第24章 初恋①
初恋①
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王都ロウ、王都パイ、王都ザンへの出店が終わり、惑星ゼータとのやり取りはダルグニヤンに任せる様にして、王都以外の出店計画を進めて貰い、オレは次の星、惑星ベータについて会議をしていた。
そこに、来客があった。
「お館様、ロウの国のヒィ王女殿下が面会を希望されています」
「オレにか?
ロウ支店に来ているのか?」
「いいえ、サーラールの本部に来られております」
「…………お転婆姫の名は伊達じゃ無いな…………。
分かった、今日の会議が終わったら会おう。
夕食にも招待しておいてくれ」
「畏まりました」
ロウの国のシン王には、3人の娘が居る。
上の2人は既に結婚しているが、何方も王城に住んで居る。
しかし、逆に未婚の3人目は、基本、王城には居ないらしい。
シン王の心労の7割くらいが、この3人目のお姫様だ。
1,000歳は越えて居るそうだが、未だに恋人が居た事も無いらしく、趣味と実益を兼ねた魔獣狩りを1年中やっていて、偶に王城に戻って来ては、何かしらトラブルを起こすか、何かを破壊しては、逃げる様にまた狩りに行ってしまうらしい…………
付いたあだ名が、ロウの国のお転婆姫だ。
惑星ベータについては、もう少し情報が欲しかったので、指示を出してからサーラール本部最上階の方の自宅に向かう。
「王女殿下、お待たせしました。
初めまして、クルス商会の会長をしております、クルスと申します」
「初めまして、クルス様。
ロウの国の第3王女、ヒィと申します。以後、お見知り置きを」
ヒィ王女は、リムの様な印象の人物だった。
小柄で細っそりとした、令嬢という言葉がピッタリな雰囲気で…………スレンダーな体型だ。
唯一、気になるのが、ソファーの脇に置かれた6本の刀だ。
“ディファレントルーム”の無い惑星ゼータでは、武器も手持ちで持ち歩くのが普通だろう。
此処アルファでも、基本は“ディファレントルーム”が使えない者の方が多いので持ち歩いている。
しかし、6本も持ち歩く者は珍しい。
「早速ですが王女殿下、本日はどの様な御用向きでお越し頂いたのでしょうか?」
「はい、クルス様が魔女と魔女の使役する5体のレベル1,000万を超える魔獣を倒されたとお聞きしまして、是非、お手合わせをお願いしたく、参りました」
『…………なんだろう…………。
このパターンは、いつもの、あのパターンか?
1,000歳まで、恋人が居ないっていうのも、フラグなのか?』
「なるほど…………。
しかし、その情報は、間違っていますよ。
オレが殺したのは魔女だけで、他の魔獣は配下の者達が殺しましたから」
「そうなのですか?」
「ええ、お父上にも、その様にご説明しました。
お父上にご確認されるのが宜しいでしょう。
其れよりも、折角アルファ迄、お越し頂いたのです。
夕食を準備させておりますので、この星の食文化をご堪能下さい」
「…………クルス様。
クルス様は父上の“真眼の力”については、お聞きになりましたか?」
「いいえ、嘘を見抜けるお力が有る事はお聞きしましたが、どの様なお力なのかは尋ねておりません」
「そうなのですか。
父上の“真眼の力”は、“心眼”です。
心の声の色を見る事が出来ます。
そして、私の“真眼の力”も“心眼”です」
「…………なるほど…………。
つまり、オレの『面倒な事にならない様に、誤魔化そう』という考えが見えたと?」
「…………いえ、私の力では、そこまでハッキリと分かった訳では無かったのですが……。
やはり、私が“お転婆姫”などと呼ばれているから御面倒だとお思いなのでしょうか?」
「いいえ。
オレの妻に『私に勝ったら結婚してあげる』と、言ってワザと周囲を煽った者がおります。
王女殿下が、そのパターンでは無いかと思った次第です」
「…………うっ…………」
「王女殿下。
本日は、アルファの料理を堪能して、事の真相については、お父上に確認して頂くと言う事で宜しいでしょうか?」
「…………はい、そうさせて頂きます…………」
トラブルメーカー、お転婆姫、ヒィ王女をオレは、甘く見ていた…………
良い悪いでは無い。
トラブルメーカーとは、悪意が無くともトラブルを巻き起こすから、トラブルメーカーなのだ…………
