女優再来2
ブランシュとワインを飲む。
「ブルゴーニュワイン私も好きです。」
「私と食べ物の趣味が近いわね。ジュヴレ・シャンベルタンよ。ロワールとかブルゴーニュが私の趣味に合うわ。ボルドーは強いだけで何が良いのか分からないわ。ソーテルヌの貴腐ワインとかは嫌いじゃないけど。シャトー・ディケムのはしばらく飲んでないわね。」
「ボルドーワイン、赤なら重たいのが多いですもんね。貴腐ワインならハンガリーのトカイのものが好きです。」
赤ワインが口に入る。
「シャルロット。」
彼女は私の唇に軽くキスをした。カミーユが入って来た。
「あら?あなたも一緒に飲むかしら?」
「何やってんの?」
彼女は私達が何をやってるか見ていた。
「こっちのセリフだわ。怒って出ていったくせに今さら何のよう?」
「忘れ物よ。」
「あなたもそういう趣味あるかしら?」
「私、レズビアンじゃないし、それにあんたみたいな頭のおかしい女とだけは同じ空間にいるだけで鳥肌が立つわ。ワインも飲まないから。」
「それなら早く出て行きなさい。」
「何よこれ!」
カミーユは転がっていたスーパーボールで転けた。
「自分でスーパーボール落としたんじゃないかしら?」
「しょうもないことするのね。」
「アルベールもしょうもない女性に興味を持ったようね。」
「誰のことよ!」
「一人しかいないでしょ。そんなに怒るってことは少しはしょうもない女性という自覚はあるみたい。」
またカミーユは怒って出ていった。
隣人が私のもとに来た。
「シャルロット、今日はいつもにましてうるさいけど何の騒ぎなの?」
「旦那の不倫相手が一人で大暴れしていただけよ。クレームならその女に言って。」
「いい加減、関係に見切りをつけないと。」
「私はそのことに関しては誰にも頼らないわ。心配しなくて良いわ。」
私がそう言うと隣人が去って行った。
「カミーユはいつからあなたの旦那さんと関係を持ったんですか?」
「数ヶ月前よ。あの女から言い寄ったのよ。」
「旦那さんに問い詰めないんですか?」
「そんなことしても無駄よ。あの人、昔から遊び人なんだから。最初は泣いたりしてたけど、だんだんどうでも良くなってきたね。もういい年齢だし、あの人に執着することもないわね。そのうち離れるつもりだわ。」
電気を消して私達は寝た。
朝起きると隣にはブランシュがいた。ゆっくり彼女を起こす。朝ご飯を食べて練習をした。
「ブランシュ、カミーユの靴以外を棚に入れなさい。」
「どうしてですか?」
「理由はいいから早く。」
ブランシュはカミーユの靴以外全て棚に入れた。
「戻ってくるよ。」
「隠れて!」
私達は二人の触らないクローゼットに隠れた。部屋には旦那と不倫相手のカミーユが入って来る。
「何これ!またあの女が靴を汚したのね!あの女、ぶっ飛ばしてやるわ。」
私はわざとブランシュに彼女の靴を汚すように指示をした。
「カミーユ、最近シャルロットのことを酷く言い過ぎた。口を開けば彼女自身の存在を否定するような文句ばかりだ。毎日、会ってもメールでもそんなことばかりだ。大人気がないぞ。そんなに嫌いならここに来なければ良いだろ!」
「私のことはどうでも良いの?いつもシャルロットのことをフォローしてばかりだけど、あの女頭おかしいと思わないの?私の髪の毛を集めて手のひらにのせてきた女よ。それに大人気ないのはあっちの方よ。シャンプーのボトルに絵の具を溶かした液体を入れて嫌がらせをするのよ。こんなに嫉妬して私に復讐する女の方が良いの?」
彼は黙っていた。
「どっちも面倒臭い。君が本気で俺を狙ってるならシャルロットのことなんて無視すれば良いだろ。いい加減にしてくれ。」
彼は疲れた顔をしていた。それを見て彼女はアルベールにビンタする。私達はクローゼットで小声で話す。
「どんどんボロを出していくわね。あういうタイプは適当にあしらえば良いの。私に無駄なライバル意識をするとこういうことになるわ。」
「カミーユって人、本当に怖いもの知らずですね。」
「怖いもの知らずというより、頭を使わない人間ね。」
