか謎だ。

 風呂はそのお湯で体を拭けば良いのだ。

 たまの贅沢で近くの格安銭湯に行く。

 毎月数回割引の日があるのでその日を狙う。


 そして凄い事にこの家には井戸があるのだ!何たる行幸!

 これによって俺は水道費すらも払っていない。

 水は沸かせば飲める。トイレも井戸水を貯めておけば良い。

 水汲みは俺の日課だ。洗濯も手洗いだ。


 身なりはちゃんと綺麗にしている。

 これは誰にも文句を言わせない為だ。

 まぁほぼ人には会わないんだけどな。


 衣服も家具も不要な物をネットを通じて譲って貰った。

 要らないのになぜ買うのか?

 意味が分からないがお陰で助かっている。


 後は問題は食品だ。食べなければ生きていけない。

 これも家に助けられた。この家には広い庭がある。

 俺は自分で食べる野菜を自分で育てる。

 この生活はもう3年目を迎えている。

 去年、種を作る事に成功したため今年が楽しみだ。

 

 しかし足りない物は出てくる。

 ここは内陸だから海から塩は作れない。

 栄養価にはきちんと配慮する。体を壊すと金が掛かる。


 コスパと栄養価を考え合理化を進める。

 100円均一とは何故にあそこまで安いのか。


 もう他の店で買うのが馬鹿らしくなる。

 必要な道具は大抵揃う。それも最小限に抑える。

 

 食費と雑費は今、一月で平均1万以下で抑えている。

 これによって俺は10年間の電力固定買取システムが続く間、

 そして親が元気な間はお金を使わす生きていける。

 

「貴様に飼われるくらいなら俺は埋まって生きる!」


 俺は死を予感しながらも尊厳を守ったのだ!

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