ヒィ王女も気持ちを切り替えて、食事を楽しんでいた…………
食後にも、妻達と和気藹々と話していた…………
話しの内容が、アルファの魔獣の強さや冒険者、ゼータでは魔獣狩りと云うそうだが、その強さなどの、女子トークらしからぬ話題だったが、仲良く話していた…………
しかし…………
「皆さん、お強そうですが、やはり、クルス様に負けたから、ご結婚されたのですか?」
と、ぶっ込んで来た。
そして、夕食前のオレとヒィ王女との、やり取りを知らない妻達が、
「確かに、戦って負けたからと云うのも事実としてはありますけれど、其れ以上に、敗れた時に感じ入るモノが有ったからですわね」
と、ラム。
「私も、お母様とお父様の戦いを見て、感じるモノが有ったからですね」
と、リム。
「私は戦って負けた訳では有りませんが、レンジ様の圧倒的な魔法技術に魅入ってしまったから、心動かされたのだと思います」
と、ルナルーレ。
「私は戦いにすら成らず、一方的に蹂躙されただけでしたが、その姿に憧れ、お慕いしました」
と、キスラエラ。
「私も圧倒的に強かった、レンジさんに、この人ならもしかしてって思ったところがあるかもね」
と、クリシュナ。
「私は戦う力がまだ無かったので、戦いにすらなって居ませんが、主様の殺気を浴びて、この方に尽くす事が私の幸せだと感じました」
と、セレン。
「私は生まれて初めて出会った、自分よりも強い殿方に、恋に落ちてしまいました」
と、セリン。
「…………私もレンジさんの強さに圧倒されて、其れで……」
と、レン。
……………………オレは、妻を倒して、手に入れて来たらしい…………
オレが少し、ほんの少しだけ落ち込んでいると、レンが、
「…………あなたも戦って見れば分かる……」
言ってはいけない一言を言ってしまった…………
「なるほど、戦いの中にこそ真実が有るのですね!!」
『違う、断じて違う』
「そうですわね、戦いの中でしか見えないモノもありますわ」
『ラム、煽らないでくれ』
「ヒィ王女も、ご主人様と対峙されれば、ご主人様の素晴らしさが理解出来るでしょう」
『キスラエラ、やめてくれ』
「僭越ながら、奥様方…………」
『おお、そうだ。シエラールルは、さっきの王女とのやり取りを知っている』
「奥様方の様に、寄り添う事を選ばれた方も、私共の様に、尽くす事を選んだ者も居ります」
『違う!!シエラールル、言うべき事はそこじゃ無い!!』
「そうですね。でも、お父様なら、王女殿下が何方を選ばれても、受け入れてくださいます」
『リム、其れは既に王女がウチに来る事が決定しているぞ!!』
「寄り添う事と尽くす事とは、どう言う事なのでしょう?」
「其れはですね、王女殿下…………」
『ルナルーレ、そこを優しく教えて上げる必要は無い。その前の段階で止めて貰いたかった…………』
「はぁ〜〜…………。
あのな、みんな、ヒィ王女殿下は、“王女”なんだ。
みんなとは違うんだ」
「「「?」」」
ヒィ王女本人を含め、みんな、疑問顔だ。
「あれだろ?
身分や立場をオレが気にするのか?
とか、もっと身分の高い女王やハイエルフがいるじゃないか?
とか、考えてるんだろ?
“姫や王女”は違うんだよ。
責任や立場が有っても決定権が本人に無いんだよ。
キスラエラやクリシュナみたいに、自分1人で決められる訳じゃないんだ。
だから、オレは其れと無く、王女からの手合わせを断ろうとしてたんだよ」
「「「……………………」」」
みんな、やっとオレの、『面倒臭いんだ!!』と、いう表情に気付いてくれた。
普段はとても気遣ってくれるのに、何故か恋バナになると全員がポンコツになってしまう…………
「…………王女殿下、湯浴みのご用意が出来ておりますので、ご案内致します」
ヒィ王女は、妻達の顔を見回す。全員が、サッと視線を逸らせた。
ヒィ王女は、メイド達の顔を見回す。全員が、サッと視線を逸らせた。
ヒィ王女は、オレを見た。オレの営業スマイルに『面倒臭い』色を見てとっただろう。
王女は、ガックリと肩を落として、トボトボと、シエラールルの後を付いて、“出て行こうとした”…………
そう、“出て行こうとした”のだ。
此処で、簡単に引き下がるなら、“お転婆姫”などと呼ばれてはいない。
扉の手前から、一気に戻って来て、オレに斬り掛かって来た!!
