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3人の夢人格  作者: ピタピタ子
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性別

また夜がやって来た。今日はベットの配置を変えた。こんなことをしても無駄だろうが、やれることはやった。

「そうだ!」

スマホを片手に悪夢を見ない方法を調べた。心療内科や友達が頼れないなら、スマホしか頼りにならない。ネガティブなことを考えないようにすれば悪夢は回避出来ると書いてあった。

「今度クロードとの旅行どこに行こうかな?プラハとか良いね。私プラハとか旅行したことないし、プラハの建物のこととか熱く語っていたわね。クロードは現場仕事より建築デザインの仕事をしたほうが良いくらいね。」

ひとりごとをしているうちに眠気がやってきた。きっと今日はある男性の人格に夢の中でなってる。


俺は売れない画家をやりながら、やりたくもないファーストフード店の店員をしている。面倒臭いことに生きてくためには法的な手続きや面倒臭い仕事をしなきゃいけない時代だ。もちろん俺みたいな人間は原始時代で暮らしても狩りには向いていない。どんな時代どんな国にいても世の中は画家には厳しい。世間は役には立たないと言われる。俺の生きる国フランスは芸術大国だし、街の至る所にアートがたくさんある。しかしかなり競争率が高いし、いくら才能があっても絵だけで生き残れる人間なんて一握り。芸術の多様性がある時代でも世間が評価しなければ画家専門の人間は飢えて死ぬしかない。飢えて死にたくなければ、くそだるい仕事を嫌々するしかない。自分達に出来ることは自分を変えるか世の中を変えるかこの二択しか答えがない。

今日は路上で絵を描いていた。

「ねえ見て、あのフランス人男性、めっちゃクールね。」

「しかも優しそう。」

イギリス人の女の子たちが俺のことに興味津々だ。俺は比較的、女性にモテる方だ。自然の流れでいつも付き合うが女性からアプローチされるケースが多い。

「良かったら私のこと描いてください。」

通行人の女性は俺に似顔絵を描くように頼んだ。俺は言われたとおりに彼女を描いた。外ではデッサンだけだ。描き終わって彼女に見せた。

「私そのものね。嬉しいわ。」

彼女から10ユーロを貰う。

「さっきあそこにいる画家にぼったくられたの。」

彼女が指さす先に絵を描いてる男性がいた。

「最初は10ユーロの約束が25ユーロになったのよ!これって詐欺よね。何度も訴えても聞いてくれないし、悪態つかれたのよ。どんなふうに育ったらあんな詐欺男になるのかしら。中々帰してくれないから、ムカついて25ユーロとペッドボトルのゴミを顔面に投げつけてやったわ。それに比べてあなた優しいわ。」

「それなら俺が15ユーロ分、絵を描きますよ。」

彼女の話を聞いて新たに絵を描いた。

「ありがとう。」

絵を描いてる間、セーヌ川を見ながらくつろいでいた。絵が完成したので、彼女に見せた。

「出来ました。これでどうですか?」

「これも素敵ね。ところであなた名前なんて言うの?」

「俺は名前ないですよ。」

「冗談でしょ?からかってるの?」

「冗談じゃないです。」

「それなら出生届がないとか?」

「孤児院とかにいたことなく、両親の元で育ちました。でも名前を忘れました。」

「わけ分からなくて面白い人ね。私はジョエルよ。」

彼女はさっきより笑っていた。

「これ私の連絡先なので良かったら連絡してください。」

女性から連絡先の書いてある紙を貰う。

「それではまた会いましょう。」

俺は自宅に戻った。家はパリ18区にあって、治安はあまり良くない。とはいえ北の郊外のサンドニとかと比べればまだマシな方だ。

俺は対してお金を稼げてない貧乏画家だ。アパルトマンには売れてない絵ばかり並んでいる。誰かが部屋をノックする。小さい時からの友達のニコラだ。彼は俺と同じように彼女と別れたばかりの独身の男だ。

