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3人の夢人格  作者: ピタピタ子
9/29

発覚

部屋の暗闇の中、睡魔が私を襲う。今日は眠気で別人格になる。おそらく大女優の人格だ。


旦那から電話がかかる。

「シャルロット、今日からアメリカで2週間撮影がある。」

「そう。いつものことね。」

私は別に寂しいとまでは思わない。監督や女優はどこでも行くのが当たり前だから。嘆いて感情的になるほどのことではない。

「何の撮影?またハリウッド映画とか?」

電話を切って、タバコを吸った。バルコニーより先は夜景が広がる。それにしてもあの女が誰か気になる所だ。素性を私の手で調べつくそう。

今日も撮影が終わった。撮影後に話しかけられる。

「シャルロット、この映画、ぜひ君にでて欲しい。君が適任だと思うんだ。」

仕事の依頼だ。

「それの何役で私は出演?」

「主人公のシャルロット役。若いヒロインは冗談で、娘を亡くした独身中年女性の役をして欲しい。」

タイトルは探し物という作品。原作が小説の作品だ。主人公のシャルロットがどんどん狂う様を描いた小説、少し非現実的な部分が多い。

「その小説読んだことあるわ。無理ある設定の小説ね。まあ良いわ。その役引き受けるわ。その代わり、原稿を少しアレンジして貰わないといけないわ。」

「原作から遠のくのは危険だ。原作のファンだっている。」

「私は読んだ上で作品について話してる。作者が何考えてるか分からないけど、小説通りなんて駄目。原作通りならそれこそ演技する価値あるのかしら?多少の変化は必要ね。トラブルになる前にその作者と話し合って。私に仕事を持ちかけるならそれくらいしないと引き受けないわ。それでその若い女の子役は誰なの?」

他に女優はいるが、彼には私が一番の適任だと言う。

「マリーヌ・ドルレアックだ。」

「悪くない配役ね。」

マリーヌ・ドルレアックより演技の上手い若手女優は普通にいるが、彼女はプロデューサーや監督を上手く利用して人気な若手女優にはいあがった。性格は本当に良くない女だが、配役としては悪くないし、雰囲気を出せるだろう。

「マリーヌ・ドルレアックの作品、一つしか見たことないわね。映画で共演するのは初めてだから彼女のことをまず映像で観察する。カトリーヌ役として彼女を徹底的に観察するわ。」

マリーヌの写真を眺める。彼女は若いのに良くない生き方をしてきたのが顔から滲み出てる。一般人は分からなくても、私には分かる。

「あともう一人若手女優がいる?」

「映画の中盤からラストで出てくるドミニク役。」

「ドミニク役とシャルロット役も子役が必要だわ。」

「今、その子役を探してるんだ。」

この映画は小説の続編も書いた映画なのでかなり期待が大きい。

「ドミニク役の人、中々見ない顔ね。」

撮影が始まると、マリーヌは自身の演技力を発揮する。


「どうせ別れるんでしょ?それに別れ寸前の喧嘩してまで写真?ならカメラの1つくらい投げたって問題ないわ。」

彼女が言うセリフはまさに台本通りだ。


「運んでくれてありがとう。ちょっと良くなったわ。これから観光して宿に泊まるのかしら?」

「どこにも泊まりません。」

「女の子一人で外で寝るのは危険すぎるわ。しばらく私のところに泊まっていきなさい。」

「はい。」


違和感はないが主人公の血の気のなさがまだ彼女の演技力だと足りない。何故彼女が名女優としてこんなに人気なのかよく分からないものだ。

「マリーヌ、ただの無表情だとつまらないわ。もっと人間味の無さを出して。」

「原稿にはそんなの書いてないし、それってシャルロットの主観じゃない?シャルロット役は私だから口出さないでくれる?」

「私はあのいまいちな小説を良い映画に変えようとしてるだけだわ。あなたがどう考えてるかはどうでも良いの。私のシャルロット役はシャルロットとよく向き合ってから言いなさい。」

