第25章 舞い降りた天使①
舞い降りた天使①
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「お館様、決着が付きました。
シータの勝利という形に成りました」
8月29日、間も無く8月も終わろうというタイミングで、ギルスーレから報告が入った。
「そうか、残念ながら共倒れという訳には行かなかったな…………」
「はい。しかし、勝利したシータ側も被害は甚大です。
何方もメテオストライクを成功させましたが、着弾地点が陸か海かで勝敗が別れました」
「エータ自体はどうなった?」
「はい。お館様の仰られていた、核の冬になると思われます。
聖樹も失われた様で、再生の可能性も低いのでは無いかと」
「そうか…………。
シータの方は?」
「はい。津波と大雨の影響が大きく出るとは思われますが、主要都市は守り切れた様です」
「分かった。計画を進める。
夕方に会議の予定を組んで、其れまでに残存戦力と宇宙要塞の位置情報を纏めておいてくれ」
「畏まりました」
惑星エータと惑星シータは二重惑星、所謂、双子星だ。
この2つの惑星は戦争状態だった。
理由は大きく2つ。
1つは、魔導神だ。
魔導神は、この2つの惑星に異世界召喚の魔導具と共に、お互いの星を行き来出来る様に宇宙船を置いて行った。
そのせいで、文明レベルにそぐわない異星間交流が始まってしまった。
もう1つは、2人の巫女と云われる人物が同時に2つの星に現れた事だ。
この巫女は、2人とも「双子星の共栄はあり得ない。何方かが必ず衰退する」と言ったらしい。
其れによって、お互いがいがみ合う様に成り、あっという間に戦争状態になった様だ。
しかし、直ぐに大きな争いになった訳では無い。
元々、何方の星も宇宙船は1隻づつのみ。
壊されるか、奪われるかした場合、確実に負けてしまう。
何方の星も科学技術の無い剣と魔法の世界で、文明レベルもせいぜい石造りの城が建っている程度だった。
アルファの様に、家電製品に代わる様な魔導具も殆ど無い状態だ。
宇宙船を増やす事など出来る筈も無い。
そこで、もう一度、2人の巫女の登場だ。
今度は、「宇宙船を作れる者を、生贄を捧げて呼べば良い」と、言ったらしい。
エータとシータの異世界召喚魔導具は、第4の聖剣同様の、1人で1人を呼ぶ魔導具だった。
これを使って、異世界人、つまり地球人を呼んだ。
だが、そう簡単に宇宙船を作れる者がやって来る訳が無い。
長い時間と多くの犠牲者の下、錬金術の技術向上と科学知識の集大成で、5,000年程掛かって宇宙船の新造に漕ぎ着けた。
其れも、2つの惑星で、同時期に…………
1つ出来れば、後は応用だ。
宇宙戦闘用の戦闘機、人型機動兵器、宇宙要塞迄、どんどん作られて行き、数百年で大規模星間戦争になって行った…………
オレ達が観測を始めた時には、お互いに収拾が付かなくなっており、自分達の星の衛星を相手の星に落とす、メテオストライク計画を進めていたのだ…………
メテオストライクなど起きれば、多くの犠牲者が出る。
事前に止めるかどうかは、少し悩んだ。
しかし、放って置いて、決着が着くの待つ事にした。
さすがに、万が一、メテオストライクなどに巻き込まれたら、ウチの配下達に犠牲者が出てしまう。
見ず知らずの多くの命よりも、オレは身内1人の命の方が大切だ。
命の危険を冒してまで、無意味な戦争を止めてやる程、お人好しでは無い。
むしろ、何方も滅んでくれたら手間が省けたくらいだ。
だが、惑星エータは滅んで、惑星シータは生き残った。
そんな訳で、今回は何方かが勝った場合の計画を進める事となった…………
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「エータ異世界召喚魔導具No.3回収完了しました」
「エータ異世界召喚魔導具No.4回収完了しました」
「エータ異世界召喚魔導具No.1回収完了しました」
「エータ異世界召喚魔導具No.5回収完了しました」
「エータ異世界召喚魔導具No.2回収完了しました」
「お館様、全てのエータ異世界召喚魔導具の回収が完了致しました。
間も無く全機帰投します」
「分かった。
帰投の確認が出来次第、惑星エータの大気圏を離脱、そのまま惑星シータへ向かう」
「「「は!!」」」
「お館様、大気圏離脱完了致しました。
前方に宇宙要塞、距離30万です」
「良し。総員戦闘準備だ。
戦闘準備が整い次第、距離1,000まで一気に擬似ワープしろ。
セバス、後は任せる」
「畏まりました。
行ってらっしゃいませ」
オレは専用機に乗り込み、ブラックキューブモードのシルバーウィングの上に降り立つ。
オレの後ろには、ペット専用機に騎乗した妻達の専用機。
その後ろには、隊長機が並び、さらに後ろには汎用機がズラリと並んでいる。
全員に通信を繋ぎ、檄を飛ばす!!
