第26章 ドゥアール②
ドゥアール②
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応龍襲来の後、シュウウキョーヴを尋問したのは正解だった。
オレがシュウウキョーヴを殺さなかったのは、シュウウキョーヴの持っていたハルバードに、“新しい血”が付いていたからだ。
そして、オレの予想通り、シュウウキョーヴは、“ディファレントスペース”にハルバードを取りに行って、“ディファレントスペースの中に居た天使”に八つ当たりをしていたのだ。
普通は、“ディファレントスペース”などの中に残るのは、生死を共にする覚悟の有る相手だけだ。
一緒に入るなら問題無いが、中に残るとなると万が一、外で死なれた場合、“ディファレントスペース”内に永遠に取り残されてしまうからだ。
しかし、天使は“神が絶対の存在”だと信じ切っているし、シュウウキョーヴは天使を道具としてくらいにしか見ていない。
なので、平気で天使は“ディファレントスペース”に入るし、シュウウキョーヴは“ディファレントスペース”に天使を残したまま勝てるかどうかも分からない戦闘をする。
危うく、50人もの天使を無駄に死なせるところだった。
この50人を含め、シュウウキョーヴのところに居る天使には、別の主人をミクチュリアで探して貰う予定だ。
シュウウキョーヴ本人の立っての希望で、シュウウキョーヴは死んだので、エルの様にクビになった訳では無く、主人が死んだと云う理由ならば、再就職も出来るだろう。
天使をウチで雇わなかった理由は、盲目的に神を信じる天使が好かなかった事と、万が一、オレが他の神に殺された場合、その神に従って、ウチの連中の敵になる可能性が高いからだ。
因みにエルとは、天輪の力をスキルで補い切り、オレとの間に子供が産まれたら、種族を変える約束になっている。天使のままでは、“神の奴隷”だというのが、オレの中で拭い切れないからだ。
シュウウキョーヴへの尋問は、もちろん、“ディファレントスペース”の事だけでは無い。
有用な情報も手に入った。
シュウウキョーヴは、『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』だった訳だが、これはコイツ1人の思想ではなかった。
この“認めない派”の中心には、大神の1柱、ハリルドラと云うヤツが居るらしい。
このハリルドラを含めて、100柱以上の神が賛同しているそうだ。
そして、もう1つ有用な情報だったのは、ミクチュリアのドゥアールに住む神の内、7柱が“認めない派”で、この7柱も此処、アールドゥアーデの様子を観察している事が分かった。
つまり、応龍がオレに敗れて、ペットになった経緯を知っている可能性が有る。
そして、そいつがハリルドラ達に情報を伝えている可能性も有ると云う事だ。
そうなれば、ハリルドラ達が攻めて来る可能性も有るので、早急にミクチュリアに拠点を作って置く必要が出来た。
アールドゥアーデで暴れられては非常に迷惑だからだ。
と、云う訳で、大至急、応龍から情報収集を行なって、ミクチュリアの情報と他の神の情報を提供させ、“界渡りの力”を使える様にする研究を行った。
応龍が居れば、ミクチュリアとアールドゥアーデとの往復は可能だが、逆に言えば、応龍が居なければ帰って来る事が出来ない。
もしも、応龍が殺された場合や封印等をされた場合に備えて、オレを含め最低でも10人くらいは往復する能力が欲しい。
応龍の話しだと、“界渡りの力”で、世界を移った後でなければ、“リターン”も使えないらしい。
