第26章 ドゥアール①
ドゥアール①
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運命の11月13日。今年もこの日がやって来た。
現在は、惑星イプシロンのマウシカ帝国との、国交樹立と産業ギルドへの加盟、国境兼大使館の建設にマウシカ帝国への出店も終えて、各種研究を中心とした日々となっていた。
朝の報告も特に変わった事は無し。
もしかしてと思って、“界渡りの力”の研究も一緒に行ったが、進展は無し。
昼食後には、妻達と新婚旅行で唯一行けていないオオサカ国と、友好惑星となった惑星ゼータ、惑星イプシロンの観光をしに、新婚旅行の再開の話しなどを行ったが、特に変わった事は無し。
その後も何か変わった事が有るかもと、色々見て周ったが、此れと言って特別な事が無いまま、夕食を取って、妻達と昼食後の新婚旅行の話しの続きをしていたのだが…………
「お館様、惑星イオタに巨大な龍の様な生物が現れた様です」
ガリーの“情報読み出し魔導具”に緊急警報が鳴って、その報告を受けた。
「やっぱり、罠だったと言う事か…………。
直ぐに、緊急事態警報を全世界に出せ。
『応龍が現れた可能性有り』だ。
休日の者も含めて、全員を緊急時配置に着けろ。
其れから、エルを3の月の訓練場に向かわせろ。
オレ達もそこに向かう」
「は!!」
「お館様、ミミッサス大森林上空に標的を確認。
応龍で間違い無い様です。
其れと、もう1柱、シュウウキョーヴが応龍の持つ玉の中に居る模様です」
「特に攻撃して来たり、話し掛けて来たりはしていないな?」
「はい、上空で“探知”の様な行動をシュウウキョーヴが行っている様ですが、其れ以外の行動は有りません」
「やっぱり、エルを追ってオレに辿り着こうとしているな。
エル、ミミッサス村と第1クルス島と、この3の月以外に出掛けた場所はあるか?」
「王都ビルスレイアとサーラールの街にはぁ、行った事が御座いますぅ」
「ガリー、宰相とラルに、警戒を高くさせろ。
だが、決して此方からは仕掛けるなと伝えろ」
「は!!お館様、応龍が移動を開始、方角から第1クルス島へ向かっているモノと思われます」
「…………そうか…………
エル、さっき迄は、第1クルス島村で呑んでたのか?」
「!!はいぃ。やはり神には全てお見通しの様でぇ…………」
「いや、おまえの給料が全て酒に消えているのは第1クルス島村の売上情報で知っていただけだ。
まあ、さっき迄、第1クルス島村にいて其処から此処に来たなら、第1クルス島村の次は此処に来るだろうな」
豚を掴んだ巨大な龍が訓練場の上空から降りて来た…………
応龍は、基本は龍だ。
黄金に輝き、大きさはシロリュウの3倍くらいはある。
龍との違いは、背に3対6枚の竜の翼が有り。
頭部から翼に掛けて、直径500mくらいの巨大で複雑な模様の天輪が有る。
そして、掴んでいる豚は、絵に描いたようなオークの姿だ。
アルファにも豚や猪の獣人種族は居るが、どちらかと言うと豚や猪の特徴の有る人だ。
此処まで、オークっぽい人物には会った事が無い。
恐らく、あいつがシュウウキョーヴなのだろうが、とても神には見えない。
オークっぽいからでは無い、表情と服装だ。
豚顔で、完全に悪徳商人の様な下品なニヤけヅラで、欲望の塊の様な目をしている。
服装も品の無い貴族の様なゴテゴテ衣装に、装飾品もジャラジャラだ。
そして、応龍ではなく、シュウウキョーヴが声を出した。
「やっと見つけたぞ!!
オレ様から天使を盗んだ神モドキめ!!」
「はん、よく言う。
本当は最初からアルファに居る事が分かっていながら、わざわざ、惑星イオタ経由で来たクセに。
其れと、おまえがやった事も大体想像がついている」
「なんだと?!