「いいか、みんな。
今回の目的は、異世界召喚魔導具の回収だが、戦闘に関しては一切の遠慮は無用だ。
向かって来る者は、全て蹴散らせ!!
メテオストライクなんて、大規模破壊をする様な連中だ。
自分が殺される覚悟もあるだろう。
二度と他の星を攻めようなんて考えられなくしてやれ!!」
「「「おお〜〜!!」」」
「では、ご主人様。第1陣、行って参ります」
「ああ、キスラエラ、エリカ、ヒィ。3人とも気を付けてな。
シロクラゲは大丈夫だと思うが、キキリンは一応初陣だ。油断しない様にな。
あと、クロクジラはヒィを頼むぞ」
「うん。キキリンさんとも、もう息ピッタリだから、任せといて」
「うむ、主よ。我が勇姿をしかとご覧に入れよう」
そう言う、エリカとキキリンの言葉は非常に勇ましいが、キキリンの専用機はエリカのたっての希望で、見た目はメカキキリンだ。
つまり、短足丸足3頭身のキリンだ。
非常にコミカルな姿だ…………
「…………まぁ〜〜〜〜かぁ〜〜〜〜せぇ〜〜……」
「はい、行って参ります」
今日のクロクジラは、留守番のルナルーレに代わって、ヒィと組んでいる。
クロクジラは、非常にのんびり屋だが、やる時はやるし、本気を出せば直進ならウチで最速だ。
いざと言う時の為に、トラブルメーカーの保険として組んで貰っている。
第1陣は、直進上に居る手前の宇宙要塞攻略組みだ。
キスラエラの指揮の下、エリカ達とアンジェ、副メイド長達とメイド部隊のチームだ。
この宇宙要塞は、小衛星改造型の前線基地の様な代物だ。
なので、要塞を落とす事よりも、他への救援に向かわせない事が最重要任務だ。
キスラエラが全体を見て、アンジェがフォローする形で、取りこぼしの無い様に陣形を指示している。
「それでは、クルス様。第2陣も出撃致します」
「ああ、ギルスーレ。
今日は遠慮はいらん。徹底的にやっても良いからな」
「はい。畏まりました」
「リム、セレン、セリン、クロリュウ、アカリュウ、ホネリュウ。
味方を巻き込まないなら、要塞は粉々にしても構わない。存分に暴れて来い」
「はい、お父様。粉砕して来ます」
「リム奥様、せっかくなんで、アレをやっちゃうっス!!」
「主様の為に頑張って来ます!!」
「はい、主様の完全勝利の為に!!」
「行って参ります。ご主人様」
「ボス、お任せ下さい」
第2陣は、惑星シータの主戦力、星系間航行も可能な超大型宇宙要塞陥落組みだ。
直径3,000kmと云う、バカでかい宇宙要塞で、惑星シータの軍事力の要だ。
宇宙軍の殆どの戦力が此処を起点にし活動している。
此処は落とす。
ウチの戦力の大半を此処に向かわせ、ギルスーレの指揮の下、50の部隊と妻達とペット達の中でも破壊力の高い攻撃が持ち味のドラゴンライダー3組も投入している。
宇宙要塞は、直径3,000km。
其れに対して、此方は20m級のゴーレムが300ちょっと。
敵は恐らく、突入作戦を警戒するだろうが、そんな事はしない!!
外から、ガンガン攻撃して破壊してしまう予定だ!!
「それでは、お館様。第3陣も出撃致します」
「ああ。津波被害で地上は混乱したままだろうが、油断はするなよ、シエラールル」
「はい、畏まりました」
「ラム、クリシュナ、レン、シロネコ、ミケネコ、トーメー達も強力な実験機なんかが有るかも知れないから、油断しない様にな」
「分かりましたわ、あなた」
「ふむ、我としては、多少骨の有るヤツが居た方が…………」
「ナラシンハ。そうな事言ったら、本当に出て来ちゃうわよ」
「ボクも頑張って来ます、レンジさん」
「…………私は、超大型実験機の登場を期待している……」
「レン奥様、其れだと、おいら達も巻き込まれちゃうにゃ。まあ、別に良いんだけどにゃ」
第3陣は、惑星シータ突入組みだ。
目標は、20ヶ所。
チームは3つの大陸に各1チームづつで、異世界召喚魔導具の回収が5ヶ所、研究施設破壊が10ヶ所、移動予定ルート上に有る要塞破壊が5ヶ所だ。
異世界召喚魔導具の回収を行いつつ、研究施設は兵器開発の妨害をするのが目的なので、破壊行為は基本大雑把で良い。
但し、人数は少ない。
ラムとシロネコとリンドレージェ、クリシュナとミケネコとガリー、レンとトーメー一家とシエラールル、此処にメイド部隊と諜報守護部から5人づつだけだ。
メイド部隊と諜報守護部の人選も基本は移動速度の速さ重視なので、アスモデウス領出身者や元天女種族等の獣人種族が中心だ。
スィオーやスイージュも此処に入っている。
各チームのルートは最短の予定だが、其れでも大陸横断くらいの距離感がある。
しかし、このメンバーなら移動だけなら数時間で出来るだろう。
施設の破壊を行っても恐らく1日掛かる可能性は殆ど無いと思う。
因みに、第4陣は、オレとシロリュウ、以上だ!!