ヒィ王女の刀が、オレの首元でピタッと止まる。
そして、ヒィ王女の首、肩、腕、心臓の手前には、妻達や配下達の刀剣や、魔法が止まっていた。
「みんな、良いよ。
殺意が無かったのは、分かっているだろ?」
オレの言葉に、武器や魔法がパッと消える。
全員が一瞬で、元の位置だ。
ヒィ王女は、言葉も無く汗ダラダラだ。
「王女殿下、風呂が冷めない内にどうぞ?」
「はい……失礼します…………」
翌朝、ヒィ王女は、朝食も取らず帰って行った。
しかし、やっぱり、お転婆姫だった…………
その日の夕方、シン王から、“個人的な面会”を求められたのだ…………
やって来た、シン王は、ボロボロだった…………
シン王の話しを要約すると、ヒィ王女は、ウチを出て真っ直ぐ王城に帰ったらしい。
そして、シン王に絶縁を迫ったそうだ。
もちろん、シン王は、断る。
しかし、キチンと理由は聞いた。
「クルス様に手合わせして貰う為」と、いう理由を…………
シン王は、まともな王様だ。
オレに断られたならば、諦める様に言った。
しかし、王女は、お転婆だ。
ならば、王位を賭けて、決闘だと言い出した。
決闘と言われてしまっては、王として引き下がる訳には行かないらしい。
シン王は、惑星ゼータでは最強クラスだ。
もちろん、王女に勝った。
しかし、お転婆姫は其れでも諦めず、負けた2時間後に、また、挑んで来た。
そして、負けて、また2時間後に挑んで来た…………
シン王は、3度目の挑戦に勝った直後に、オレへの面会依頼をしたそうだ。
ゼータには、“神聖属性魔法”は無いので、ダメージの蓄積で、ボロボロになって、やって来た訳だ…………
シン王に、手合わせを受けない理由を聞かれた為、妻達との出逢いを簡単に説明して、手合わせの後に、王女がもし、オレに惚れてしまったら王女という立場上、面倒臭いと正直に話した。
オレの答えに、シン王は悩んでいた。
王として、父親として…………
途中で、ボソッと、本音も漏れてしまうほど、悩んでいた。
「……しかし、このままだとヒィのヤツなら夜中迄、挑んで来そうだし……」とか、「……いっそ、このままクルス殿に嫁いで貰った方が楽になるのでは……」とかだ……
“嫁いで貰った方が楽になる”、重い言葉だ…………
娘が嫁に行くのも、なかなか行かないのも、父親にとっては悩みの種なのだろう。
オレも娘を持つ身として、考えさせられる言葉だ…………
オレは、シン王が悩んでいる間、そっとして待ってあげた…………
「…………クルス殿、ヒィに対して自由恋愛を認めると云うのは如何だろうか?
今回の件で、ヒィがクルス殿に恋慕を抱いても、抱かなかったとしても、ヒィに自由に恋愛と結婚をさせる許可を出すと云うのは」
「しかし、其れでは、今後、お嬢様が産まれた時に困るのでは?
ヒィ王女だけを特別扱いする訳には行かないでしょう」
「其れならば、1,000年以上、恋人が出来なかった王女には、今後も許可を出す事にすれば良いと考えている」
「なるほど…………。
しかし、陛下。
其れは、王女が希望すれば、オレが受け入れるとお考えなのでは?」
「う!!いや、しかし、自由恋愛ならば、振られる事もまた自由な恋愛だろうと思う」
「…………そうですね…………。
なら、王女殿下と一度、手合わせ致しましょう。
陛下、1つ、貸しですよ?」
「分かった。クルス殿、恩にきる」
シン王は、本当に嬉しそうに帰って行った…………
嬉しい理由は、娘の願いを叶えられたからか、はたまた、厄介払いが出来る事か…………
お転婆は本当に行動が早い。
ヒィ王女は、夕食中にやって来た。
「クルス様。父上から自由恋愛の許可を頂きました。
なので、今後、私の恋愛、結婚の決定権は私に有り、国は関係有りません。
其れと、クルス様が手合わせを受けて下さるとも聞いております。
是非、宜しくお願いします」
「分かりました。
しかし、オレから1つ、条件が有ります。
手合わせを受けるのは、“1度きり”です。
今日行うのか、修行をして後日行うかは、何方でも構いませんが、お父上の様に何度もと言う訳には行きません」
「分かりました。
是非、今日でお願いします」
「では、食後にしましょう。
王女殿下も、ご一緒にどうぞ」
「ありがとうございます。
ご馳走になります」
食事の時もそうだが、シエラールルは、当たり前の様に、クルス商会本部から我が家にヒィ王女を案内して来た。
オレが妻として、受け入れなかった場合は絶対に第1メイド部隊に引き入れるつもりなのだろう。
食事を終えて、我が家の訓練場へ。
今日もギャラリーで満載だ…………。
妻達やペット達は、一緒に食事をしていたので分かるが、第1クルス島在住の者まで私服で来ているのは、一体何故だろう?