マリーヌは不機嫌な表情を浮かべて、カメラの前に立った。さっきの不機嫌な表情は消える。

ドミニク役の撮影も同時にはじまる。

「シャルロット…ずっと待ってたよ。」

ドミニク役はブランシュ・オードランだ。私が初めて見る若手女優だ。彼女はボソボソ話していて声が小さい。何でこんな声の小さすぎる彼女が女優をやってるのか私には理解が出来ない。声が小さいので、何回もやり直しになる。それに対して、マリーヌや他の俳優も腹を立てる。

「ブランシュ、声はれないの?」

「声なら出してます。」

返答も声の小さいブランシュに対し、皆さらにイライラしていた。

「ブランシュ、あなたが何でこの映画のこの役に選ばれたか良く分からないけど、これは子供が楽しむようなお遊戯会じゃないの。私達はプロであって、声も命なの。どれかが欠けては演技とも言えないの。」

「これでも頑張って声を出してます。」

「次までにちゃんと声を出せるようにして。このシーンばかり撮ってたら撮影が進まないわ。他のシーンに切り替えて。」

ブランシュは何も話さずに、ただ落ち込んだ表情をした。マリーヌの方が女優としての魅力を感じる。しかしブランシュが黙ってるこの瞬間、誰にも持ってない魅力に私は惹かれる。今までにない存在。

仕事が終わり、家に戻った。すると長い髪の毛が数本落ちていた。明らかに私の髪じゃなかったので、気持ちが悪い。だいたい誰なのか検討がつく。あの若い女に違いない。私がいないのを良いことにあの不倫相手の女はこの部屋を出入りしてた。旦那のいる時もいない時も。ドアが開く。

「うわっ!誰?」

「こっちのセリフよ。ここがどこか分かってるんでしょうね?」

若い女は驚いていた。驚いた表情が中々面白い。ブランシュもこの女くらい驚いた表情を演出出来れば良いけど。

「私が分からないなんて、博識のかけらもない品のない子ね。それでここに何しに来たの?もしかして忘れ物かしら?」

「そうよ。もうここはあんたの住む部屋じゃないわ。」

ついに本性を出した。中々面白みがある。これからどんなふうに扱うが楽しみだ。

「忘れ物ね。たくさん落としてたから返しとくわ。大事なものはちゃんと肌見放さず取っておいたら?」

大量の女の髪の毛を女の手にのせる。

「キャー、何よこれ?最低!」

「何これって言うけど、自分の大事な髪の毛じゃない。」

彼女に近づいて、匂いを嗅ぐ。 

「何よ。気持ち悪いんだよ!初対面で匂い嗅ぐなんて頭おかしいでしょ。」

「どこかで嗅いだことのある匂いね。最近、旦那がつけてる香水の匂いに近いわね。それにしても趣味の悪い香水ね。こんな香水したら部屋の雰囲気が台無しだわ。」

自分のお気に入りの香水を彼女に振りかけた。

「あんたの香水も趣味悪い。今の時代に合ってないわ。」

「あなたレベルの女性にはこの香水の良さが分からないでしょうね。」

「分かりたくもないわ。とにかくアルベールは私のものだから。もうあんたになんて興味はない。」

「それは本人の口から聞いてみないと分からないわね。妄想しようが自由だけど、妄想しすぎると痛い目にあいそうね。」

「妄想?アルベールは私の方に気があるのは事実よ。」

「言っとけば良いわ。とにかく次からハウスルールを守ってもらうわ。その趣味の悪い香水をやめることよ。」

彼女はキレて、ドアを思いっきり閉めた。

隣の奥さんが扉をノックする。

「昼から何の騒ぎかしら?心配になって来てみたわ。」

隣の奥さんはもちろん私がここに住んでることは誰にも話していない。

「旦那の不倫相手が一人で暴れてキレていただけよ。大したことじゃないわ。」

「それなら良かったけど。最近は物騒な事件が多いから、有名人のあなたもターゲットにされそうかと思ったのよ。」

今日も私の平凡な一日が終わる。

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