第4陣は、シルバーウィングの守護と状況によっては遊撃に出る。
もちろん、予備戦力として即出撃可能な状態で、ハンガーで待機している者も居る。
準備は万端だ。
全員が出撃し、オレは持って居た黒縁メガネを掛ける。
オレの機動兵器の周囲に、“ディファレントルーム”から、次々と“赤い空中監視魔導具”が溢れて来る。
宇宙用に改良した、“千の目2”だ。
太陽に突っ込める位の強度にして、移動速度を上げて、擬似ワープも追加している。
各部隊に向けて、千の目を放った…………
さあ、戦闘開始だ!!
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キスラエラの専用機は、例によってルナルーレとお揃いだ。
カラーリングは装備同様に、キスラエラはネイビーでルナルーレがパールホワイト。
形状の違いは髪型だ。
キスラエラはセミロングで、ルナルーレがロング。
この2機は、首から下をマント状の装甲で覆っている魔法戦モードと、マント装甲を後ろに展開した近接戦モードの2種類の戦闘形態が有る。
これから開戦する状況の指揮官機。
もちろん、今は魔法戦モードだ。
シルバーウィングの出現とキスラエラ達の接近に、敵要塞からワラワラと宇宙船や戦闘機、機動兵器が出撃して来る。
「全員、先ずは牽制を行うが、前方に味方機は居ない!!
要塞そのものを破壊するつもりで撃て!!
ネーレウス様もケートー様もキキリンさんもお願いします。
行くぞ、全機、魔法攻撃開始!!」
キスラエラの指示に、メイド部隊達は、お互いの魔法が干渉し合わない様に直線進行の魔法を放つ。
遥か彼方の宇宙要塞の周囲で、魔法が着弾するのを見計らって、キスラエラとクロクジラは水属性、シロクラゲとキキリンは雷属性の巨大なレーザー砲の様な魔法を放つ。
特に、クロクジラとシロクラゲの魔法は、デカい!!
凄まじい閃光と共に、2人の魔法は、一瞬で宇宙要塞を蒸発させて、宇宙の彼方に消えて行った…………
「……………………作戦終了。全員、シルバーウィングに帰投します…………」
「…………あの……キスラエラさん、私達の出番は…………」
エリカとヒィは、まだ、何もしていない…………
「…………シルバーウィングに戻って、ご主人様の指示を仰ぎましょう…………」
エリカとヒィのロボットが項垂れていた。
中の2人が、何も考えずに項垂れているのだろう…………
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「あ〜〜あ、キスラエラ奥様、やっちゃったっスねぇ〜〜……。
ボスじゃ無いんっスから、ケートーとネーレウスの魔法をまともに受けたら、あんな石ころ消し飛ぶに決まってるっス」
「そうだな。オレ達の標的は、デカくて幸いだ」
「でも、ボク達のブレスが貫通しちゃったら、中の人達がみんな宇宙に投げ出されて終わっちゃうんじゃ…………」
クロリュウ、ホネリュウ、アカリュウの3竜トリオは、一瞬で蒸発した宇宙要塞を見て、落胆するキスラエラ達を想像していた。
「そうですね、アカリュウさんの言う通りだと思うので、私達は表面から壊して行きましょう。
お父様のご指示は粉々なので」
「あの、リムさん。
主様は、粉々にしても良いと仰られたのであって、粉々にして来いとは…………」
「そうですね、リムさん。
ご主人様の命に従い、カケラも残さず粉砕しましょう!!」
「えっと、だからね、セリン。
別に粉々にしないといけない訳じゃ…………」
「奥様方、幸い、第3陣は移動がある為、時間が掛かるでしょうから、我らは落ち着いて着実に参りましょう」
「そうですね、ギルスーレさん。
では、指示をお願いします。行きましょう、シェーシャ様」
「了解っス!!」
クロリュウが先行して、アカリュウ、ホネリュウも、どんどん溢れて来る敵要塞を守る機動兵器達に向かって行く。
セレンの言葉を完全に無視して…………
因みに、セレンは優しさで「粉々にしてやろうぜ、イエイ!!」と言ってるヤツらを止めようとしていたのでは無い。
セレンは幼い頃から公爵として戦争の在り方を学んでいた為に、敵に必要以上に被害を出さず、出来るだけ奪った方が有効だと考えていただけだ。
残念ながら、敵に情けを掛ける様なモノはウチには居ない…………
