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3人の夢人格  作者: ピタピタ子
12/29

男性

ベッドにまた横たわる。空き家のはずの隣から嫌な音が聞こえる。隣から猫の声もするし、ネズミがどこかで鳴いてる気がする。今日はきっとイルという男性の夢を見るに違いない。あれからその人格は色んな女性にモテているが本当に振り回す人しかいない。あの男性ともあったことがない。意識が遠のく。


「もうあんたとは付き合ってられない。」

今回もまた女運がなかった。何でもかんでも自分が正しいという女性で、仮に俺や他の誰かを傷つけたりしても自分は間違ってないと強く主張する。指摘してはいつも喧嘩ばかりだ。カップルの仲としての喧嘩よりかは、彼女の場合は自分の主義主張を押しつけて優位にたとうとする喧嘩だ。

「もう良いよ。そうなると思ってた。」

「もうあんたに用はないから話しかけて来ないで。」

俺はその後、何も無かったと自分に言って、サント・シャペルのステンドグラスを見た。俺は両親と違い無宗教だ。教会や大聖堂には行くことはほとんどないが、何かあった時にサント・シャペルに行く。巡礼とかはしないが、どこか気持ちが落ち着く。サント・シャペルを出て、またセーヌ川沿いで絵を描いた。するとジョエルが俺のもとに来た。

「イル、しばらく会ってなかったわね。画家の仕事はどうかしら?」

「絵画で部屋が埋め尽くされそうだよ。ここ最近、買ってくれたのは君くらいだ。」

「他にも何かあったみたいね。もしかして今の彼女と別れたのかしら?」

「そうだ。そうなるとは思ってたし、時間の問題だったな。」

彼女の絵を描く。

「今日、私の家に行く?ここら辺から近いの。」

彼女は15区に住んでいる。

彼女の部屋は白くてシックな感じだった。あまり余計なものとかはない洗練された部屋だった。

「部屋、綺麗だね。絵は俺のしか飾ってないんだね。」

「私、本当に好きなアーティストの絵しか飾らないの。有名かどうかなんて関係ない。私とって価値があればそれでいいの。イルが有名だろうとなかろうと、イルらしい絵を描いてくれれば私の心を引くのよ。それとお金の臭いがする絵は好きじゃないわ。生き残るのは大変な世界だろうけど、最近の芸術はどれもそうね。音楽にしても、絵にしても、映画にしてもお金の臭いが強い作品が増えたわね。」

「そうじゃないとこの世界は生き残れないようになってる。才能なんかどうでも良いんだよ。才能が万人に受けなければ世間からしたら無能でしかない。芸術の世界はそんな競争の厳しい世界さ。」

