家族
母と兄が目の前に座っている。
「二人ともこうやって食事するの久々ね。今日は話したいことがあるの。」
兄は無表情かつ、無言だった。
「本当に記憶にないことだけど、小さい頃の私の行いが兄さんの心にここまでトラウマを植え付けると思ってなかった。私に心を開いていない兄さんを私はすごい嫌だと思ってたし、理由もないのに私のこと嫌ってるとずっと思ってた。でもそれは間違いだった。全部原因は私の知らない私が生み出してたんだよ。兄さん、本当にすまなかった。全て無かったことにしよだなんて思っていない。」
「ジュール、そろそろルネを受けれいていかないと。私もいつまでも生きてるわけじゃないの。私が死んだら、時には二人は兄妹として支え合わなきゃいけないの。ルネは今変わろうとしてるの。」
「今から決断なんて出来るわけないだろ。どんだけ恐怖と不信感の中で暮らしてたのか分からないだろ!ルネを勢いで階段から落としたことは確かに良くなかったけど、お母さんずっとルネのことばかりだっただろ?その時から大人も周りの子供信用出来なくなったんだ。今も夢の中で子供の時のルネが包丁を振り回して襲おうとしてる夢を見るんだよ!」
「そんな大事なことどうして黙っていたの!」
「言っても、信じてくれないからだろ。」
私は二人の間を遮って話す。
「兄さん、病院に行こう。これ以上トラウマを抱えていたら、兄さんの未来がどんどん無くなっていく。これが兄さんに対しての最後のお願いよ。」
「未来なんて元々存在しなかったんだよ。あの時から俺は虚構の中を生きてたんだよ。」
兄さんは、私のことを許すはずがないのは分かりきっていた。
「それならもう私のことを虚構だと思いなよ。最初から存在しない存在だと思えば楽でしょ。」
母は私をビンタする。
「口が裂けてもそんなこと言うんじゃないよ!」
母は泣いていた。
「ジュールもルネも虚構なんかじゃない、私の生身の子供よ。」
母は私達二人に抱きつく。私達は無表情だった。それから泣いている母と無表情の兄さんをおいて、帰宅した。
あれから私は60人もの人の未来をイジメっ子を精神的に追い詰めたり、合法的な方法で殺した。
「次のターゲットはフランスにいるわね。」
エリートの子をイジメる子をターゲットにした。不平等が引き起こる社会において、エリートの家系の子供は搾取を促す悪質分子として虐められる。
「起きたね。私、高校生だからって容赦しないわよ。」
「やめて!離して!」
誰にも私の素顔は見せたことないし、男性版のルネの素顔を見せたことはない。
「確かに、世の中には不平等が存在するわ。威張る金持ちなんてあんたが言うようにたくさんいる。だけどあんたも世の中の不平等をばら撒いてるようね。人をイジメで追い詰めて未来ある子を自殺に追い詰めたんだから。」
私は彼をビンタする。
「ねえ、そんなに平等が好きなら、あんたがイジメた子にしたことを私が代わりに仕返しするのも平等よね。」
「やめろ!」
私の計画で彼は改心した。
あれから1年後、コリーヌと再会する。かつてマリリンと通ってたカフェに行く。
「久しぶりね。1年も顔合わせないで何してたの?クロードの逮捕がそんなに悲しかったの?」
「クロードね。その男は最初からいない存在なんだよ。過ごした時間も虚構だったんだよ。」
「よく分からないけど、この感じだと相手がいるようね。」
隣のカップルの会話を聞く。
「イジメっ子キラーって何?」
「都市伝説だよ。ここ1年で何人ものイジメっ子が死んだり、精神的にボロボロになったり、運が良ければ更生したりしてるらしくて、全部イジメっ子キラーという黒ずくめの人の仕業らしいよ。どうやっても捕まえるのが困難だし、絶対指紋もカメラにも残らないんだって。」