貴様の様な神モドキが一体何を言うか!!」
「おい、応龍。
おまえも高見の見物をしていないで降りて来い。
部下の行いは上司の責任だ。
おまえにも責任が有るからな」
応龍は、此方を見て、シュウウキョーヴを地上に降ろすと自身も3mくらいに小さくなった。
しかし、此方を見つめたまま、無言だ。
「応龍様、何故こんな神モドキの言う事をわざわざお聞きになるのです!!」
「じゃあ、おまえの立てたチンケな計画だが…………」
「貴様!!さっきから聞いていれば、何を言うか!!」
「いいから、黙って聞けよ。
おまえは先ず、何か理由を付けて、天使に『暇を出す』と、言おうとした。
此れは、本人に“クビになった”と思わせて、おまえの都合の良い時に“休暇を与えただけ”と言い換える為だ。
じゃあ、何故こんな事をしたのか。
惑星イオタで、上位世界への干渉の魔導具が作られたからだ。
しかし、此れは失敗作だ。
上位世界から、人を召喚するどころか、物質すら呼び寄せる事が出来ない。
だが、呼ぶ事、事態は出来る。
なら何故、此処に居るエルがこの中層世界に来たのか。
魔導具が呼んだタイミングで、おまえが突き落としたからだ。
この魔導具が失敗作なのは、引き寄せる力が無いからだ。
だが、上層世界の方から押して貰えば、此方に落ちて来る。
其れを使って、エルを中層世界に落とした。
そして、おまえはオレかクスレンか、他のヤツか、まあ、誰でもいいから、中層世界の神がこのエルを拾いに来るのを待って、『休暇中の天使が中層世界の神に奪われた』と応龍に言って、取り戻す名目で此方に来た。
これからのおまえの計画は、オレを殺して『中層世界に神が居ては、またいつ天使が奪われるか分からないから、他の中層世界の神も処分すべき』だと、応龍に言って、中層世界から神を居なくさせたいんだろ?」
「何を言うか!!
そんなモノは全て貴様の愚かな想像だろうが!!」
「と、言う訳で応龍。
おまえはこのバカの上司としての責任と侵略者を連れて来た責任が有る訳だが、どう責任を取るんだ?」
「神の言葉は全て正しく、相反する場合は、より上位の神の言葉が正しい。
優劣が無いならば優劣を付けるべし」
「なるほど、勝った方の意見を受け入れるという訳か。
なら応龍、オレはおまえの神の言葉が全て正しいと云うのを否定する。
神であろうと間違いや嘘が有る。
だから、これから、おまえとこのバカと何方も潰して、オレが格上だと教えてやろう」
「貴様!!オレ様に既に勝った気でいるのか!!
応龍様が貴様と戦うまでも無く、オレ様が貴様の息の根を止めてやる!!」
「お?!手加減して殺さずにおいてやろうと思っていたが、殺し合いがご希望か?
なら、おまえは殺す。
で、おまえの持つミクチュリアのモノは全て貰う」
「手加減だとぉ〜〜!!
殺さずにおいてやろうだとぉ〜〜!!
貴様の様な神モドキが上からモノを言いおって〜〜!!
殺してやる〜〜!!」
大声で叫んだにも関わらず、シュウウキョーヴは怒り狂っている様に見せかけて、冷静に“ディファレントスペース”に武器を取りに行って、巨大なハルバードを持って現れた。
『さて、豚の方はまあいいだろう。
レベル200億、さすがは神だが、レベルの高さ以外に変わった点は見られない。
問題は、応龍だな…………
“界渡りの力”は、持っている筈だが、“鑑定”出来たスキルに其れらしいモノは無い。
で、“天輪鑑定”は、何も出て来ないと言う事は、あのデカい“天輪”は、別のモノだと言う事か。
あのデカい“天輪”の能力が不明なのとレベル50兆とは…………
大神は、他の神とは完全に別物の様だな。
今後、他の大神との遭遇の可能性も考えると、ウチの連中の無駄に思えていたレベルアップも一概に無駄とは言い切れないな。
しかし…………
最も偉い神が、この程度なら、オレのレベル9,000無量大数は、やり過ぎだったかもしれない…………』
そんな事を考えながら、“ディファレントルーム”から白刃と黒刃を出して、腰に下げて、さっさと斬り刻もうと思って、ふと気付いた。
コイツのハルバードが、“血に濡れている”事に…………
なるほど、コイツならあり得るだろう。
急遽予定変更で、シュウウキョーヴのハルバードを去なして、右腕を切り落としたが、見る間に腕が回復して行く。
『“スキル 超再生”が邪魔だな…………』
オレにハルバードを受け流されて、ハルバードを地面に深く食い込ませているシュウウキョーヴの後頭部を掴んで、“スキル スキル強奪”で、“スキル 超再生”を奪うと、白刃で四肢を斬り落とし、“神聖属性魔法”で止血し、オリジナル神聖属性魔法の“気絶魔法”で、意識を刈り取った。
