女優再来
「クロード、クロード!」
「これは君と俺の関係が消える炎のようにならないため。こうするしか俺達は幸せになれない。君の声は聞いておきたいから、口は何もしない。」
クロードはあの1ヶ月間でかなり狂った。多分元の性格がかなり過激になったんだろう。
「君がずっとずっとずっと好きで仕方なかった。電話に出ない時も、仕事の時もずっと君だけのことが頭にあった。」
「言わなくても分かってるわ。」
「分かってて、電話に出ないなら、君は誰かと浮気してたんだな。」
彼はありもしない妄想に支配されていた。支配者も頭の中で何かに支配されている。同情なんてしないけど。
「証拠なんてないでしょ。」
彼は無言で私を殴る。今の立場で何か喋るなら状況はどんどん不利になることくらい分かってる。
「それなら、何でこの芸能人の投稿にいいねしてたんだ?ルネは俺のことなんてもう頭にないのか?」
「あるわ。そうじゃなきゃ、こうやって付き合ってないわ。」
「だったら行動で示してよ。」
彼は私のほほを思いっきり叩く。だんだん痛みすらどうでも良くなる。
私は運転手のペドロとスタジオに向かいながら話す。
「最近、気になる子と共演することになったわ。女優なのに常に小声なの。」
「そんな人とあなたがどうして共演されるんですか?」
「私が聞きたいわ。ただかなり潜在能力があるわ。この前、一人でいる所をたまたま見たら、主演の子の役を主演以上のクオリティーで演じてたのよ。」
「人前になると緊張するタイプなんですね。」
「そんな彼女を上手く利用出来ると思うのよね。今のままじゃ才能がない女優に変わりないわ。いくら元々の能力があっても、しっかり発信して届かなければ才能なんて認められないわ。一般の劇団はそういうレベルは褒められるかもしれないけど、プロの集まる映画業界では通用しないわ。」
「もしかしてその子のことを気になって仕方なくて寝れないんですか?恋でもしてるんですか?」
ペドロは笑いながら冗談を言う。
「まさか、そんなわけないわ。レズビアンじゃないわ。」
笑いながら返した。もうすぐ目的地に到着する。またブランシュは誰よりも早く来ていた。その様子をカメラで記録する。
「どうせ私のことなんてどうでも良いんでしょ。」
私はそれに対して聞こえないように返す。
「被害妄想もいいところよ。」
本来私が演じるはずのない毒親役のセリフを小声で言う。カメラを回し続けると、セリフのない無表情のシーンに入る。彼女は振り返ってもカメラには気がつかない。無表情のシーンはマリーヌ以上の実力だ。録画を取り終えた。
「中々良い演技わね。いつもこれくらいの実力を発揮出来たら良いのに。」
しばらくするとマリーヌとかが来る。
「ちょっと、あんたこの前来なくて良いって言われたのに何で来てんの?出来ないくせに、文句を言うのだけは一人前なのかしら?」
マリーヌはブランシュにストレスをぶつける。
「そうよ。でもそんなにマリーヌが言うならここを出ていく。どうせ私が邪魔なんでしょ?」
いつものように撮影がはじまる。皆、ブランシュのことなんて誰も頭になかった。強いて言うなら、能力が気になってる私か当たり屋のマリーヌくらいしかいない。
「マリーヌ、あれでもシャルロット役やらせるの?上手い演技だけで、伝わるような演技じゃないわ。」
私は監督などにマリーヌの文句を言う。
「皆、聞いて。マリーヌにもうシャルロット役はやらせない方が良いわ。」
「は?何言ってんのよ!シャルロット、勝手なこと言わないで。」
予想通り、マリーヌは誰よりも早く激怒した。
「時間は限られてるんだぞ!今から取り直しになったらどうなるのか分かってるのか?」
「逆に聞くけど、マリーヌの演技でシャルロット役は務まるのかしら?成功しない駄作の未来が待ってるわ。」
「他に代役がいるのか?マリーヌしか務まらないだろ!」
「ドミニク役も代役見つかったのかしら?」
誰も私の意見には賛成しない。
「いるわ。入って来なさい!」
ブランシュがその現場に入って来た。
「私にシャルロット役をやらせてください。絶対良い映画にしますから。」