“リターン”は、行ったことが有る場所に戻る魔法だが、世界が違うとその場所が存在しない扱いになる様だ。
“界渡りの力”の研究は、先ず、光輪の力、“世界の光”を模倣するところから始めた。
暴発や失敗した場合の影響が大きそうだったので、オレの“ディファレントホーム”内の工房を使って色々試してみたが、簡単にはいかなかった。
“スキル 世界の光”を作ってみたが、発動しなかった。
此れは、オレが光輪を持たないからだ。
例えば、元アスモデウス家傘下の者達の中には、“スキル 羽刃斬り”と云う、羽根を飛ばして斬り裂く技を使う者が居るがオレには使えない。
もちろん、翼が無いからだ。
光輪も身体の一部と云う訳だ。
“スキル 光輪顕現(世界の光)”を作ってみたが、此方も発動しなかった。
此方は完全に失敗と云う訳ではない。
光輪は現れる、しかし、使い方が分からないのだ。
背中に翼を出したり、ヒィの様に腕を6本にする事も以前から出来てはいる。
しかし、今まで無かったモノが追加されても如何やったら動かせるのか分からないのだ。
もちろん感覚も繋がった状態で出現させているので、触覚や痛覚も有るのだが、何処に触られたのか、何処が痛いのかは分からないのだ。
だが、完全に失敗では無いと言ったのは、ミケネコが身体を得た時の様に、時間を掛けて徐々に感覚を覚えて行けば使用可能だと云う事は分かっている。
最悪、他に方法が無ければこの選択になるだろう。
と、ここ迄の事は、予想済みだった。
何故なら、既に天輪で同じ失敗をしていたからだ。
だが、此処から先はまだ研究が出来て居なかった。
正直言って、エルの天輪の力“天変”が出回ってしまったら、世の中に一体どれだけの失業者が出るか分かったモノでは無い。
なので、余り積極的に研究を行ってはいなかったのだ。
そんな訳で、此処からが本番だ。
次のアプローチについては、2つプランが有った。
一つは、ミケネコの様に分身体を作る方法、もう一つは、魔導頭脳を組み込んだ魔導具を作る方法だ。
しかし、此れも失敗した。
理由は、“スキル 光輪顕現”と同じだ。
どの様な繋がりで、どう機能しているかの想像が出来ず、“創造”に上手く反映されなかったのだ。
此処で、考えを変えた。
“世界の光”の再現では無く。
新たに“界渡りの力”を持つスキルを作り出す方向性に切り替えてみた。
応龍を呼んで、もう一度、色々と聞いた。
先ず、世界が違うと云うのはどう云うモノなのか?
此れは、在り方や法則、次元が異なる為に、同一の空間に存在しないモノだそうだ。
非常に曖昧で分かり難い話しだが、要は“ディファレントスペース”と同じ考えで良いのではないかと考えた。
“ディファレントスペース”は、自分が作り出した異空間との出入りを行う魔法だが、此方にも“リターン”で出入りする事は出来ない。
世界が異なるからだ。
次に聞いたのは、“世界の光”を使って、世界を移動する場合はどの様な現象が起こるのかだ。
此れは、先程の“ディファレントスペース”と同じだと考える事を後押しした。
門を生み出し、通って来るそうだ。
そして、毎回、同じ場所に出て来ると言う。
今回の事には直接関係は無いが、疑問に思っていた事も聞いてみた。
“世界の光”で、『下層世界との行き来も出来るのか?』だ。
答えは、『否』だった。
理由はやはり、魔力が向こうには無いからだと思われる。
扉は現れるが、開かないそうだ。
其れともう1つ。
アールドゥアーデがどの様にして、ドゥアールから“産まれた”のか?
