日常
私は目を覚ますと。かなり気分が落ち込んだ。夢の中に自分じゃない人格がいるのに嫌悪感を抱いた。あれは私なんかじゃない。自分はもっとあの女優と比べるとメンタルが強くなくて、あそこまで大きな態度の人間ではない。
「もしもし今起きたところ。」
彼氏のクロードから電話が来た。
「現場でスイスに行くの?いつまで?」
「1ヶ月はこっちにいない。だからその前に会ってくれないか?」
クロードは工事現場の仕事をしている。肉体労働で大変だが給料はそんなに悪くない。彼は海外に派遣されることもたまにある。
「カフェに行ったあと、蚤の市行こうよ。」
私達は半年の付き合いだ。半同棲の生活をしてる。同棲より別々に暮らす方が良い。私は家族を作ることまで視野には入れていないから。そして新しい家族になることも同時に者に入れていない。
カフェに行く予定だったがモンパルナスのクレープ屋に寄ることになった。
「ルネ、君と会えなくなると寂しくなる。スイスに行っても俺にたくさんメール送ってくれ。一日最低1回はビデオチャットしよう。」
「そっちこそ現地の美女に見とれないで。」
笑いながら話した。
「常に男連中だけだ。現地の美女に会う時間なんてないだろう。」
「今はティンダーとか色んなアプリとかあるわ。あなたの携帯に追跡アプリでも入れようかしら。」
冗談を言った。
「そんなことするわけないわ。」
「でも俺との時間を作ってくれ。分かったな!」
私達はマルシェに行き、ハンドメイドの洋服を見た。
「この帽子買います。」
「20ユーロです。」
昔ながらの帽子屋だった。店主の女性は言う。
「今頃の若い女性で帽子を買うなんて珍しいわね。」
「つばつきの帽子じゃないだけましでしょ?」
確かに今は時代の流れで帽子をかぶるフランス人女性は少ない。私は帽子は古き良きものだと思う。
クロードのアパルトマンに一緒に行った。二人でベッドで横になる。
「しばらく会えないなんてありえない。君のことを考えると仕事に集中できなくなる。」
「そんなに好きなら、その現場ばっくれちゃえば?」
「サボりたいとこだがやる時はやらないといけない。」
面倒臭い仕事は給料のためにやってる。適度に手を抜いて、やる時はやる。私もそんなワークスタイルだ。クロードの仕事とは違い縛られにくい仕事だ。通信環境が整っていれば、クロードの現場先に一緒についていくことも出来るが、今は一緒にいたい時間と一人になりたい時間が同時に存在するので、ついていかないことにした。一緒についてきて欲しいと言われたことも本人からあったが、断っていた。別に彼が嫌いなわけではない。
「現場先は知らない人ばかりなの?」
「色んな会社から来るから知らない奴らがほとんどだな。相性が悪いやつとあたると仕事する気失せるからな。」
工事現場の仕事も色んな人間がいるから慣れるまで大変だろう。
「ルネ、近いうち君と同棲したい。」
「それ、今のタイミング?」
「そうだ。現場先で一緒に滞在したいくらい君が好きだ。出張が終わったら俺と同棲してくれ。」
「今の時点ではしたくない。」
「もう付き合って半年経ってるんだぞ?お願いだ。」
「気持ちは分かったから急かさないで。」
「俺のこと信用してないのか?」
「誰もそんなこと一言も言ってないわ。信用はしてるけど、私には自分の信念があるの。」
「自分のことだけなんだな。」
「クロードのことも考えてよ。」
彼の頬を触る。お互い抱きしめあった。
「今度、クロードの家族と食事したい。」
「もちろん。お父さんもお母さんも、妹も皆、ルネのことをよく思ってるし、歓迎だからな。」
私は今の所、クロードの家族と何とか上手く関係を保ってる。クロードの家族の前でもよく喧嘩はするが極端に仲が悪いわけではない。
彼の部屋を出ようとするとお互いキスをして抱きしめ合った。
「君に会えるのが待ち遠しい。」
「待ってるわ。」
「このままだと大変だから家まで送っていくよ。」