私以外全員、驚いた表情になっていた。
「冗談でしょ?こんな演技力ない声小さい女を主演にすんの?マジありえないだけど。信じられない。」
マリーヌはどんどん怒る。舌打ちをした。
「いい加減にして!シャルロット、ついに頭がおかしくなったのね。」
「待って、マリーヌ落ち着いて。シャルロットも理由があってこんな提案を出したのよ。」
毒親役の女優が言った。
「理由は十分に話したわ。これを見て欲しいわ。」
私は朝に撮った録画を大画面で皆に見せた。
「これでも反対できるかしら?」
マリーヌですら録画に引き寄せられた。周りの反応はさっきとは変わった。
「これは良い!」
「無表情がマリーヌ以上だし、シャルロット役はブランシュが適任だ。」
「無表情が最高すぎる。皆がいないとこんなにセリフがスラスラ言えるんだ。もったいないな。」
さっきよりかは肯定的な意見が増えた。
「何を考えてるんだ。全体の場でセリフがスラスラ言えなければ、ストーリーが全く伝わらないぞ。そこのとこ分かってるのか?」
「十分分かってるわ。」
「分かってないでしょ。」
監督はかなり反対だった。
「もしこれで失敗したら、違約金を払ってもらうからな。」
「そう来ると思った。受けて立つわ。ブランシュもかなり決心がついたのよ。」
この映画はブランシュあっての成功だ。
「あと、マリーヌにはドミニクやって貰うわ。ドミニク役だって悪くないわ。」
「ふざけるなよ!」
「勝手なこと言わないで!何の権限があってこんなことが言えるの?シャルロットには関係ないことでしょ。」
私はマリーヌの耳を引っ張って小声で言った。
「所詮、誰かと寝る程度でしか女優のキャリアをつめない人にそんな役務まるかしら?」
私は彼女に笑いかけた。マリーヌは予想通りかなり怒っていた。結局、シャルロット役はブランシュ、ドミニク役はマリーヌになった。
「ブランシュ、今日は私の所に泊まりなさい。私は何でもかんでもあなたに美味しい思いをさせたいわけじゃない。この良い映画にしたいだけよ。」
「分かってます。宜しくお願いします。」
「違約金なんてどうでも良いけど、必ず成功させるから、泣きごとなんて許さないわ。」
ブランシュは素直だった。
「ずっと憧れだった女優と一緒に練習出来るの嬉しいです。子供の時からあなたに憧れていたんです。」
部屋に戻ると、誰かがいる様子だった。
「この靴、旦那さんのですか?」
「旦那の不倫相手よ。中々の度胸の持ち主だから彼女をあがらせておこう。」
ブランシュはわざと足で彼女の靴を倒した。
「ちょっと、あんた!シャンプーに小細工いれたでしょ!」
「何のこと?これから私達、仕事の打ち合わせよ。邪魔だから早く消えなさい。」
「シャンプーのボトルから緑色の液体が出てきたのよ!」
「本当に何言ってるのよ?私は何も知らないわ。人の部屋をお金なしであがったり泊まったりして大した度胸ね。そう言えば、アルベールの好きな色は緑よ。良かったじゃん、ずっと狙ってた男が好きな色のシャンプーが出て来て。」
彼女は怒って私のもとに向かうと転けてしまった。
「この床滑りやすくしたの。どうやら楽しそうね。」
「楽しくないし。良い年したババアがこんなことして恥ずかしくないの?本当に呆れるわ。」
「恥?そんなのあったら、大女優なんてしてないわ。」
カミーユは怒って出て行った。ドアが閉まる音が部屋中に響く。
「すごい怒りっぽい人ですね。」
「マリーヌもヒステリックだけど、彼女よりはましね。マリーヌは寝て主演を獲得したとはいえ、演技を自分のものにする意識はあるわ。仮にアルベールが彼女に乗り換えても、所詮玉の輿に乗ったお飾りみたいな存在よ。」
「そんな生き方、今の時代ならなおさらあってないですね。一時的な解決策でしかないです。」
「忠誠心の競い合いは国を滅ぼすわ。」
彼女のセリフは私がいてもブレていなかった。練習が一通り終わる。
「前より声が出るようになったけど、まだまだだわ。ただ声を出しても駄目、全身から声を出すのよ。」
「頑張ります。」
彼女は私にゆっくり抱きついた。