応龍曰く、応龍がドゥアールをミクチュリアに作ると、アールドゥアーデが自然と現れたそうだ。
そして、ドゥアールに新たな生物を生み出すと、自然とアールドゥアーデにも、同じ生物が生まれて来るらしい…………
何故そうなるのか聞いたが、「そう言うモノ」だそうだ…………
「分からないと正直に言え」と云うツッコミを入れたのは、言うまでも無いだろう。
まあ、しかし、これで少し目処が立った。
“ディファレントスペース”とも行き来が出来る“リターン”が有れば、ミクチュリアやドゥアールとも行き来が出来る可能性が高い。
幾つかのパターンの“創造”を試した結果、“スキル リターン2”を生み出した。
此れは、“記憶に有る場所に、次元も空間も超えて戻る事が出来る”スキルだ。
因みに、時間も超えられないか試したが、やはり時間は戻る事が出来なかった。
“時属性魔法”と同じだ。
早くしたり、遅くしたりは出来ても、止める事も戻る事も出来ない様だ。
そして、以前作って封印していた“新直通ドアの魔導具”も封印を解いて改良した。
この魔導具は、転移系のスキル、魔法を受け付けなかったクリシュナの作ったダンジョン攻略の際に妨害対策を盛り込み過ぎて、自分でも妨害が出来なかったから封印していたのだが、此れを“スキル リターン2”仕様にして、持って行く事にした。
アールドゥアーデ側の設置場所は、念の為、聖樹育成実験を行っている誰も住んでいない星にして常に監視が出来る様にした。
移動手段の目処が立ったところで、応龍とエルだけ連れて、ドゥアールに向かい、“スキル リターン2”の実験とオレの活動が出来る様にドゥアールの確認を行う事にしたのだった…………
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夕食時、明日、ドゥアールに向かう事と、応龍とエルだけを連れて行く事を伝えた。
誰からも文句は出なかったが、全員が心配と不満が混ざった様な表情だ。
“足手纏い”、この言葉が全員の頭に浮かんだのだろう。
応龍との戦いで、オレの対応が間違っていれば全員死んでいた。
そんな中、珍しくセバスから注文が来た。
「お館様。お館様の決定に対して大変不敬では御座いますが、出立前に真無限ダンジョンと訓練場のレベル上限を上げて頂けないでしょうか」
そう言って深く頭を下げた。
セバスが訓練に関して注文をして来たのは初めてだ。
オレに完全に守られた形になった事をそれだけ深く反省し、後悔している様だ。
「…………分かった。
珍しくセバスからの注文だからな」
現在の真無限ダンジョンと訓練場のレベル上限は、1兆だ。
正直、此れでもやり過ぎだと思っていた。
しかし、応龍はレベル50兆で、少なくとももう13柱、同格の大神が居る。
レベル50兆ともなれば、惑星を素手で破壊出来るレベルだ。
正直、妻や配下達に安全の為に強くなって欲しい気持ちと、そんな危険生物になって欲しくない気持ちと半々だ。
だが、オレが常に守ってやれるかは分からないし、万が一、オレが特殊な方法で殺された場合の為にも対抗手段を残しておく必要も有るだろう。
レベル上限を上げる方法は難しくない。
設定を上げて、其れに必要な魔核を準備するだけだ。
魔核は、基本的には、配下達の狩って来た魔獣の魔核を放り込んでいるのだが、今回は桁が違う為、オレが“スキル 創造”で作って補充した。
妻達、ペット達と今日出勤の最高幹部は全員連れて、“新直通ドアの魔導具”を設置した惑星、命名惑星ゲートに来た。
リターン用に覚えて貰う為だ。
「じゃあ、行って来る。
早ければ今日中に、遅くとも3日後には一旦戻って来るから、万が一オレが3日経っても戻って来なかった場合には、この“新直通ドアの魔導具”は、此処の太陽に破棄してくれ」
「レンジ様、必ずお戻りになると信じております」
