その後とエピローグ
ルネというフランス人女性のノートを拾ってから数が月が経つ。彼女の記録は夢の中では人格が違うだの、イジメた人間に復讐するだの見てて面白みを感じられない。イジメられるのには理由がある。イジメられる方は復讐せず、水に流して自らの力で成功をつかめばいい。イジメで成功できないなんてただの甘えだ。
「こいつまだ学校来てるよ。」
陰キャを見てると何でそんな恥ずかしい人間が学校に来れるか理解出来なかった。私達は徹底的にそんな奴を追い詰めた。
私は父と母が離婚して、父とその継母と暮らしている。
「ご飯作ったから食べなさい!」
継母は本当の母よりお節介でノックもしないで部屋に入って来たり、過保護でムカついていた。声を荒らげて、怒るとすぐ泣くからうっとおしくて仕方ない。
「ねえ、ブロッコリー嫌いだから入れないでって言ったよね?どうして私の嫌いなものわざと入れるの?」
「これだと色合いがないと思ったからよ。それにアレルギーじゃないから、いずれは食べれるようになるかなと思ったの。」
いつもいらないことばかりする。パパもこの女の何が良くて結婚したんだろうか。
あれから数週間の間、私は変な夢を見た。夢の中では違う人格が3人いる。無意識のうちにその人格になるし、夢の中ではそれを自分だと思う。弁護士の男性の人格の夢、借金50万ドルを抱えてる女性の人格の夢、ソフィーというイジメられてる女子高生の夢だ。夢から覚めるとそれを頑なに自分ではないと否定する。特にソフィーなんて受け入れたくないと思っていた。しかし夢を見るうちに、イジメられる側がどれだけ辛いか、主犯格以外もイジメに加担してることがよく分かった。自殺するまで追い込まれるイジメは想像以上のもので起き上がる旅に涙を流していた。イジメられるような奴の人生なんてどうなろうが良いと思ってたし、私はそれでいじめられっ子の顔を便器に突っ込んだら、先生に見つかり、停学になったくらいの女子高生だ。夢で別の人格になって、イジメられた所を見たら、私は今さらながらとんでもないことをしたことに気がついた。イジメがどれだけ相手の心を蝕むのか前私は知らなすぎた。今さら謝っても遅い。罪を犯してしまったんだから。
その日、夢の中でエルと名乗る女性と出会った。彼女は黒ずくめで正体を明かさない。
「今日は他の人の人格の夢じゃないのね。ちょうど良かったわ。」
「あなたは誰?」
「私はエルよ。あなたに伝えたいことがあったからここに来たの。」
「もう私に出来ることなんてない。このまま学校を辞めるしか選択肢はない。」
「あんたがどうなろうとイジメられた子はどうでもいいの。あんたがこのまま何もしなかったらどうなると思う?首謀者が変わって、その子のイジメなんて終わらない。あんたが夢で見たソフィーのように死んだり、人生が崩壊して無気力な人間になったら取り返しなんてつかない。早く謝ったからってあんたの罪は軽くはならないけど、事態から目を背ければ気がついた頃にはもっと最悪になってるわ。」
私は結局自分の保身に走っていた。過ちに気がついても自分のことばかりだった。罪を犯したからどんな結果になろうと何もしない。それがどんな事態になるかなんて想像もしていなかった。過去に行ったイジメをこれからどうするか考えた。
私は停学が解けていなかったが、教室に入り、私がイジメていたクロエの所に行った。他の同級生は皆私のことを見た。
「クロエ、今まで酷いことをして本当にごめん。最初は停学されたのをあんたのせいにしてたけど、全部自業自得だった。」
「エミリー。」
彼女は泣いていた。
「もうこんな酷いイジメなんてしない。」
「心の傷はそうすぐには消えないわ。」
「信じられないかもしれないけど、しないと誓うわ。」
クロエは走ってどっかにいなくなった。