ドサっと、倒れたシュウウキョーヴを念の為、結界で閉じ込めて、応龍の方に向く。
「さて、次はおまえだ。
倒す前に聞いておくんだが、上位の神の命令には絶対に従わないといけないのか?」
「否、上位の神といえど、神同士で有るならば、絶対に従う必要は無い。
従わせたいなら、もう一度、何方の意見が正しいか判断する」
「そうか。なら、おまえが負けたら、ウチのペットになれ。
おまえが勝ったら、そこの豚も生かしておいてやる」
「…………いいだろう…………」
「なら、始めるぞ」
オレは黒刃も抜いて、妻達やペット達にも結界を張る。
さすがに、ウチのメンバーでも、レベル50兆との戦闘では、余波どころか、プレッシャーだけで命の危険が有る。
オレの準備が出来るまで、待ったのだろう。
応龍が黄金のブレスを吐いてきた。
普段なら避けるところだが、もしも、特殊な効果が有ってオレの結界を砕いたら、後ろのみんなが危険なので、結界で防ぐ。
しかし、ブレスは結界を越えて此方に向かって来た!!
結界は、砕けていない。すり抜けて来たのだ!!
『マズい!!』
オレは、一気にブレスに近付きワザとブレスに触れると、僅かでは有るが“オレにダメージ”が入った。
其れを確認すると、“思考加速”を最大にして、“スキル 森羅万象”に尋ねる。
『“生命のブレス”。生物に、癒しと破滅を与える』
『なるほど、生物以外には一切効果が無いのか。
オレが避けたら、みんなもだが、豚も死ぬだろう。
ワザと、オレの『豚を生かしてやる』って条件を呑んで、戦闘に巻き込んで殺そうとしたのか?』
まあ、効果が分かれば問題無い。
“ディファレントホーム”入り口を大きく広げて、ブレスの侵入を“許可”する。
すると、ブレスは“ディファレントホーム”の中に消えて行った。
「…………ほう…………」
応龍は、随分と感心した様子で此方を見ている。
しかし、その余裕は命取りだ。
オレは、応龍が視認出来ない程のスピードで、“デカい天輪”に触れて、“スキル 森羅万象”を使って戻って来た。
先程のブレス同様に、此処が森羅万象の困ったところだ。
なんだか分からないモノは、直接触れて、『此れの名前は?』と聞いてから、其れが一体何なのか聞く必要がある。
“デカい天輪”は、“光輪”らしい。
そして、光輪には、天輪の様に光輪特有の力が有るらしい。
オレは直ぐに“スキル 創造”で、“スキル 光輪鑑定の指輪”を作って装備。
応龍の光輪を鑑定する。
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光輪(応龍)
生命の光
生命を司る光
世界の光
世界を司る光
魔力の光
魔力を司る光
空間の光
空間を司る光
秩序の光
秩序を司る光
審判の光
審判を司る光
絵画の光
絵画を司る光
彫刻の光
彫刻を司る光
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後半の意味は良く分からないが、光輪の力が非常にアバウトなモノだという事は分かった。
そして、スキルや魔法と同じ考えなら、“アバウトな能力程、厄介”だ。
アバウトなモノ程、応用が効いて、解釈次第で幾らでも使い道が広がるからだ。
例えば、“生命の光”。
此れは一見、命を生み出す力の様だが、先程の応龍のブレスも恐らくこの力だろう。
生命を司り、生命にのみ効果の有るブレスを生み出したのだ。
そして、生命を司って、自身を不老不死にしている可能性も高い。
しかし、此処で惑星ガンマの問題を解決した後で、今後の天使種族対策に、色々と考察していた事が役に立った…………
「なあ、応龍。
オレがブレスに対応して見せたのに、余裕ぶって居られるのは、おまえが不老不死だからか?」
「…………其れも有るな…………」
「そうか、なら此れから、その余裕を取り除いてやろう…………」
オレは、そう言うと“ディファレントルーム”に手を突っ込んで、ぶっ太い鎖を出す。
もちろん、“ディファレントルーム”の中で、“スキル 創造”で今作ったモノだ。
「…………その鎖に何か有るのか。
しかし、其れを私が……!!いつの間に!!」
応龍が喋っている間に、鎖を応龍の首に巻き付けて元の位置に戻ったのだ。
「驚くのは、此れからだ!!」
オレは、ワザと応龍が視認できるギリギリのスピードで、応龍の翼を全て斬り落とし、更に後足よりも先の尻尾も斬り落として、もう一度元の位置に戻った。
「ぬぐ!!速い!!