私は彼の車に乗って家まで送ってもらった。
その日は早く寝てしまった。とても暗い暗い夜だった。
週末になりまたマリリンとコリーヌという変わらないメンバーで買い物に行った。
「ねえ、ルネ。おすすめのホラー映画あったら教えてくれない?ゴースト系のホラーとかあまり見ないから試しに見てみたくて。」
いつも何考えてるかよくわからないコリーヌの口からそんな言葉が出るなんて内心少し驚いている。
「いきなりどうしたの?コリーヌってそう言うこと信じるタイプじゃないでしょ。」
「そう見えるからって見ちゃいけないの?私、教養として見ておきたいと思って。何でもかんでも食わず嫌いせずに見たいと思って。」
「コリーヌ、頭でも打った?」
マリリンがからかうように聞いた。
「ホラー好きなんてお隣のイギリス人じゃないだから。」
「マリリンって、前から思ってるけどすぐ決めつけるよね。幽霊信じる人と信じない人、ホラー好きな人と嫌いな人に国籍なんて関係ある?具体的なデータがあるの?ちゃんとよく調べてからもの言ったら。」
「何私の冗談真に受けてるの?」
「マリリン、コリーヌの言い方はきついけど、今の例えは聞いてて心地良くない。」
コリーヌの性格だから、彼女が相手に対して失礼だからマリリンに論破したわけではことは分かってる。彼女は常に自分の信念をぶつけ通す。正しいと思ったことを常に口に発する。しかも冷静な口調で。私達は常に口論しては何もなかったかのように日常を過ごす。
「話が凄い脱線したわ。それでルネのおすすめのホラー映画は何?」
「私はアナベルって作品が好きだわ。シリーズ物になってるのよ。」
「そう言えば映画の配信サイトにもそのようなものがおすすめとして出てくわね。」
「私達3人でシェアしてるけど、やっぱりホラー映画見てるのルネだったのね。」
「別に私が何を見たってマリリンに関係ないでしょ。」
「ルネらしくて面白いところだけどね。」
3人とも見る映画の種類が違う。私はホラー映画や胸糞の悪いサイコホラーや悲劇ものが大好き。マリリンはアクション映画やハリウッド映画のような派手な演出をした映画好きで、アメリカに凄い憧れを持っている。コリーヌはドキュメンタリー映画ばかり見ている。私達のアカウントに他の誰かが入ったら趣味趣向の違いすぎる3人が集まった女子グループだと思うだろう。
「ハリウッド映画ばかり見てるのだいたいマリリンだと検討つくわ。コリーヌとかそういうの見るタイプじゃないでしょ?」
「何度か見たことあるけど、ハリウッド映画とかアクション映画はお金の臭いがたくさんする映画がほとんどね。お金を見てるようなもんだわ。」
「お金を見てるまでは思わないけど、派手すぎる演出は長時間見るのは苦痛よね。」
「それが良いのよ。あんな大胆なアクション、アメリカ人らしいわ。」
マリリンは以前遠距離でアメリカ人の彼氏がいたが、別れてしまった。次もアメリカ人の彼氏ができるんだろう。
「とにかくルネのおすすめしたの見る。あとは何か他にあったらおすすめあったら教えて。」
コリーヌがホラー映画を見るのはやはり嬉しい。
「そう言えば、まだ変な夢見るの。」
また夢の話をした。
「口開けばそればかりね。今度は何が起きたの?」
「女優の人格の夢が特に凄いことになってるの。どんどん私じゃない方向性に言ってるのに、それを夢の中で私だと認識してるの。」
「ルネ、それ大丈夫?仕事とか大変なんじゃないの?ちゃんと寝れてないからそんなやばい夢見るんじゃないの?」
「ちゃんと寝れてるからそういう夢を見るの。それでその女優の人格はカンヌ映画祭の審査員長になったのよ。私とは住んでる世界が違いすぎてわけが分からないわ。こんな私じゃないのに夢の中では私と認識する。あれは私なんかじゃない。」
「全てルネの妄想だと言う可能性も忘れちゃいけないわ。」
コリーヌは中々気持ちをくみとってくれない。夜になり、また違う人格の夢を見るのではないかと暗闇の中でずっと考えた。