ルナルーレの言葉に、妻達だけで無く、ペット達や配下達も力強く頷く。
「もちろん、オレもそのつもりだよ。
でも、もしも、不足の事態が起こった場合でも、オレが落ち着いて帰って来る方法を模索出来る様にして欲しい。
其れに、応龍にもエルにも時間の感覚が無いから、ミクチュリアとアールドゥアーデに大きな時間の差が有る可能性もあるから」
「あなた、まさか4ヶ月以上掛かるなんて事は有りませんわよね?」
ラムはルナルーレの出産迄には絶対に帰って来いと言っている。
「う!!もしも、地球と同じ様に、時間差2,000倍だったら、3日で帰って来ても20年経っちゃうからなぁ〜…………」
「レンジ様、その時は、立派に成人させておきます」
「…………もう、いっそ全ての神を皆殺しにしようか…………。
其れなら1分有れば出来るだろうし…………」
「クルス神、全ての神が死んでは、秩序が失われてミクチュリアが崩壊してしまう」
と、応龍がオレのナイスアイディアを否定する。
「そもそも、応龍が時間感覚が無いから困ってるんだぞ?」
「しかし、其れは、あの惑星アルファのヒトが決めた基準であって、私が分からないのは仕方がないとクルス神も言っておられたではないか…………」
「まあ、言っても仕方ない」
そう言って、オレは大きなのっぽの置き時計を作って、その場に置いた。
形状は振り子時計だが、表示はデジタル時計で、年月日もちゃんと表示されている。
日にちと時間は、この惑星ゲートではなく惑星アルファの我が家基準だ。
「じゃあ、今度こそ行って来る」
オレの言葉に、応龍が、“界渡りの門”を上空に生み出す。
応龍はシロリュウ達と同じくらい小さくなっていたが、徐々に大きくなって元の大きさになった。
オレはエルをお姫様抱っこで抱えると、応龍に飛び乗った。
因みに、エルをお姫様抱っこしたのは、エルが応龍の背に乗るのを遠慮したら面倒臭いからだ。
突然のお姫様抱っこに最初は戸惑っていたエルだが、あざといくらい首に手を回して胸を押し当てて来た。
そんなエルと応龍と共に、上空の門の中へと向かったのだった…………
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“界渡りの門”を潜って抜けた先は、巨大な神殿の廊下の様な場所だった。
ギリシャ建築の様な、石壁と円柱状の柱が並び、室内で明かりも無いのに明るい。
そんな廊下を抜けて、扉を潜ると正面と右に扉の有る部屋に出た。
そのまま正面の扉に入ると、もはや部屋と云う言い方が正しいのか分からない程の広さの部屋だった。
まあ、全長300kmくらいありそうな応龍の部屋だ、デカいのは当然だろう。
余り物の無いその部屋の中央には、北海道が寛げそうな程デカい、人をダメにしそうなクッションが聳え立っていて、その横には、実寸大北海道が描けそうなキャンパスが置かれている。
そばに有る筆は、スカイツリーの様だ…………
「クルス神、此処が私の私室だ。
魔導具の設置は好きなところに行って貰って構わない」
「分かった。
だが、此処には誰でも入って来れるよな?」
「うむ、確かにそうだな」
「其れに、この広さだ。
奥の方に隠れていても分からない。
だから、魔導具だけで無く警備システムも備えて設置しようと思う。
応龍が殆ど使って無いスペースをちょっと貰えるか?」
「うむ、其れならば、そこの寝所以外は殆ど使っていないから、何処でも好きに設置してくれ」
「分かった。
なら、その辺に作るけど、絶対に不用意に触れるなよ。命に関わるから」
「!!魔導具を“守る”モノを設置するのではないのか?」
「攻撃は最大の防御だ!!」
「其れに、私の命に関わる程の高威力のモノを寝所に置くのか?」
「じゃないと、応龍と同レベルの大神から守れないだろ?」
「うぅ〜〜む〜〜…………。
ならば、彼方の出来るだけ隅にお願いしたい」
「分かった。じゃあ、あっちの角に設置しよう」