クロリュウ達3人の専用機は基本は同じだ。
カラーリングは、黒、赤、白で、形状はメカ竜だ。
クロリュウは通常だが、アカリュウは尻尾が龍で、ホネリュウは頭が骨っぽいデザインになっている。
武器に関しては、3人が普段使っている物と同じだ。
其れに騎乗するリム達の専用機だが、リムの専用機は本人のたっての希望でラムと同型だ。
先ず先に、ラムの専用機を作った。
ラムがフルプレートを着込んだ姿をイメージしたので、全くもって必要無いが、胸が大きくて腰もしっかり括れている。
次のリムの専用機は、リムの体型に合わせたモノにするつもりだったのだが、其れを察したリムが「私の専用機も、お母様と同型でお願いします!!」と、有無を言わさぬ目力で言って来たのだ。
正直言って、手足の長さや胸の大き…………体型の違いによる重心の取り方等、若干の違和感が出るのでは無いかと思ったのだが、本人の強い希望だったので同型となった…………
因みに、レンも同型だ…………
オレとしては、慎ましいのも2人の良さだと思うし、オレがそう思っている事も2人共、理解していると思うが、其れは其れ、此れは此れなのだろう…………
ラム、リム、レンは、鎧のデザインに多少の違いが有るが、セレンとセリンに関しては完全に同じデザインだ。
イメージはヴァルキリーで、大きな翼も機体の体型も基本は本人達と同じだ。
唯一の違いは翼を畳んだ時だけで、此れはハンガーへの収納の為に本人達の翼よりもかなりコンパクトに畳める様にしている。
「奥様方は正面を。
第1隊はオレと共に、この場で奥様方の取り零しを排除。
第2〜10隊は右、第11〜20隊は左、第21〜30隊は裏、第31〜40隊は上、第41〜50隊は下だ。
各方面、2部隊は、後方でフォローと取り零しの排除。
残りは出入り口を潰しつつ、表面から順次破壊して行け」
ギルスーレの指示に、各部隊長の隊長機に続いて散開して行く。
待機部隊は自分達の部隊だけと云うのは、慎重なギルスーレにしては珍しい采配だが、恐らく万が一の場合には、一瞬で終わってしまったキスラエラ達の増援が計算に入っての布陣なのだろう。
各部隊が移動する中、真っ先に戦端が開かれたのは、言うまでもなくリム達ドラゴンライダー3組だ。
敵兵は、正に宇宙戦争用の量産機そのままの姿だった。
唯一の違いは、各所の排熱フィンが無い事くらいだろう。
動力源が核融合炉では無く魔力や魔核だからだ。
宇宙船に関しては、何処かで見た事がある様な長細いのも居れば、完全にアダムスキー型UFOの様なヤツも居る。
敵部隊は、宇宙戦争っぽく隊列を組んで、ライフルから“光属性魔法”を一斉に放って来た。
かなりの弾幕だが、クロリュウ達は減速すらせずに全て躱しながら接敵して行く。
「じゃあ、リム奥様、この辺から行くっスか」
「はい、シェーシャ様。では…………行きます!!」
リムが大きく振りかぶって、魔力を込めて槍を投げる!!
槍は“水属性魔法”で、巨大な傘の様になった。
そこに、クロリュウが、黒い稲妻を纏ったブレスを放った!!
直径500m程の黒い稲妻を纏った水の傘が、敵兵やUFOを巻き込みながら、敵要塞に大きなクレーターを作った。
本来、“雷属性魔法”はその性質上、味方を巻き込みがちだ。
なので、単独時の範囲攻撃に用いられる事が多い。
しかし、此方も性質上、水の中に範囲を絞ると有用性が一気に上がる。
リムはブランドの血筋のせいか、魔法攻撃が得意では無いが、高レベルの魔族だ。
魔力自体はもちろん高い。
槍の投擲で、攻撃速度を出して、リムの余っている魔力をふんだんに使い大きな水の傘を形成、殲滅力の高いクロリュウの“雷属性魔法”を重ねる。
非常に理に適った良い攻撃だ。
その後も、もっと大きくしてみたり、もっと早く投げてみたりと、このコンビネーションの練習と言わんばかりに、どんどん槍を投げていた。
「私達は、先ず接近戦から行きましょうか、アカリュウさん」
「そうですね、セレン奥様。そうしましょう」
アカリュウが手甲剣を振るい、次々と敵機動兵器を切り捨てながら、どんどん前進する。
敵の宇宙船近辺まで行った頃には、周囲は敵だらけだ。
「アカリュウさん、行きます」
セレンの声と共に、アカリュウは尻尾を縮めて翼を畳む。
すると、セレンは大鎌を縦横無尽に回し始め、その遠心力のまま、大鎌を巨大化した!!
