ポーカーフェイスの写真集
空き家の解体作業。
人生の節目、めでたい記念日にここを訪れその日を形に残す者が多かった場所。
写真館は、時代の変化と共に廃れたひとつの文化だ。
「懐かしー。俺も子供の頃は写真館きてましたよ」
一度も訪れたことのない店に、過去の記憶を重ねる。
例え店舗が違ったとしても、その風貌はどこも変わり映えがない。
「今は技術が進んでるからな。カメラも手軽になったし、まぁ、目指すにはいい時代なんじゃねぇの?」
「出張カメラマン多くなりましたよね」
「そうでもしなきゃ、みんな自分のスマホで撮っちまうだろ」
ほら手を動かせ、と先輩が器具を使って解体を進める。
俺も事前に指示されていた通りに壁を取っ払いにかかる。
だがその前に、残されたガラス棚に一冊のアルバムがあることに気づいた。
忘れ物か? と手に取り、俺は中を確認した。
「先輩、アルバム残ってるっす」
「たぶんもういらねぇよ。廃屋になって何年経ってると思ってんだ」
「でも子供の写真ばっかですよ。勝手に捨てるのもダメじゃないっすか?」
「子供ぉ?」
怪訝な顔で手を止めた先輩は、俺の開くアルバムを覗き込んだ。
そこにはこの写真館で撮られただろう正装の子供、もしくは子供と写る家族の写真が並んでいた。
それは一つの家族に限らず、すべて違う家族だった。
先輩はしばらく無言で並んだ写真を見ていた。
「……捨てていい」
「えっ、でも家族写真もありますし。所有者に確認しません?」
「いや、手元に置きたくないからここにあったんだと思う。今のここの所有者って、たしか息子だろ」
「えーと、そうっす。写真館をやってたのが父親で、亡くなって息子が引継いだって。やっと壊せるって言ってましたね」
「じゃあ、なおさら捨てよう。それがあったと知らせなくてもいい」
「マジすか?」
いつになく先輩は剣呑だ。
おかしな空気に俺も不安が募ったが、それよりも理由が知りたかった。
先輩に目で訴えていると、先輩はため息混じりに答えた。
「子供。笑ってるか?」
「いえ、無表情っすね」
再び目を落としたアルバムには、家族はともかく、写る子供は無表情ばかりだ。いや、無表情でしかなかった。
無表情の子供しかいなかった。
「昔、あったんだよ。そういうの。子供は、死亡率が高かったから」
「死亡率?」
「ここも古くから続く写真館だから、あったと思う」
「え、待って。昔っすよね……?」
昔とはいつだろう。
廃館になったのは、いつだと聞いたか。
「カラー写真しかないですよ」
『遺体記念写真』
幼くして亡くした子供、または家族を、生きているように起き上がらせて記念撮影する時代がありました。
当時は悲しみを乗り越えるため、愛する家族を残すために行っていたと言われています。