あれから数カ月後、大急ぎで撮影をして、映画はリリースされた。
「こんな女優さん初めて見た。こんなに輝いてる女優久々に見た。」
「彼女の演技は商業的な匂いもかき消すものだ。大したものだな。」
世間でもかなり彼女は評価されて話題になった。映画館はどこも満員になるレベルになるくらい大盛況だった。映画を見る人は内容より、ベテラン女優達と若手の二人を見に行く人ばかりだ。
「マリーヌ、ありがとう。君がいたから私の演技が輝いた。」
「私を馬鹿にしてるのかしら?自分がシャルロットに認められて調子に乗ってるんでしょ?言っておくけど、あんたの演技なんて元々凄くないし、あんたの演技力はシャルロットがカバーしたようなもんよ。それを自分のもののように演技するなんて泥棒女優も良いところね。」
「マリーヌはそう言う信念で映画に取り組んでるんだね。私はそういうの嫌いじゃないよ。シャルロットがいなかったらちゃんと喋れないまま映画がリリースされる所だった。彼女には本当に感謝してる。でもシャルロット役の無表情は私が自分自身で得たものよ。」
ブランシュはいくらマリーヌに嫌味を言われても彼女に反抗せずにマリーヌを一人の女優として尊敬した。
「それがいつまで続くかね。」
ブランシュは私の所に来る。
「ブランシュ、ここで浮かれてるの?次の映画に向けて自分を磨きなさい。映画撮影と向上心は常につきものよ。」
映画の撮影が終わり、ブランシュと関わる機会が大幅に減った。
カンヌ国際映画祭ではマリーヌやブランシュなどかつて共演したことある俳優や女優がほとんどだった。初めての審査委員長を務めた。今年のパルム・ドールはタイ映画だった。最近のアジア映画の波は激しい。
「ちょっと待って。プレゼンターがマルグリット・エナンがなの?今すぐ変えてちょうだい。彼女はプレゼンターにはふさわしくない人間よ。」
「今さら何を言い出すんだ!」
「彼女を他のプレゼンターに変える。それだけのことよ。」
彼女とは若い頃共演して、相性が合わず20年も共演してない。女優は嫌われて当然だが、彼女は誰よりも私を嫌ってる。出会った当初からライバル意識してはそんな態度をとっている。私は共演したくないし、向こうも同じこと思っているだろう。若い頃はマルグリットの方が映画の登場は多いが、この年になれば私の方が圧倒的に映画に出てる。若さを保つ為に整形してるような女優とは私は違う。
「あの女、審査委員長だからって好き勝手やったわね。若い頃から本当に憎たらしい高慢な女ね。こんな年齢なのに、やってることが幼稚ね。」
マルグリットの代わりに別のプレゼンターがパルム・ドールのプレゼンターになった。彼女が憤慨して文句言うのは計算通りだ。怒らせると整形で取り繕った顔も表情になって浮き出る。
「私が審査委員長になったらあの女映画なんて評価に値しないわ。どんなに豪華な俳優を使おうがあの女の映画は見る価値ないわ。」
そう言いつつお互いの映画を見てる。
「シャルロット、自分勝手すぎるわ。マルグリットとのことが嫌いだからって権力振りかざすとか私も共演したくないわ。」
カンヌ国際映画祭は何事もなく終わった。例年と何も変わらない。変わったことはブランシュが参加してたことくらい。
数週間後アルベールと抱き合いベッドで寝る。
「ねえ、あなたにサプライズがあるの。」
「何だ?映画祭の審査委員長以上のことか?」
離婚届を見せつけた。
「そうよ。」
彼は動揺していたが、私は何もためらわなかった。その動揺した表情を見るのが楽しみだった。裁判をして私達は離婚にいたった。私達は結婚しても離婚しても変わらない距離感だった。向こうはどう思ってるか分からないけど、この別れは必然だ。カミーユはチャンスだと思い結婚をせがんだが、ヒステリックな彼女に冷めた彼は本格的に彼女を避けた。
「アルベール、私は彼女がどこにいるか分かってるわ。何か情報が欲しいなら私に聞いて。」
カミーユはアルベールに結婚をせがむストーカーになった。結婚していた時より彼は私へのアプローチが激しくなる。今もカミーユから逃げては私のところにいる。
ここで私は目を覚ます。