アカリュウが翼を畳んだ事で近付こうとしていた敵も、ライフルを撃とうとしていた敵も、眼前の宇宙船も、直径600m範囲内のモノは、瞬く間に斬り刻まれた…………
「では、敵も距離を取ろうとするでしょうから、此処からは各個撃破で行きましょう」
「はい!!」
その後、常に移動しながら、前後と下はアカリュウの剣と尻尾からの魔法が、左右と上はセレンの大鎌と魔法が飛び交い、余す事無く、敵機を殲滅して行くのだった…………
2人共、オレの所に来るまで、碌に戦って居なかった筈だが、完全に歴戦の戦士の風格だ……
嬉しい様な、悲しい様な…………
セリンとホネリュウ。
この2人は敵陣に突っ込んでは、お互いに背中を預ける様に、撃破数を競い合う様に、ゴリゴリとブった斬っていた…………
ドラゴンライダーは、只の移動手段の様だ…………
戦況を見守るギルスーレ…………
状況を把握する為か、非常に鋭い眼光だ…………
しかし、1万倍近い敵戦力に対して、此方が一方的過ぎて、非常に暇そうだった…………
大丈夫だ、ギルスーレ!!宇宙要塞の攻略なのだ!!
まだ未完成の超巨大試作機とか、足なんて飾りな最新機とか、隠し球がきっと有る!!
だから、油断していない、おまえは間違っていない!!
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「…………ふむ……。見た目だけ、特殊でもな…………」
「ナラシンハ様、もしかしたら、何か特別な能力が有るかもしれませんわ」
惑星シータに降り立った第3陣。
ラム達は、先ず大気圏突入と同時に、異世界召喚魔導具の有る研究施設へと着地、そのまま、異世界召喚魔導具を回収していた。
そこに居たのは宇宙にも居た、量産型代表の機動兵器達で、適当に破壊しつつ、その場を後にした。
そして、次の要塞も難なく破壊して、次の研究施設へ。
そこに現れたのが、今目の前に居る連中だ。
“多脚戦車”。
移動手段がキャタピラでは無く、蜘蛛の様な脚が6本生えている。
しかし、どう見ても強敵では無く、地上殲滅用の低コスト機だ。
サイズも6m程と小さい。
そのくせ、数だけは異常に多かった。
辺り一面、多脚戦車だらけだ。
「そうだな。
確かに主の例も有る。油断はせぬ様にしよう」
「ですが、折角沢山居るのですし、撃破数競争に致しましょうか、リンドレージェさん?」
「畏まりました、ラム奥様。
では、各自、特殊攻撃に警戒しつつ撃破数をカウント。
敵機からの攻撃を受けた者は失格だ。
優勝者には、ラム奥様から賞品が出る」
我が家の暗黙のルール…………
勝負や競争を持ち掛けたら、言い出しっぺが賞品を提供する。
言い出しっぺは、勝っても何も貰えない。
はっきり言って、勝負を持ち掛けた所で、本人には何のメリットも無いのだが、ちょくちょく行われている様だ…………
オレの様に、相手の希望を聞く訳では無い様だが、負けた場合は相手の好みに合わせてプレゼントを上げているらしい。
みんな、退屈なのかな?と、思ってしまう…………
哀れな、何の特殊装備も無い、多脚戦車達は13人の虐殺者達のポイントになって行った…………
惑星シータ突入部隊のクリシュナ達は…………
「クリシュナ奥様、次の目標が見えて来ました」
「分かりました、ガリーさん。
其れにしても、今までのとは比べ物にならないくらい大きいわね…………。
レンジさんが言ってた強力な実験機とかが、本当に出て来そう…………」
「クリシュナ奥様。クルス様が、そう言ってた?」
「ええ、スイージュさん。
もしかしたら、そう云う実験をして居るかもしれないから気を付ける様にってね」
「分かった。
ガリーさん、建物ごと壊す?」
「そうだな。
スイージュの案もありだな。
どうでしょうか、クリシュナ奥様?
今回は、お館様も遠慮は無用と仰せでしたし」
「え?でも、其れって、さっきのキスラエラさんと同じで、何にもしないまま終わっちゃうんじゃ…………」
「危険なら、先制攻撃は当然」
「…………そうだね、やっちゃおうか」
「畏まりました。
全員、敵戦力は機動兵器の可能性が高い、“雷属性魔法”で建物ごと殲滅する。
此処から攻撃し、地下が有る可能性も踏まえて、地中迄を攻撃範囲とせよ。
用意……………………放て!!」
ズガガガ!!ドガガガ!!ズガンッ!!ドガンッ!!ドッカーーーン!!
