ルネとルネ2
「ルネ、よくやったね。それにしても君があそこまでしないと分からない連中なんだな。」
「ルネ、この問題はまだ終わってない。主犯格の女とその側近が残ってる。だからルネに協力して欲しい。」
「向こうの世界の自分がそうしたいなら従うよ。」
「主従関係なんて求めてないわ。どっちかを一緒に復讐したいの。」
エマは先月、入籍したばかりだ。旦那はエマとは正反対の男性で誠実で優しい人だった。優しい旦那と結婚出来たくらいだから人が変わったのか経過観察をした。調べてみるとエマは表向きは変わっても中身は変わってなかった。旦那以外の自分より立場が下だと思う女性に当たり散らしてるのが発覚した。ハウスキーパーを人間扱いしなかったり、無理難題を押しつけたり、怒鳴り散らしたりした。高級な服屋に言ってはとにかくクレームや嫌みを言っていた。凄い高慢な女に変わった。前から偉そうな人だと思ってたけど、さらに酷くなっていた。
「は?私を優先的に試着させなさいよ。それにこのデザインの白が売り切れとかどういうことなのよ!あんたちゃんと仕事してんのかしら?」
彼女はレビューに低評価を書きまくって、お店の評判を下げたりしてる。人を見下す所は相変わらず変わってない。イジメっ子にヒステリックが加わった感じだ。
「どうやら変わってないみたいね。」
「近所に引っ越して来ました。エルです。」
エルはフランス語の人称代名詞3人称単数形女性形だ。偶然を装った。
「どうも、私はエマよ。」
私のことはどうやら覚えていなかった。イジメた相手は自分が何したかなんて覚えていないものだ。エマも言われて思い出すタイプなのだろうか。
「私、隣に引っ越して来ましたエルです。さきほどエマに挨拶しました。」
たまたまエマの旦那とはち合わせた。
「今日、引っ越されたんですね。」
初対面だが、笑顔で私に接した。
後日問題が起きる。
「エルって女が引っ越して来たけど、隣に引っ越して来たのは嘘で本当に引っ越して来たのは中年の夫婦よ。その夫婦と何も関係ない人間だわ。不審人物確定ね。」
「君にあんな知り合いいた?」
「そんな人知らない。」
「そうか。何か変なことに巻き込まれないか心配してたんだ。」
中年夫婦の家を私はその間に訪問していた。エマの声は大きいから会話が筒抜けだ。
「あんた、何であんな嘘ついたの。」
奥さんは私を見る。
「隣の人にどうしても伝えたいことがあったんです。私の友達は隣の女に殺されかけたんです。つまり自殺するまで追い詰められたんです。彼女は今でもイジメの苦しみを引きずって生きてて、夢とかでも出てくるくらい精神的苦痛が残ってます。自殺しようとして無事助かってしばらく記憶がなかったんですが、唐突に思い出して今精神崩壊してるんです。直接彼女に謝って欲しいんです。形式的な謝罪じゃなく、行動に示した謝罪を見せて欲しいんです。もうあんな彼女見るの辛いんです。」
もちろん本当の話に嘘を紛れ込ませている。嘘泣きもした。
「私と友達と違う学校でした。エマはイジメの主犯格の側近のような存在でした。グループになって便器に顔を突っ込んだり、服を脱がして写真で撮ってネットに晒すと脅迫したり、私を転ばせてわざとゴミを投げたり、手を思いきり踏んだり、数えたらきりのないイジメを受けてきました。彼女が自殺した原因が無理矢理髪を切られて、母親のプレゼントも、会ったこともない父親の遺品も壊されたからです。それが自殺の引き金でした。」
「許せないですね。辛いお話聞いてすみません。私達もイジメで娘を亡くしたんです。酷いイジメで娘はもう帰ってこないんです。いじめた側の子達は自分達の悪行を忘れて、のうのうと生きてます。それを考えると今でも許せません。そういう人間を私達は心から軽蔑します。」