オレは、応龍の部屋の隅に行くと、“直通ドアの魔導具ダミー”を設置して、クルス商会の地下迷路にも設置している“トリモチ魔導具”と“監視魔導具”を設置した。
応龍とのやり取りは、フェイクだ。
万が一、この部屋が監視されていたり、敵が潜んでいた場合に備えてのモノだ。
そして、ダミー魔導具が繋がっている先は、オレの“ディファレントホーム”内の牢だ。
魔導具の設置を終えて、今度は、シュウウキョーヴの神殿に向かった。
この、ドゥアールは浮遊大陸という事だったが、大きさは大陸と言うにはデカ過ぎる。
惑星アルファが100個くらいは余裕で乗っかるくらいの広さだ。
この途轍も無い広さの中に、神は応龍以外に88柱、シュウウキョーヴが減って87柱だけだ。
そして、天使が3,000人程いて、他の種族の人間は、正確な人数は知らないらしいが、1億人くらい居るらしい。
しかし、其れでも非常に少ない。
神々が治めていると言っても、ぶっちゃけ、神達は好きに過ごしているだけで何もしていないらしく、人間側も好きなところに勝手に集まって街を作っているらしいが、国や政治と云うモノは無いらしい。
なので、金も無い。
みんな、物々交換で給料も基本現物支給らしい。
其れでも社会が成り立っているそうだ。
其れは偏に、このミクチュリア自体の魔力の高さ故だろう。
惑星ゼータや惑星イプシロンは、アルファに比べて非常に魔力が高かったが、このドゥアールはその比では無い。
感覚としては、アールドゥアーデの様に太陽から魔力が供給されているのでは無く、世界そのものが魔力で出来ているかの様に感じる。
此処ならば、魔力の使用量が多過ぎて断念した魔導具や魔法が普通に使えそうだ。
なので、この世界では魔力にモノを言わせた野菜の栽培や、豊富な魔力の所為で、幾らでも魔力溜まりから、魔獣が産まれて来て、食べる物に困らないのだろう。
そして、神達でさえ、『強いヤツが正しい』と云う脳筋思考なのだ。
人々も当然、力で全て解決している。
法律も取り締まりも必要無いのだろう。
神々の世界ミクチュリアなどと偉そうな言い方をしているが、正直言って原始的過ぎる。
やはり、贅沢は発展の敵だ。
そんな事を思いながら、応龍の背から景色を眺める事しばし、シュウウキョーヴの神殿が見えて来た。
応龍の神殿は見た目もギリシャ建築風だったが、此方は寺院の様な建物で、キンキラキンだ。
アレは、金箔が貼って有るのでは無く、実際に金で出来ているだろう。
そんな悪趣味な建物に近付くと、ワラワラと天使達が出て来て、跪く。
天使達は皆、スタイル抜群で美人揃いなのだが、エルと初めて会った時の様に、いまいち魅力を感じない。
やはり、神に盲信的過ぎて、自分の意思が希薄なのではないかと思う
応龍がオレを降ろして小さくなると、代表者の様な天使が近付いて来た。
「応龍様、お越し頂き有り難う御座います。御用件を承ります」
「うむ、シュウウキョーヴが、此方のクルス神に敗れて死んだ。
シュウウキョーヴのモノは全てクルス神のモノとなった。
クルス神の指示に従え」
「畏まりました」
主人が死んだと云うのに誰一人、一切動揺も無ければリアクションすら無い。
憎悪どころか敵意すら感じない。
応龍がシュウウキョーヴよりも上位の大神で、その言葉が絶対だからだろう。
「オレがクルスだ。先ずはこの神殿のモノを確認したい。
おまえと、後はおまえと、おまえと、おまえと、おまえで案内してくれ。
他の者は呼ぶまでは好きにしていてくれ」
代表者ともう4人を指名して案内をさせる事にした。
この5人は、エルと同じく称号が“熾天使 セラフィム”の者達だ。
寺院っぽく、幾つかの建物があったが、先ずは本堂っぽい建物に向かう。
中もゴデゴテのギラギラで、装飾品や工芸品の様なモノがセンスのカケラも無く、所狭しと置かれていた。