「世間があんたのことを無能と思うなら、私には才能の塊ね。才能の塊にいち早く会えてるんだから。特別感よ。もしイルが金の猛者になるのであれば絵を手放すわ。」

「俺のことを何故そんなに過大評価するんだ?」

「本当に才能があるからよ。これ以上理由なんてない。」

これ以上理由を聞かないことにした。何でもかんでも理由を追求して答えが出るわけではない。

「あなたも素敵な人ね。自分を過大評価しないから。そこら辺のボッタクリの絵画師とは違うわね。」 

彼女は俺のほほを触り、抱きついた。

「ボッタクリなんてしても何も得られない。そんなことしたら、もっと貧乏絵師になる。そんなこと心も貧しくなることなんてしない。」

彼女は俺に軽くキスをした。

「最初からそこが良かったのよ。本当の名前を教えて。」

ベッドに二人で横たわる。

「本当に知らない。」

「そんなはずないわ。」

「自然と忘れたんだ。だからイルって名前を使ってる。」

「しばらくはそれで良いわ。だけどいずれ思い出させるわ。」

「それは出来るかな。」

お互いの暖かさを発信し合う。身体中に暖かさが伝わる。

「ピエールとかポールとかそんなところかしら。何だかしっくり来てない顔してるね。クロードとか?ジュリアンとか?」

どれも俺の名前ではない。

「自分でしか答えは見つけられないよ。」

彼女は口をふさぐように接吻した。

「付き合って、どれくらいだったの?」

「6ヶ月だよ。それくらいすれば長続きしてる方だね。」

「正直嫌いだったでしょ?そんな自己中心的に扱われたら。」

「嫌いじゃないよ。」

「マゾなの?」

「そう見えるか?マゾでもサディストでもないよ。一人のアーティストだ。」

「ベッドでも絵のこと考えてるの?」

「そうだな。いつもこんな感じだ。」

「変わった性癖ね。どんな女性だろうと絵が一番なのね。」

絵のことばかり考えすぎて、女性と向き合えてないときはある。それでヤキモチ焼かれたことは何度もある。デートの時だろうと、頭には自分しか持ってない絵の世界にいる。完全にそっちの世界に行くこともあれば、現実世界と絵の世界の境界線を立つこともある。人がいる時は現実世界と絵の世界の境界線にいる。

「私は絵のような魅力的な女よ。」

「そんなこと言わなくても魅力的だよ。」

「それにしても酷いことされても嫌いにならなかったのよね?」

「人を嫌いになれないんだ。傷つきはするけど人を嫌いになることは出来ない。」

「傷つけるのが怖いくらいイルが優しいからね。」

「違う。人に対しての嫌いという感情そのもの経験したことないんだ。」

「やり返そうとは思わないの?このままだとこれからイルを都合良く扱う人間が増える。何でもかんでも許してたらこの世の中生き残れないわ。」

「そんな感情どこにもない。強いて言うなら自分の身の回りの人が傷つくなら容赦なくやり返すよ。」

「本当に優しいね。」

俺は彼女が思うほど、優しい人間ではない。今まで誰かのためにやり返したことは何回かある。誰かが傷つくのをつねに恐れている。そう言う胸糞悪い映画も見ない。目を反らしてはいけない社会問題も誰かが傷ついてるのを想像したくないから、目をそらしてる。そんな光景を目の当たりにするなら、絵の世界に没頭して入りきった方がマシだ。結局それも自分自身の精神の保身のため。根本的な所を追求すればそんなもんだ。

「また考えごと?」

「何もしてない。」

「見てれば分かるわ。」

電話がなる。

「もしもし、イル。」

ずっと前に付き合っていた女性から電話が来た。

「私よ。覚えてないなんて言わせないわ。今知らない女と歩いてたでしょ?」

「イル、誰と話してるの。」

俺は電話を切る。

「ずっと前に付き合っていた女性だ。今だにつきまとわれてるんだ。今、外出るのは危ない。」

「何でよ。」

「俺達が一緒に歩いてるのがバレたんだ。」

ドアが思いっきり叩かれる音が鳴った。

「何でそんなこと黙ってたの?」

「不安にさせたくなかったんだ。すまない。」

「とにかくその女、ぶっ飛ばしてやるわ。今まで何もしなかったのなら、ここで決着をつける時よ。蹴りをつけないと一生この状態は続くわ。」

電話が鳴り響く。

「開けなさい。」

ジョエルは扉を開ける。

「ジョエル、下がれ。」

彼女は刃物を持っていた。

「まずはその邪魔者を殺さないといけないわね。」

「邪魔者?誰のことかしら?」

「今喋ってる女よ!あんただよ。」

「何をどう邪魔したの?具体的に答えられるかしら。」

ジョエルは女性を挑発する。

「これ以上喋るなら、あんたを殺す。」

「口だけでしょ?殺せるもんなら殺してみれば?私を殺したらイルは私のために涙を流す。そしてあんたを一生恨み続ける。」

「ジョエル、落ち着け。」

「殺すことしか頭にないの?マジうける。あんたが殺人犯になったら誰もあんたの味方にする人はいないわ。そんな頭もないわね。」

彼女はカッとなって刃物を持って向かってくる。

「痛い。」

ジョエルを守るために俺が身代わりになった。彼女の刃物が刺さり、床に血が流れる。

「イル!」

どんどん視界は暗くなる。

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