「エミリー、最低じゃん。ずっと黙ってたけどあんたのその偉そうな態度ムカついてたわ。今度はあんたがイジメられれば良いのに。」
「そんなんで許して貰えると思ってんの?」
「これもどうせ演技でしょ。」
文句が殺到する。皆、相当私に恨みがあった。中には一緒になってイジメてたのに自分の罪を軽くしようと私を罵倒する同級生もいた。
「皆、うるさいよ!私の文句は直接なりメールで後で聞くわ。それより、クロエは今誰の言葉を信じられなくなってるの。それほどこの学校で起きたイジメが彼女を追い込んだの!私がイジメをやめてもこの問題解決すると思う?」
「そうやって、自分だけ罪を逃れようとしてんでしょ。ルナ、いきなり正義感かざしてきてムカつくんだよ。」
「だから私の文句は後で聞くわよ。それにあんた達のやってたことをクロエはイジメじゃないと言うと思ってるの?私達が過ちを認めて、クロエに向き合わなければふと見たときにクロエはこの世にいなくなってることだってあるかもしれないの。クロエに今何が出来るのか考えないと事態は最悪になる。これは私の責任でもあって、関与していたあんた達の責任でもあるの。」
私は同級生の女子達から殴られた。私も皆も自分のことしか考えてなかった。
「クロエ。イジメた私のために人生を無駄にしないで欲しい。クロエみたいな経験をした人こそ明るい未来がないといけないと思ってる。」
私は体が震えた。自分の存在が嫌になった。私の言ったことが伝わったのか、正解なのかも分からなかった。
「今は気持ちの整理がつかないかもしれないけど、心の片隅に覚えておいて欲しい。じゃあね。」
私は停学が解除されて学校に行くと、周囲の視線を感じた。何人かの女子がわざとぶつかる。私は学校のあらゆる所で完全に孤立した。
「何であんたが学校に来てるわけ?今まで、散々なことやったあげく、私達を偉そうに取りまとめるような感じなのウザいんだよ。」
「それなら、自分は本当に何も悪いことをしてないか考えてみたら?何もなかったら私もあんなこと言わない。」
何人かが私に飲みかけのペットボトルを投げた。ゲラゲラと笑っている。これは自業自得だ。
お昼も一人だった。するとクロエが私の方に向かう。
「クロエ。どうして私の所に…」
「ルナ、私はルナと友達でいてはいけない理由は今あるの?確かにルナやそのグループが散々して来たイジメで傷ついて日々壊れそうになってたし、見てる人達も私のことをあざ笑う目で見てた。本当に許せなかったし、今でも許してるわけじゃない。でもルナは変わってることは分かる。」
「クロエ、私と一緒ならまたあんたもイジメられる。余計なことはしないほうが良い。」
「ルナもまだ許してるわけじゃない。だけどイジメはもっと許せない。だから私はこの現状を見過ごせない。」
私は後悔の涙を流した。こんな現実としっかり向き合ってる同級生をイジメたことを考えると、あさはかな行為をした自分が許せなくなった。
「本当にごめん。」
「この学校からイジメを無くしてくれたら、ルナのこと許すわ。いや、皆んなのことを許すわ。」
同級生全員でクロエのことをイジメたんだ。直接イジメに関与したのは私とそのイジメ仲間だった。他の子達は止めるどころか、写真を撮ったり、指を指して笑っていた。
卒業した時、イジメは学校には無くなっていなかった。クロエとの約束は果たせなかった。ついにはクロエは私の元に姿を出さなくなった。ルネというフランス人女性の日記を握りしめながら私は泣いた。この日記が私を変えた。
私は日記を目の前に置いて、全身黒尽くめの服に着替えた。私はクロエとの約束を守れなかった。だからこそある人がやったような残酷な方法でもイジメの存在する世の中を変えたい。これからは私が2代目のイジメっ子キラーとして生きる。今日から、私の名前はルネだ。2代目のルネとしても生きる。壁にある2つのルネという文字が私を見つめた。