第2話 卒業式を終えて
「やっと終わったー!あの校長、話長すぎだろ?」
「それな!俺そっこー寝たわ」
卒業証書授与やら、お偉いさんによる長ったらしくも有り難いお話を聞き流し終えて教室に戻って来ると、そんな会話が何処からか聞こえて来る。
声に聞き覚えはあるが顔と名前が出て来ないので、友達未満のクラスメイトの誰かだろう。
「なぎっち、こっちこっち!」
「何だ?」
「もー見て分かんないかなー?ウチら同じ高校っしょ?改めて親睦を深めよーぜ」
確かに佐伯さんの周囲にいるのは、受験の時に一緒だったメンバーだ。
ここに居ない人は、よりランクの高い高校に進学するか、あるいは不合格だったかだろう。
「それにしても、なぎっちも可愛い顔して意外とムッツリさんだったんだねー?」
「は?何故そうなる?」
「だって、蒼女に受かったらハーレムだ!とか言って受験してた男子結構いたじゃん?ウチのクラスはなぎっち以外全員落ちたみたいだけど」
蒼景女子高等学校は少子化による生徒数減少により、来年度から蒼景学園高等学校に改名され、男子も入学出来るようになったのだ。
来年度から共学になるということは、必然的に先輩は女子しか居ないので、ハーレムという発言も満更間違ってはいない。
とはいえ60オーバーというそこそこ高い偏差値に加えて、新入生の合格枠が女子500に対して男子は100という少なさなので、散って行った男子は数知れず。
「俺は家から一番近かったから受けただけだよ」
嘘である。家からチャリ通出来るくらい近いのは事実だが、本当の志望理由は片思い中の女子が蒼女を受けると知ったからだ。
無事に合格出来たので、趣味のゲームを封印してまで猛勉強した甲斐はあったというものだ。
「そういえば、和泉くんのご両親は外国に転勤になってしまったと噂を聞きましたけど、一人暮らしをするんですか?」
「いや親戚の家に居候する予定。家から通うよりもちょっと遠くなっちゃったけど、電車で数駅程度だし誤差の範囲だよ」
「来月から電車通学かー。痴漢とかされたらヤダから、女性専用車両乗らなきゃなー」
「柊さんは注意した方が良いけど、佐伯さんは大丈夫じゃない?」
佐伯さんは全体的にちんまいので、相当高レベルなロリコンでもなければ、痴漢の対象にはならないだろう。
「はぁー?このぶりちーなヒップが目に入らぬか?」
「ちょっと、陽菜ちゃん!パンツ見えちゃうよ!?」
「パンチラよりも女のプライドが優先じゃい!ほれほれ、なぎっちのち○こ勃ったらアタシの勝ちな?帰りにジュース奢れ!」
そう言ってお尻をフリフリする佐伯さん。
元々スカート丈がかなり短い上にプリーツが揺れているので本当にパンツが見えそうだし、たとえ見えなくても太ももは結構際どい所までチラチラ見えている。
佐伯さんにはセクシーさ以上に仕草に恥じらいが感じられないので劣情は抱けないが、思春期男子として視線を逸らすことも難しい。
「それって逆説的に、佐伯さんにジュースを奢ればいつでもパンツを見せてくれるってこと?」
もちろんそんな要求をするつもりは一切ないが、こうでも言わないとこのアホは勝手にヒートアップした挙句、公衆の面前で自らスカートをめくりかねない。
「私のパンチラは120円の価値しかないってか?せめて3,000円出しやがれ!」
「生々しい金額を言うんじゃねぇよ!」
田中のアホが財布を取り出して中身を数え始めてるじゃねぇか!
どうやら小銭を足しても3,000円には届かなかったらしく、近くにいた女子に100円貸してくれと土下座して潰れたGを見るような目で見下ろされている。
「まぁ、なぎっちが今日一日アタシの奴隷になるってんなら、特別に一瞬だけタダで見せてやらんこともないぞよ?」
「一日奴隷になった褒美がパンチラかよ」
「ただし美咲の」
「それは検討の余地があるな」
「見せませんよ。あと勝手に売らないで下さい」
冗談だと分かっているので柊さんの声に怒気はないが、代わりに若干疲れを感じさせた。
柊さんと佐伯さんが親友というのは、ウチの中学の七不思議の一つに数えて良いと思うわ。