と、轟音を立てて、前方の研究施設は、クレーターとなった…………
「では、次の目標に向かいます」
ガリーは何事も無かったかの様に、次の目的地へと向かい始め、配下達が続く。
「…………ちょっと、やり過ぎだったかも…………」
「…………ボクもそう思うよ…………」
クリシュナとミケネコの呟きだけが、風に流れて行った…………
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「…………あれが最後の研究施設、きっと彼処に、超巨大実験機が居る……はず……」
「確かに、今迄で1番デッカいにゃ。
もしかしたら、居るかもしれなにゃいにゃ。
まあ、毎回言ってて、一回も居なかったけどにゃ」
「では、レン奥様。
今回も外壁への攻撃から、敵を燻り出す形で宜しいでしょうか?」
「…………うん、シエラールルさん……」
レン達のチームは、今回の作戦で全ての建物を外壁から徐々に破壊していた。
レンの「超巨大実験機と戦いたい!!」という希望を叶える形で敵を誘き出す為だ。
本来であれば、シエラールルが此処まで効率の悪い戦闘を諌める所だが、今回のこのチームのメイド部隊メンバーは、スィオー達、元天女種族の5人だ。
この5人は、元々持って居た“不老不朽”を活用した自爆テロの様な戦闘を繰り返していた所為で、無意識に捨て身の行動を選択しがちだった。
なので、回避優先の戦闘を実戦で身に付けさせる為に、敢えて敵に囲まれる様な戦闘をさせていたのだ。
恐らくレンの要望に答えていたのはついでだろう。
そして、壁を破壊し、内部も破壊して行ったレン達の前に、とうとう待望の“超巨大実験機”が現れたのだが…………
「……………………」
「……あれに一体何の意味が有るにゃ?
人間の考える事は分からんにゃ…………」
「レン奥様、お待ちかねの“超巨大実験機”の様です。
どうぞ、ご遠慮なく…………」
「……………………」
レン達の前に現れた、“超巨大実験機”…………
その姿は、巨大なアダムスキー型UFOから手足が生えただけだった…………
そして、其れは1機だけでは無かった……
手足が何方もUFOの下から生えているモノ、何方もUFOの上に生えているモノ、足が下に手が上に生えているモノ、手が下に足が上に生えているモノの4機だ…………
100歩譲って、3つ目迄は我慢しなくも無いが、4つ目は果たして試しに作ってみる必要性は有るのだろうか…………
「…………トーメーさん達、一緒に倒しに行く……」
レンの出した結論は、“もしかしたら、強いかも知れないから一応倒しに行く。
でも、アレの相手を1人でするのは恥ずかしい”だった様だ。
「にゃ?おいらもかにゃ?
なら、おいらは、あの手足逆さまのヤツを殺るにゃ。
何であんな事になったのか気になるにゃ」
「…………分かった。
私は、足が下で手が上のに行く……」
「でしたら、私とクリアで、両方下をクリカとクリサが両方上を担当します」
と、バイラヴィ。
その言葉を合図に、6機は自分達の担当UFOへ駆けて行った。
バイラヴィとクリア、クリカとクリサの向かった2機は、一体何の為に手足が有るのか不明な感じで、浮かび上がって、“光属性魔法”の砲撃をビシバシ撃って来たが、それだけだった…………
トーメー一家達の専用機も専用装備も、基本的にはシロネコ達と同じモノで狼バージョンだ。
武装のデザインが風をイメージしたモノで有る事と、武器の鏃がワイヤー付きよりもワイヤー無しの方が数がかなり多い事の違いが有るだけだ。
理由は、飛び跳ねるネコと、走る狼との動きの差だ。
バイラヴィ達は、ワイヤー付き鏃で地面にUFOを叩き付けてから、ワイヤー無しで蜂の巣にして行き、危なげなく勝利した…………
「う〜〜ん……。こうするなら、何で手足が逆なんだにゃ?」
トーメーが向かったUFOは、登場時と同じ様に逆立ちの様に手で歩いて迫って来た…………
そして、何と、片手逆立ちになって、殴り付けて来たのだ!!
もちろん、トーメーは、スッと避ける。
「足で踏み付けた方が、絶対良いと思うにゃ…………。
にゃ!?何でそうなるにゃ!?」
トーメーが驚くのも当然だ。
オレも驚いた。
何と、UFOの下部から、更に2本の手が出て来たのだ!!
そして、片手逆立ちでバランスを崩して倒れ掛けていた所を支えたのだ!!
トーメーの言いたい事は分かる。
『それなら、何故、手足を逆にしたのか?