「そんなの信じてるのか?都市伝説なんてどれもあるわけないだろ。」
「それもそうね。でもネットの中では世界中で騒がれてるよ。色んな国で同じ事例が起きてるから、人間の仕業じゃないと言われてるらしいよ。」
コリーヌはコーヒのカップをゆっくり置く。
「都市伝説かどうかなんてどうでも良い。決定的な証拠がないなら人為的なものよ。その人物は実在する生身の人間よ。」
「幽霊の可能性だってあるよ。決めつけるのには早すぎんじゃないかしら?監視カメラにも映らないのよ。」
「ないとも言えないけど、生身の人間の可能性の方が高い。人間って残酷なことも平気でゲーム感覚で出来る生き物でもあるから。」
「コリーヌはイジメっ子キラーはどう思う?」
「自分独自の正義感をうたってて私はあまり好きではないわ。武力に武力を返すほど世の中は荒んでるのかしら?そんな人間、どう生きようがほっとけばいい。自分の人生を生きれば良いの。」
コリーヌはいつも誰の肩も持たない。
「イジメっ子キラーはこの街にいる。もしかしたら私達のすぐ近くを通り過ぎたかもね。」
「私達は特に関わる理由なんてないね。」
イジメっ子キラー。そんな人間がいるのか。
私はポールと会う。
「今日はいつもより張り切ってるのね。自分のお店が繁盛したのかしら?」
「そうじゃないけど、たくさん料理を作りたい気分なんだ。」
テーブルには二人では食べれない量の料理が並んでいた。
「食べて。」
「こんなに作るなんてパーティーじゃないんだよ。このバゲット、あの店のよりマシね。あそこのは食べれたもんじゃないわ。」
私はテーブルの下で彼の足を足で触る。足をからめる。
「コリーヌと今日久々に会ってきたわ。相手の感情無視して正論ばかり言うのは変わってなかったわ。」
靴を脱いで、彼の靴に足を入れようとした。
「マリリンは?」
「彼女もいれて話したらもっと収拾がつかないわ。」
地下鉄で会ったホームレスの女性が近づいて来た。彼女は私の元に来て、私に後ろから抱きつく。
「ずっと探してたんだよ。」
「もうあなたと私は関係ない人間なの。あなたのことは私からおいて行ったわ。」
「今、分かったけどルネも同じように夢があったのよね?イジメられてた記憶が戻っても、目指してた夢は思い出せないのね。」
彼女の方を振り向き、おしのけた。
「あの時、私はいないのよ。今さら思い出しても遅い。」
「そう。もう私は本当に用はないのね。」
ポールは何もなかったかのように私を見つめた。いつの間にか彼女はいなくなっていた。
「独り言なんて言うんだな。」
私はトイレに行って、男性版の私の肉体に変わった。
「ポール、あなたにだけに私の秘密教えてあげる。私、男性の体にもなれるの。つまり男性として生まれた世界線からこっちの世界にその肉体を持ってくることが出来るの。そっちの私とも夢を通して会話が出来るの。」
「こっち来て。」
ポールに近づく。彼の男性的な肉体と私の筋肉質な肉体が触れ合う。
「いつもと違う匂い。」
彼の唇がゆっくりと私のに触れる。そして重なって、空気を感じる。
「ルネ、女性でも男性でも君のことが好き。性別なんて関係ない。」
私は新たな快楽を手に入れた。私達の間で起きた革命だ。
「ルネ、ルネ!」
もう一人のルネがいた。私は相変わらず無の空間にいた。
「何?ルネ。」
「今日のターゲットは誰?」
「今日のターゲットは自分の過ちを頑なに認めないイジメっ子よ。」
「また同じようなやつだな。」
「今回はシャルロットにも手伝ってもらうわ。」
「私に汚れ役をお願いするのね。」
「あんたを女優としてあなたを信じてるからよ。次はオリヴィアにもやってもらうわ。」
夢の人格をコントロールした。もう夢の人格には振り回されないで生きていく。私が私として、生きていく。