もう一人
「ルネ、相変わらず女運がないわね。今の彼女、かなりのマザコンね。」
男性として生まれた私に声をかける。
「ルネ、君は俺ほど恋愛運が低いわけじゃないな。だけど今、束縛がきつい彼氏がいるようだな。前の俺と似たような状況だな。」
「なんでそんなこと分かるの?元々他の世界線に私が存在するのを知ってたの?」
「知ってたよ。だからルネに俺の現実で置かれてる状況を見せた。夢の中で俺の人格になってもらったんだ。やっと気がついてくれて良かった。」
ここは夢の空間の中。当たり真っ白でルネの姿がはっきり見える。私達以外誰もいない。
「俺には向こう側の世界を夢で見る能力がある。ルネは無意識のうちに見るけど、俺は意識して見ることが出来る。」
彼は私にはない能力がある。男性版の私は超人のようなものを感じる。
「一つ謎が解けたからスッキリしたけど、まだ解決してない問題がある。私にルネの夢を見せてるなら、他の2つの変な夢もルネが見せてるでしょ!」
「何のことだ。」
「とぼけないで。私は男性版の私の人格の夢以外に、フランスの女優の人格とよく分からない女子高生の人格の夢も見てるの。」
男性版の私は近くに来る。
「本当に何も知らない。その二人は俺とは何も関係ない。君の問題だよ。その夢は俺は見ることが出来ない。身の回りの人とかが関係してるかもしれない。」
私はルネを見つめる。
「私達は私達自信だから、何かピンチになったらお互い助け合える関係になれたら良いと思う。」
「君がピンチの時、協力するよ。」
ルネともう一人のルネが透明になっていく。
目を覚ますと、知らない人から誹謗中傷のメールがたくさん来ていた。何件も届いてる。どれも心ない言葉ばかり。何回も同じ状況だ。どこの誰がこんなことするか分からない。マリリンやコリーヌとかに相談しても答えは出てこない。
「何これ?もう送ってこないで。」
嫌になって、携帯を投げ飛ばす。携帯が花瓶に当たり、割れてしまった。破片が散らばる。私は処方された薬を飲む。冷や汗が止まらない。仕事の依頼者から電話が来る。
「このページ、デザインが思ったのと違うわ。直して貰える?」
「具体的にどこが違うんですか?」
「文字と背景が微妙にズレてるわ。」
いつもの注文が多い依頼者だ。
「分かりました。」
数時間後に受注案件と修正依頼を終わらせた。少し眠たいのでベッドで横になった。意識が無くなってくる。
もう一人のルネ、つまり男性版の私と映画館に行く。
「ねえ、私達本当に会って良かったのかな?」
「どうしてだ?俺達の出会いは必然だったんだ。自分自身に向き合う良い機会でもあるだろ。」
「私達が会って、どっちかが消えるとかないかって思う。」
もう一人のルネは笑ってこっちを見る。
「ルネ、ドッペルゲンガーの存在とかを信じてるのか?」
「そうよ。いつも一緒に行動するマリリンとかに馬鹿にされたりするんだから。私の周りはオカルトとか信じない人が多いわ。いわゆる現世主義の人ばかりだわ。別にそれで良いけど、私の趣味や思想にまで口を出さないで欲しい。」
「俺も君と同じ立場だ。オカルトとかホラー映画が大好き。」
気がついたら映画館についた。
「サイコホラー好きなの?私も好きだわ。胸糞悪い話とかよく見るし、何でか分からないけど恐ろしい復讐劇とかそう言うのも好きだわ。」
「好きなものはほぼ一緒みたいだな。」
映画館はそこそこ人が入っていた。内容は高校も通わず、引きこもりの少女が旅に出て行くうちに、どんどんサイコパスになる話だ。初めて見る内容のはずなのにすでに見たことあるような感覚だった。
「この映画いつリリースされたの?」
「先週だよ。」
「思い出した。私、夢で女優の人格の夢を見ることがあるの。そこでこの映画の独身女性の役をしてるの。過去に主人公と同じくらいの娘を無くして寂しく暮らす女性よ。ただ、その女優の名前じゃないわ。全て完璧じゃなくてもこんな偶然あるのね。」