バランスが悪いなら、何故、最初から4本共出して置かなかったのか?』
オレにも全く理由が分からない…………
手が4本になった事で、UFOは2本の手でトーメーに殴り掛かる。
しかし、トーメーは此れもスッと避ける…………
「…………全く意味が分からないにゃ…………。
一体、何がしたいのにゃ?」
2本の手で立って、2本の手で殴り掛かったUFO…………
しかし、円盤の下に手が4本なのだ。
もちろん、バランスが悪いに決まっている。
殴り掛かった後で、また、倒れ掛けて、もう2本手が出て来た…………
「にゃ?!もしかしたら、足も増えるのかにゃ?」
トーメーの好奇心は、オレも共感するところだ。
オレも気になる。
トーメーは空中を駆けて、UFOの上部へ攻撃を仕掛けようとする。
すると、パンチとは比べ物にならないくらいの鋭いキックが迫った!!
トーメーは、軽々と避けたが、その後も2本の足の連続攻撃は止まらない!!
アダムスキー型の上の丸い部分が、腰の捻りの様にクルクル回って、変幻自在な蹴り技が次々とトーメーを襲う。
しばらく避けていたトーメーだったが、少し距離を取ると蹴りは止まって、逆立ちが迫って来た。
「足の方は増えないのにゃ。
でも、足の攻撃が主体みたいだにゃ〜…………。
つまり、“対空近接戦闘型”って事にゃ?
対空なのに、近接用って一体何の意味が有るのにゃ?
それに、人間は殴りよりも蹴りの方が威力が高いらしいけど、ゴーレムには関係ないと思うにゃ…………」
トーメーは、このUFOにまだ、疑問を持っている様だがオレは結論を出した。
“コイツは、取り敢えず作ってみた”ヤツだ!!
モノ作りが専門のオレには分かる。
意味を求めても、合理性を求めても無駄なのだ。
ただ、“やってみただけ”の存在なのだ。
結果として、“無駄になる”事も、“何も得られない”事も予想出来ていて、それでも“一応やってみた”、そんな存在だろう。
トーメーは未だ気になる様で、足を斬り飛ばしてみたり、手を斬り飛ばしてみたりして、反応を確認していたが、結局、手が8本と足が4本生え変わっただけで、それ以上の攻撃や変化が無いと分かると、飽きてしまったのか、バラバラに斬り裂いて終わった…………
「結局、何がしたかったんだろうにゃ〜?」
トーメーの疑問が晴れる事は無いだろう。
おそらく、意味は無いだろうから…………
レンは、帰ったらお仕置きだ!!
レンは、クリシュナに並ぶ程、レベルが上がっているし、戦闘技術も高い。
そして、相手はどう見ても、“失敗作”だ。
しかし、油断が過ぎた。
レンが向かったUFOは、レンを踏み潰すべく巨大な足で踏み付けて来た。
もちろん、レンは簡単に避ける。
そして、足を斬り飛ばすべく飛び上がった。
すると、真後ろから攻撃を受けてしまったのだ!!
踏み付け攻撃の追い討ちや躱された時用の対策だろう。
足首から大量のマジックハンドが出て来て、後ろからレンを殴ったのだ。
キチンと警戒していれば、突然の真後ろからの攻撃でも受ける事は無かっただろうが、レンはこのUFOの見た目で、完全に舐めていたのだ。
もちろん、オレ作の機動兵器の装甲に、こんな程度の攻撃が効くはずも無いが、レンの慢心は戒めるべきだ。
攻撃を受けてしまった恥ずかしさから、レンはUFOの両足をぶった斬るとその勢いのまま上部に行く。
そこに、今度はUFOパンチが来るが、もちろん、レンは余裕で避ける。
そして、今度は手首から“攻撃が飛んで来た”。
今度はレンも警戒している、しかし、ステータスの高さが今回はあだになった…………
敵が撃ち出したのは、“可愛いぬいぐるみの数々”だったのだ…………
普通は、高速で飛んで来るモノが在れば思わず避けてしまう。
しかし、レンの動体視力は、それが“可愛いぬいぐるみ”だと認識してしまった…………
レンにとっては、そこまで速い訳では無い…………
思わず、ぬいぐるみをキャッチしてしまった…………
もちろん、敵の攻撃なのだ。
ただのぬいぐるみで在る筈は無い…………
ぬいぐるみ達は、大爆発したのだった…………
お冠のレンは、UFOをバラバラに斬り刻んだ…………
▪️▪️▪️▪️
「お館様、第3陣の全機帰投を確認、異世界転移魔導具も全て回収。
此方の被害は、レン奥様の心の傷だけです」
シエラールルの報告に、レンが、ガーーンッと、頭上に文字が見えそうなくらいショックを受けている。
トーメーの機体は、ピクリとも動かないが、おそらく、接続を切って腹を抱えて笑っている事だろう…………