外見は寺院の様だったが部屋や廊下は洋風で絨毯が敷き詰められていてあり、各部屋の椅子やテーブルも洋風だった。
そんなチグハグな建物内を案内される事しばし、やっと目的の部屋を発見した。
その部屋は中央に大きな水晶球が有り、ソファー、テーブル、ベットの有る。
イメージとしては、ゴロゴロしながらテレビを見る部屋の様な感じだ。
実際の使われ方もそうだろう。
この部屋は、アールドゥアーデの監視部屋だ。
水晶球の魔導具は、大きな水晶球に小さな水晶球とパネルの様なモノが着いており、幾つかのスイッチがあった。
起動ボタンっぽいスイッチを押して水晶球を起動して、映像を見る。
パネルの様なモノに無数の光点が現れて、その中に幾つか印の付いているモノがあった。
印の有るモノの1つを拡大して行くと、そこは、エルを拾った惑星イオタだった。
その後も色々と操作して、この魔導具は映像の巻き戻しや360度、好きな方向から見れる事などの機能が有り、特定の星や人物に印を付けたり出来る事が分かった。
そして、此れは、ミクチュリアでしか使えない事も分かった。
魔力の使用量が莫大なのだ。
此れ1つ動かすのに、太陽数個から直接魔力を吸い上げるくらいは必要だ。
最後に此れは仮説だが、恐らくミクチュリアの方が時間経過が10倍くらい遅いと思われる。
映像が放っておくと10倍速くらいで流れて行くからだ。
この仮説が正解ならば、此方に居られる時間は7時間しか無い。
妻達を心配させない為にも、さっさと行動しよう。
その後も本堂内の案内をさせて、本堂内は全て周った。
そして、特に使われていなかった部屋を改造して、罠だらけにした後で“直通ドアの魔導具ダミー”を設置して、天使達にはオレが応龍よりも上位の神である事と、オレの許可無く、何人も神殿に入れてはいけないと指示して、この場を後にした。
今回の目的地は全部で8カ所。
先ずは応龍の神殿とシュウウキョーヴの神殿。
そして、ドゥアールの4方の端っこ。
因みに、方角と云うモノは無いらしいので、応龍の神殿の入り口側を南、裏側を北と勝手に決めて、東西南北の端に相当する場所だ。
続いて、大神ハリルドラの浮遊大陸が有る方角の端っこ。
最後に、ドゥアールの中で出来るだけ、広範囲に何も無く、生き物も少ない場所だ。
応龍の神殿とシュウウキョーヴの神殿を除く6カ所には、砦と本拠地を建設するつもりでいる。
建設場所の確認とオレの“リターン”が使える場所を増やしておくのが目的だ。
時間が有れば、もっとこのドゥアールの情報を集めたいところだが、何方にしろ“スキル リターン2”が失敗してしまった場合には、もう一度、移動手段の研究からなので、先ずは往復可能にしようと割り切った。
時間の節約の為、端っこ5ヶ所は方向だけ聞いて、応龍とエルを“ディファレントスペース”に入れてから移動はオレが行った。
全ての目的地を周り切ってから、再度応龍の私室へ。
「じゃあ、応龍、予定通りエルを頼んだぞ」
「分かった。御武運をクルス神」
オレは、応龍の私室に設置した“直通ドアの魔導具ダミー”の中に入る。
オレを見送った後、応龍は、“世界の光”の門で帰る予定だ。
オレが敢えて、このダミーを使ったのは、此処から出入りしている処を、敵に見せる為だ。
応龍の神殿は、応龍の一人暮らしだ。
応龍の趣味は、光輪の力にあった絵を描く事と彫刻で、1人で集中する為に使用人も天使も居ないらしい。
しかし、オレの“スキル 感知”の外、かなり距離を取って居るが恐らく“誰かが居る”。
監視か盗聴かは分からないが、何かしらの手段で此方の情報を集めている様だ。
なので、罠に掛かればラッキーくらいの気持ちで、このダミーを使う事にしたのだ。
ダミーを抜けるとオレの“ディファレントホーム”内の牢の中に、もちろん一方通行で、抜けた瞬間、扉は消える。
そして、此処からが本番だ。
“スキル リターン2”で、惑星ゲートの時計の前へ!!