「オチを知ってるなら全然新鮮味を感じないな。ルネの為に他の映画にしておけば良かったな。俺が映画見て思ったのはあの女性が心を開いていても、主人公は心を開いてないね。主人公のシャルロットも彼女の心の埋め合わせにならないって自覚してるでしょ。」
「それもそうね。その中年女性が主人公にいじわるするような悪い人ではないことだけは分かるわ。人格が違うとはいえ、私が彼女の役をやってるのよ。夢の中の人格が良くても、私はあんな役やりたくないし、女優なんて言うのもやりたくないわ。私は女優はアーティストのようなタイプじゃなくて、一般人でいたほうが良いわ。でも私が男性として生まれたら、売れない画家になる運命だったのね。それならそこそこ得意なウェブデザイナーしてる方が良いわ。」
彼はペンを持ち、動かしはじめる。
「確かに売れない画家なのが現状だ。だけど女性として生まれた俺の運命も良いとは思わない。君は犬や猫に対してトラウマがあるだろ。俺は売れないし、恋愛運が限りなくゼロに近いが、こっちの方が良い。勘違いしないで。女性版のルネを見下してるわけではないし、男性として生まれるはずの君、つまり俺が君に言われたことに腹立ててるわけじゃない。」
「分かってるわ。そんなこと言われなくても。」
似てる部分もあれば違う部分もある。人生はたった少しの違いで大きく道が変わってしまう連続だ。男として生まれたルネと女として生まれたルネはゼロ地点から差異があったから、違う部分がたくさんあるのは当然だ。
「そう言えば、僕は特殊な能力で君の過去を見たことある。夢を通して君のことは見れる。」
「過去?そんなものどこかに捨てたわ。過去がどうかなんて私からしたらどうでも良いの。知ったら、今の現状よりもっと酷くなる。」
もう一人のルネは特殊能力の持ち主。
「でもいずれは知ることになる。未来までは見れないけど、何となくそう思う。いつか心の奥底で忘れていた記憶がよみがえる。その時、ルネが精神崩壊したら常に俺がそばにいる。もう一人の自分が不幸せなら、自分も不幸だからな。」
私達は生まれた環境が違っても同じルネだ。その事実は私達しか知らない。誰かに話した所で信じてもらえないだろう。もう一人のルネの世界でも同じ結果。逆に信じて貰えても珍しがって私達を実験台にするような人間ばかりいるだろう。
「私達の存在は秘密よ。明らかになったら後から面倒なことになるから。絶対守って。」
「君に従うよ。絶対ばれないようにする。」
「私もあんたみたいに能力を持たないといけないわね。」
また目が覚める。携帯が鳴る。またクロードからだ。
「明日、ポートロワイヤル駅で会おう。」
「分かったわ。」
4日前にクロードが帰って来た。
「ちょっと準備があるから、待ってて。遅くなるわ。」
私はキッチン雑貨のお店に行った。
「こんにちは。」
「こんにちは。よく切れる果物ナイフありますか?最近、ナイフの刃がかけてしまったので、ちゃんとしたのを買いたいです。あとコンパクトなのを買いたいわ。」
「こちらとかよく切れますよ。包丁が慣れてない人でもよく切れますよ。それに果物以外にも使いやすいですよ。」
「分かりました。これ、買います。」
これは必ず私に必要だ。
私はクロードと合流すると、カフェに行き。家に着いた。
「ずっと会いたかったよ。無視するなんて最低だ。」
クロードは私を思いきり殴る。床に倒れる私を蹴る。痛くて、苦しい。声も出ない。彼はロープを持って来た。
「クロード、何をするの?」
「もう二度と俺に離れないで。浮気とか許さない。」
クロードは勘違いしてる。
「やめて。」
「黙れ!」
私は手と足を彼に縛られる。
「これでずっと一緒だね。」
私は身動きが取れなくなった。