其れに私が斬られるとは!!」
そう言いながら、応龍は地面に落ちる。
「な!!光輪が力を示さない!!」
「そう言う事だ。
その鎖が有る限り、おまえも死ぬ」
「ならば、この様な鎖など!!」
応龍は、前足で引き千切ろうとするが、オレの9000無量大数の魔力でガッツリコーティングされた超圧縮黒オリハルコンの鎖だ。
たったレベル50兆しか無い応龍のステータス程度では、ビクともしない。
「其れならば!!」
応龍は、更に小さくなったが、鎖も一緒に小さくなる。
「な!!一体どうすれば!!」
「おまえの負けだ、応龍。
おまえは殺されれば死ぬ身体になった。
そして、ミクチュリアに逃げ込む事も出来ない。
更に、おまえよりもオレの方が圧倒的に速いから、この場から逃げる事も出来ない…………」
オレの言葉に、神たる応龍が、ビクッとする。
そこに、追い討ちを掛ける様に気絶スレスレまで、“スキル 殺気コントロール”で、殺気をぶつける!!
応龍は、初めて感じたであろう死の恐怖にガクガクと震え始めた…………
「応龍。オレはこう見えて、身内には優しく接する様にしている。
おまえがもし、自ら望んでウチのペットになるなら、快く迎え入れてやっても良いが、どうする?」
「し、しかし、私には、ドゥアールを治める責務が…………」
「そうか。
つまりおまえは、負けたらオレのペットになると言ってはいたが、負ける時は死ぬ時だと覚悟していた訳だな。
分かった。
そう言う事なら、おまえの死体で研究するから安心して死ねばいい」
「ま、待ってくれ。
私が居なくなれば、このアールドゥアーデにも、新しい種類の生物が生まれて来なくなってしまうのだぞ?」
「其れは別に問題無いだろう。
今でも十分、色々な種類の生物がいて、これからは、その生物の交配だけで種類が少しづつ増えればいい。
言い残す事はそれだけか?」
「ま、待て。私が悪かった。
当初の約束通り、其方のペットになる!!」
「…………おまえ、まだ自分の立場が分かっていない様だな。
これだから死なないと思っているヤツは困る。
いいか?
おまえがオレに絶対の服従を誓い、自ら望んでオレのペットになるなら、受け入れてやると言ったんだ。
その場しのぎの言葉がオレに通じると思っている時点で、おまえはまだオレとの力関係が分かっていない。
この剣を良く見ていろよ」
「!!うぐ!!」
「どうだ、ちゃんと見ていたか?
オレが今、おまえの足を全て斬り落としたのを。
おまえに見えたか?
オレの動きが。
此れが、最後だ。
おまえはどうしたいんだ?」
「…………わ、私は、貴方様に絶対の忠誠を誓い。
貴方様のペットとして生きる事を望む…………」
「分かった。
なら、おまえの忠誠を受け取ろう」
オレは、早速、“スキル 獣操術”で、契約をした。
ちゃんと心から屈服した様で、何の抵抗も無く契約出来た。
そして、応龍の鎖を外してやる。
応龍は、直ぐさま回復したが、特に妙な行動は無かった。
「じゃあ、クリシュナ、シロリュウ、シエラールル。
3人で応龍にウチでの生活とルールを教えてやってくれ。
ダルグニヤンは、各国に『緊急事態の解決』を伝えておいてくれ。
セバスとリンドレージェは付き合ってくれ、“アレ”の尋問をする」
こうして、やはり一悶着有った、20022年11月13日の“応龍襲来事件”は、幕を閉じたのだった…………