エマの隣人夫婦は中3の娘が自殺したトラウマがまだ残っていた。
エマの隣人の家を出る。その後、エマの旦那から問い詰められる。
「何であんな嘘ついたんですか?」
「そうでもしないと接近出来ないと思ったので。」
「エマとはどんな関係なんですか?」
私はニヤリと笑った。
「イジメっ子といじめられっ子の関係です。彼女は私をイジメたことを忘れているようですね。やられた方がしっかり記憶に残ってますから。具体的にどんなイジメを受けたか知りたいですか?」
私は少し間をおいた。彼女がどんなイジメをしたか洗いざらい話した。他にも彼女がお店などで行ってる迷惑行為などを動画におさめたので、彼に見せた。
「これがあの女の本性です。あなたと結婚して変わったと思ったんですが、全然更生してないですね。都合良い仮面を被ってるんですよ。要するに偽善者なんです。あなたはエマと幸せな時を過ごしていたかもしれません。でもそれは夢であり、彼女は演技してます。すぐに事実を信じて受け止められませんが、あなたはずっと幻想を見てたんです。」
男性は複雑な表情をした。
「人の恨みを買うような女なので、いずれあなたも共犯者として吊し上げられるかもしれませんよ。あなたはかなり頭が良い人だと思うので、私の言うこと十分理解してると信じてます。どんな判断が的確か明白なんじゃないですか?」
あんな女が悪行を忘れて、幸せな未来を築くのが許せない。ちゃんと制裁を加えないといけない。
数日後、エマの旦那に数々の悪行を話したら、ショックが大きすぎたせいか、彼女とは離婚することになった。
「あんた、どんだけ嘘つけば気が済むの!あんたのせいで人生メチャクチャじゃん!」
「離婚することになったくらいで人生がメチャクチャ?笑えるんだけど。全て本当のことなんだけど。」
エマはこの程度の制裁では足りるような人間ではなかった。尊厳を一度奪ってみないと人の苦しみなんて分からないだろう。
「私のほうが人生メチャクチャにされたけどね。自殺にまで追い込められたんだから。」
「私がやった証拠はあんのか?ないだろ!」
「それなら何故こんなに恨まれてるのかな?馬鹿なの?大人なんだから、もっと頭使いなよ。」
彼女の手を縛り、私は彼女に灯油をかけた。
「今マッチ持ってるけど、いつでもあんたのこと焼き殺すこと出来るんだよね。」
「は?そんなことしていいと思ってんの?」
「あんたに限っては良いと思うわ。私の命を軽く見た人間だから。そんなに怖いなら救済手段を条件つきで与えるわ。」
「何を偉そうに言ってるの?あんたにそんなこと!」
すれすれの所でナイフを突き刺した。
「話を聞かないともっと酷いことになるよ。助けて貰いたいなら今すぐ頭を丸刈りよ。」
私はバリカンでエマの髪の毛を切った。エマのことをほどきナイフを突きつけて追い詰めた。
「今度は何よ。追いかけて来ないで。」
「やめないよ。だってあんた達も、私がやめてとか言ってもやめなかったでしょ。終わらないゲームがどれほど辛いものなのか味あわせてあげる。」
エマは階段を上がる。
「何だ。追いかけて来ないじゃん。やっぱりあいつに人なんて殺せないのよ。」
不意をついてナイフで脅す。
「あなた誰?」
「ルネの親戚だ。」
私はもう一人のルネの体になり、ナイフでエマを襲おうとする。逃げれば逃げるほどスピードをあげる。勢いで彼女は屋上から落下した。
あとはテイラーが残ってる。
「ルネ、あんたの体使わせて貰った。これなら私とバレずに追い詰められるわ。さて主犯格が残ってるわね。じわじわと制裁してやらないとね。」
「それ、俺にも手伝わせてくれ。」
「良いよ。」
いよいよ主犯格を裁く時が来た。