「ああ、見てたよ。
レン、今日は、居残りだ」
「…………はい……」
レンは、グデーーンッと、項垂れていた。
「お館様、惑星の裏側の宇宙要塞が2隻、此方に向かって来ております」
セバスの報告を聞いて、レンがガバッと此方を見る。
ずっと、待機しっぱなしのキスラエラ達、第1陣もソワソワしている。
「そうか、なら、第1陣も第3陣も戻って来たし、その2つは、オレの獲物だな」
「そうですね、主様。では、参りましょう」
と、シロリュウ。
さっさと、戦場に向かうオレ達に、
「「「ああ〜〜……」」」
と、言いながら、レン、ヒィ、エリカが手を伸ばしていたが、振り向く事無く飛び立った。
元々、増援が来た場合には、オレが出るつもりだった。
戦力的な問題では無く、幾らか生き残らせて、オレ達が撤退して行く様を見せる為だ。
今回、オレ達は惑星エータから惑星シータに攻めて来た様に見せ掛けようとしている。
なので、標的以外が遠方から観測するだけであれば、そのまま見逃し、向かって来た場合には、ある程度生き残らせて惑星エータに帰って行く所を見せて報告させる必要がある。
惑星エータからの逆襲だと勘違いさせて、二度と他の星に攻めて行こうなどと考えない様にする為だ。
なので、オレがたった1機で蹂躙して見せて、圧倒的な戦力差を見せつけつつ、“殺気コントロール”で、心をへし折る予定なのだ。
オレはシロリュウの上に仁王立ちのまま、背の刀と鞘を展開する。
敢えて、敵軍が部隊を展開出来る様に、急がずゆっくりと近付いて行った。
敵の宇宙要塞は、リム達が攻めているモノの小型版の様な球体が2隻だった。
いや、リム達が壊しまくっていると言うべきか…………
小型版と言っても直径10kmは有る巨大な物体である事に変わり無い。
中から、次々と宇宙船や機動兵器などが出て来て、要塞を守る様に広がって行く。
敵が陣形を組んで、“光属性魔法”ライフルの一斉射を行なって来たが、オレは敢えて避けず、周囲に結界を張って、全ての攻撃を受けながら、前進し続ける。
ライフルでは無理だと考えたのか、バズーカの様なモノから色々な属性の魔法を撃って来たり、宇宙船から砲撃してきたりしたが、一切合切無視して前進し続ける。
接近戦を仕掛けられても、結界で防ぐだけで、そのまま、前進し続ける。
そして、周囲が敵兵だらけになったところで、“殺気コントロール”で、軽く殺気を放ってから、刀と鞘を放って、辺りの敵機を蹂躙して行った…………
その後、遠方からの攻撃にまた、切り替えて来たところで、各属性の魔法を放っては、適当に撃墜して更に進む。
1隻目の宇宙要塞に到達したところで、腰の刀を1刀、ゆっくりと抜いて上に翳した。
オレの装備は、長さの制限は設けていない、敢えて今後の展開が分かる様に、グイグイと刀を伸ばして、刀身を20kmにして、宇宙要塞が斬り裂かれて行くのが分かる様に、ゆっくりと振り下ろした…………
その後も、宇宙要塞を何度もゆっくりと斬り付ける。
周囲に集まって来た敵機は、魔法で適当に撃墜していたが、とうとう誰も近付いて来なくなった。
ある程度、宇宙要塞をバラバラにして、もう1隻の宇宙要塞にもゆっくりと向かって行く。
もう1隻は、既に逃げようとしていたが、少し強めに殺気を向けてから、6本の刀も長さ20km迄、巨大化して串刺しにして行く。
先程の1隻目をバラバラにしながら、移動系統の魔導具と、動力源の位置は把握しているので、そこだけは壊さない様にしながら、ザクザク、刺して行った。
しっかりと穴だらけにした頃には、宇宙要塞は、かなり離れていたので、刀と鞘を元に戻して、また、ゆっくりと、シルバーウィングに戻ったのだった…………
▪️▪️▪️▪️
残りの異世界召喚を行なっている惑星は、デルタとイプシロンだ。
デルタに関しては、放置して、必要になったら対処する事に決定した。
この星は、虫人種族が多種居た星なのだが、大規模な戦争を行なっていた影響で、文明の殆どが失われていた。
現在は、各地に小規模な集落で生活しており、大きな組織や国も無い。
更に、この星の異世界召喚は、条件付きスキルによるモノだったのだが、現在はそういったスキルを保有している者も居なかったのだ。
なので、今後、この星でも国が出来、国交を結ぶ事が可能になったら、その時は異世界召喚禁止の法律を作って貰える様に働きかけて行く事になった。
残すは、惑星イプシロンのみの筈だった。
筈だったのだが…………