配下達の情報伝達速度は、無駄に速すぎる…………
「では、クルス様、参ります。“開眼”!!」
ヒィ王女は、6本の刀を持っていた。
腰に2本、背に4本だ。
しかし、予備では無かったらしい。
王女の言葉と共に、肩と肩甲骨の辺りから、もう4本の腕が現れた!!
そして、瞳の色も髪の色も、黒から金に変わった…………
『こ、これは!!“某龍の玉を集める、野菜の星の戦闘民族”!!ツノでは無くて、尻尾なら完璧だったのに!!』
6刀を抜いたヒィ王女は以外な事に突っ込んでは来ず、ゆっくりと間合いを詰めて来ている。
オレもゆっくり、“ディファレントルーム”から、白刃と黒刃を取り出して腰に下げ、抜いた。
間合いの一歩手前で、ピタッと止まると、
「行きます」
再度、オレに一声掛けて、斬り掛かって来る。
初撃は、右腕と右肩腕の横凪だったが、ゆっくりだ。
オレにとってと云う意味では無い。
力を込めて振り抜くのでは無く、流れる様に緩やかな動きだった。
オレは敢えて躱さず、2刀を白刃で受ける。
すると、右肩甲骨腕から、全力の突きが来た。
相手の緩急の感覚を狂わせて、自身は流れる様に連続攻撃を行う。
そういった動きなのだろう。
オレは、白刃の角度を変えて、突きを柄で受ける。
ヒィ王女は一瞬驚いたが、直ぐに左肩甲骨腕が脇下から突きを放って来た。
右肩甲骨腕の突きを受けているところを起点に白刃を一回転。
右の2刀と、下からの突きを払う。
同時に、左足の爪先だけを内側に払って踏み込みを崩し、左腕と左肩腕を黒刃で斬り飛ばす。
そのまま、左腕側にスッと避けると、王女は、たたらを踏んだが、直ぐに低くなってしまった姿勢のまま、オレの足を払いに来た。
そこに白刃を持って行く、王女の左足は斬れて飛んで行った。
しかし、回し蹴りの回転力をそのままに、右腕が白刃を止めて、右肩腕が脇腹、右肩甲骨腕が首を狙って迫って来た。
オレは右腕の3刀を無視して、右足首を斬り飛ばした。
両足を失って、倒れて行く王女は、両肩甲骨腕の刀を投擲して来た。
其れを白刃で払うと、肩甲骨腕で勢い良く跳び起きて、足首の無い右足で蹴りをして来る。
右足は捨てて、囮にしようとしているんだろう。
なので、黒刃で膝を上から貫いて、地面に串刺しに縫い留めた。
王女は躊躇う事無く、自分の足ごと、オレの手首を斬りに来た。
オレは白刃で、右側の3本の腕を纏めて斬り飛ばしてから黒刃を引き抜く。
落下して行く王女の顔面を蹴って、吹っ飛ばす。
壁に激突した王女は、唯一残った左肩甲骨腕で身体を起こした、王女の目は、まだ諦めていない…………
何か無いか、考えている目だ…………
王女は、“火属性魔法”で、自分を吹っ飛ばして、“雷属性魔法”を自分に纏って、突っ込んで来た。
安直で、確率の低い攻撃だが、諦めない姿勢は嫌いじゃない。
何より、3つの瞳が、良い目をしていた。
“神聖属性魔法”の無い惑星ゼータでは肉体の欠損は死活問題の筈だ。
其れでもこの状況であの目が出来るとは…………
オレは白刃を地面に突き立てて、飛んで来た王女の顔面を掴んで、後頭部を地面に叩きつけ、立ち上がってから、“神聖属性魔法”で、身体も体力も魔力も回復してやると、白刃を抜いて5m程離れる。
王女は、一瞬で治った事に驚いていたが、オレがまだ、白刃と黒刃を握っている事に気付いて立ち上がると、落ちていた刀を拾って行き、オレに一礼してから、また、ゆっくりと距離を詰めて来た…………
訓練場に窓は無く日の光は入らないが、夜が明けて、そろそろ昼になろうとしていた頃、ヒィ王女は、オレの前に歩いて来て綺麗な姿勢で正座して、深く頭を下げて、
「結婚して下さい…………」
と、言った。
「実は完璧主義なんだな。
オレが結構早い段階で、好意的だったのは気付いていたんだろ?」
「はい、でも、完璧主義とかでは無くて、私の気持ちと同じくらい、好きになって貰いたかったんです」
「そうか、ありがとう。
ヒィ、結婚しよう」
「はい、不束者ですが、宜しくお願い致します」
ヒィの根性をみんな認めたのだろう。
大きな拍手と歓声が上がった…………
……………………オレはやはり妻を倒して手に入れているのか?