「来てやったぞ。相変わらず、絵が売れてないんだな。」

「分かる人に売れればそれで良いんだよ。金の亡者みたいな画家とは違うんだよ。」

「NFTとかやらないのか?時代にそったビジネスしないと一生絵で食っていけないぞ。」

「俺は俺のやり方で勝負するんだ。」

「そんなのいつまで続くかね。」

ニコラにケーキとコーヒーを出す。

「ニコラ、お前彼女と別れたんだな。」

「別れたというか、向こうが突然俺の元から消えたんだよ。連絡も取れないし、アイツの住んでるところに行ってももう住んでないし。完全に俺は避けられた。付き合う気がないなら俺の時間を無駄にしないで欲しい。」

「ニコラが振り回されることあるんだな。」

「ケーキまだあるか?」

もう一切れケーキを出す。コーヒーもいつもようにたくさん飲む。俺の家に上がりこんではカフェの代わりのようにくつろいでいる。

「こんな部屋くつろいでて楽しいか?この前ネズミが出たんだぞ。」

「イル、掃除してんのか?」

「掃除しても建物自体に問題あるからネズミの一匹くらい出るんだよ。それと俺の名前はイルじゃない。」

「名前が無かったら、コミュニケーション成立しないだろ。変なこだわりは無意味でしかないな。」

俺は名前がないので、人称代名詞三人称単数形男性形のイルと呼ばれている。イルと呼ばれているのは俺くらいだろう。

「名前が無かったら生活出来ないだろ。」

書類で書いてる名前は特定の人しか知らない。本当はニコラも本当の名前を知ってる。彼も完全に元の名前で呼ばなくなった。納得の行く名前のままイルになってしまった。

「三人称単数形男性形のイルで呼ばれるのにすっかり慣れたな。」

「ポールとかルカとかギヨームとか良い名前なんていっぱいあるだろ。いつまでイルでいると何者でもない奴になるぞ。」

ニコラはコーヒーのカップを強く置く。 

「イル、お前も別れたばかりだったな。相変わらず、モテるのに女運ゼロなやつだな。」

俺は2週間前、付き合っていた彼女と別れた。原因は彼女の過剰な束縛だ。常に荷物検査が行われたり、忙しい時でも大量のメッセージを送ってきたりするような女性だった。携帯がものすごく熱い時があったが、あれは追跡アプリを入れられたからだ。自身がなく、常に疑い深い。新しい洋服を買っただけでも、他の女性の為に服を変えたと勘違いされて、首を締められたこともあった。

「束縛が激しかったもんな。俺とかにもイルはどこにいるか連絡来たからな。」

「そうだったのか?大丈夫だったか?」

「適当にあしらったけどな。」

電話が鳴る。

「イル、どこにいるの?教えて!まだ話し合いは終わってないの!」

別れることはすでに決まっているのに、彼女の中ではまだ俺と付き合っている設定になっていた。

「落ち着いて。何度も言うけど、俺達はすでに別れているんだ。」

「その冗談何回言うつもり?私はそんなにどうでもいい存在なの?とにかく今どこにいるか教えて。」

ニコラが俺から電話を取る。そして通話を切る。

「こんな奴、ほっとけよ。こんな所で時間を費やすのか?束縛の強い人間に時間を費やすなら自分の画家の活動や他の良い女性を探すのに時間を費やせよ。そんなんだと人生が惨めになるな。」

「あー、そうだよ。絵は売れないや貧乏だし、恋愛も上手く行かないから惨めさ。」

誰かドアをノックする。開けると元カノが入ってきた。

「やっと見つけたわ。どうして私をそんなに突き放すの?あんたには責任というのがないの?」

「何度も説明したけど俺達はもう別れてる。君は俺よりもっと良い男性を見つけるべきだ。俺じゃ君を幸せに出来ない。そんな恋愛してて、本当は辛いだろ。」

「うるさい!」

彼女は俺の頬をビンタした。

「私を幸せに出来るのはイルだけよ!」

「来るな!」

ニコラが元カノを抑える。

「イル、あなたゲイだったの?」

「俺がゲイだろうとゲイじゃなかろうが君とは別れたのは事実なんだよ。しっかり何度も話して別れを受け入れただろ。」

「ゲイじゃないなら私と付き合えるよね。」

「ニコラ離れろ!」

彼女はナイフを持っていた。

「どうして私のことを避けるの。こんなに情熱的に愛しているのに。許せない。」

どんどん彼女は俺に迫る。刃物を俺に刺した。


私はまた夢の中で違う人格になっていた。男性の人格を自分だと思った。目が覚めると誰かが殺されるニュースが流れた。

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